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【掌編小説】大雪の外

 外は大雪である。私は初めて訪れた喫茶店でひとり、本を読んでいた。天気予報では雪が降る可能性があると言っていたが、ここまでの大雪になるとは知らなかった。窓の外の音は聞こえないが、窓から見える外の人々の様子が少し慌ただしいので、外が騒がしく感じる。その分、ジャズのBGMが流れるこの喫茶店の静謐さが増しているようであった。

 気付けばもう夜の十時である。辺りは雪の白さで夜の十時とは思えない明るさである。雪で覆われた外の世界からこの喫茶店で守られている自分に、少しばかり陶酔していた。

「もう閉店の時間です」と店員が私に近寄り声を掛けた。私は黙っていた。店員は焦った様子を見せず、ただじっと私の言葉を待っている。「もうちょっとこうして居たいんです……」と私がぼそっと言うと、店員はわかっていたかのように私の前にそっと珈琲を置いた。

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