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編みキノコ 放浪記 「女神の泉」(短編)


  童話に出てくるような綺麗な泉のほとりにでた。

 覚えず、目を奪われている間にも光はその色を刻々と変えていく。
 すると突然、水面が風もなく波立ち、ざわざわと光を乱すと、湖から女神が現れたではないか。

「編みキノコよ……」

 女神は浮かび上がり、全身から青い光を放ちながら編みキノコに話しかけた。 

「そなたが落としたのは……」

 編みキノコは困惑した。
 自分は何も落としていない。 

 しかし、編みキノコが口を開く前に、女神は両手を空に向けて差し出した。

「こちらの『逆境の中でも強くあろうとする尊厳』ですか?それともこちらの『自分の弱さを笑顔で認められる強さ』ですか?」

 その手には何ものっていない。

 編みキノコはぽかんとした。
 そしてこう思った。

(何だかめんどくさいのが出てきたぞ)

 仕方がないので黙っていることにした。

 そのうちに女神も飽きて、泉へと帰るだろう。

 しかし、一向に女神はいなくならず、それどころか編みキノコに答えをせがむかのように身じろぎもしない。

 我慢比べのような沈黙がつづく。

 からみつくような女神の視線が痛かった。

「……僕は何も落としていません」

 仕方がない。編みキノコは苦し紛れにそう答えた。

 途端、女神は嬉しそうに飛び上がった。

「なんて正直な編みキノコなのでしょう!これは素晴らしい!それではあなたにはこの『いついかなる時も揺るがぬ自信』をあげましょう」

「いりません」

 あわててそう言ったが、女神は聞く耳を持たずに満足げな表情を浮かべ、泉の水をざばざばと跳ね散らかしながら帰っていってしまった。

 あたりに静寂が戻る。

 そのまましばらくたたずんでいた編みキノコは深いためいきをついた。

 はたして本当に自信がついたのだろうか。

 自信なんてよくわからないものだ。

 そもそも「自信たっぷりな生き方」などは編みキノコ的ではないのだ。

 まあいいや、と編みキノコは思った。

 空を見ると一番星がきれいだった。


〈終劇〉



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