6才と家から100歩くらいの先生

小学校に入ったというのに、入学式以来学校に行っていない娘。学校からの連絡はどのように来るのかというと、親の携帯に三鷹市の市外局番から自動音声での電話がかかって来る仕組みになっています。この自動音声がブツブツした音声なのでママ友たちと「脅迫電話」と呼んでいます。本当に怖いのです…一日に何回も脅迫電話がかかって来るので、取り漏らさないようにしないといけないスリリングさがあります。(取り逃がしても聞けるんだけど…)

昨日、政府から全国的に緊急事態宣言を広げるという声明があったようです。もう情報が追いきれません。これにてみーんな登校できなくなるのだなと思うと、悲しや寂しや。これが小学三年生とかなら、まあ、なんとなく学習はこんな感じで進めておけば良いか、という目安をつけられそうなもんですが、小学校一年生の第一子ともなると本当に訳がわかりません。何すればいいの…?そして自粛が始まってから数日後、上に書いた脅迫電話から「このサイトに問題集がアップされているから見てみてね!」的な助け綱がきたので見てみたのですが、いきなり「5-3」などの引き算の問題が一年生の問題集の1番目のページに出てきたり、漢字ってなあに?の説明が一切ない状態で「木→読み仮名を書きなさい。」という内容だったりして、ママ友たちと「いやこれ復習じゃん」という結論に達しました。俺たちは宙ぶらりんサっ…

なので独自に時間割を組み、主に我が家では父親が主導権を握り、普段からやっていた公文やら子どもチャレンジやらピアノやらに取り組んでいます。私も授業を展開したいのですが、娘が絶賛反抗期(2020/4/1より)のため全くいうことを聞かないのです…言うことを聞かないというより、私の声に耳を傾けないって感じでしょうか…険悪な雰囲気が辛いので、一度カツラかぶってサングラスをかけてボブ・マーレイ先生として音楽の授業をやってみましたが、これがまあ生徒の質が悪く…

娘が少しでも楽しいようにと邦楽アーティスト・相対性理論の「小学館」という曲をワードに打ち込んで、ご丁寧にふりがなをふって印刷をしまして、曲をかけながら、アーティストのバックボーン、歌詞の解釈、曲の構成の解説という感じで授業を進めて、最終的にこの歌の状況…何かに似ていませんか?そうです!コロナで自粛している私たちの今の状況です!と結びたかったんだけど、途中で強引にサングラスとカツラ取られるし、歌詞カードグシャグシャにされるし最悪でした。小学館の歌詞は本当に今の私たちの状況(平凡な人間に限る)ととってもリンクしていますので興味があったら検索してみてください。(結局こんな大変なことになっても大好きだった少年マンガ読めないことが気がかりだったりして…エモ…)

で、まだ6歳ですので体を動かして遊びたい気持ちも多分にありますので、体育と称してうちの裏の公園に連れて行ったりしているんですが(人が多すぎると帰りますが結構穴場なので空いてる)、その公園に行く途中に謎の平屋があって、普通の家屋なんですけど、看板が出ているんですね。コーヒー飲みにきてください。と。半年ぐらい前からでしょうか。それまでは誰も住んでなかったと思うのですが、看板が出だしてから、変な人もいるもんだーと興味を持っておりました。で、今日も縄跳びでビョンビョン走り跳びしながら公園に向かっていましたら、そこの家のお庭に家主のおじさんが出ていてお庭の手入れをしていたんですね。気になったから立ち止まったら、話しかけてきてくれて、家主は私と娘を家の中に招待してくれました。

どうやらその家はアートギャラリー兼、美術のアトリエだそうで、こういっちゃなんだが、狭いお部屋の中に様々な作品が展示されておりました。生徒たちの作品なんだと家主は言いました。お部屋の中はなんというか、芸術家の部屋という感じがすごく、「いやこれ映画じゃん、映画じゃん、出来すぎてる」という警告が頭の中でファンファンでした。娘は遠慮なく「狭いけど素敵な家ですね」と言ってました。いつもなら怒るけど、そういうの気にしてなさそうな人だったので私もハハ…とか笑いました。和室にアラビアンな古い絨毯と丸いテーブル、高く積まれた書物、わかりやすくいうと「人のセックスを笑うな」の永作博美の部屋ですね。あれです。

私は安易にその人を「先生」と呼ぶことに決めました。先生はちょっと難しい話でよくわかんなかったけどおそらく写真の先生のようです。娘は先生の書斎にもズカズカ入って行って、鳥の羽ついたあの消しゴムをサッサッって払うやつとかを手にして、「これは本物の鳥の羽なのですか」とかすごいどうでもいいことを聞いていたんだけど、先生はすごい嬉しそうに本物だよ、とかそうだよ、とか答えてくれました。

で、先生は、奥に写真を現像する暗室があるんだけど…となんか渋っている様子だったんですが、いきなり、見せてあげる!と言って、その奥の部屋に私たちを通してくれました。びっくりすると思うけどね、こんなに暗い場所生まれて初めてだと思うよって言って、布の黒い幕が四方に張り巡らされたせまーいお部屋の中で先生は電気を消しました。娘は怖かったのか、私の手をギュっと握りまして、私も少し緊張しましたが、本当に真っ暗で光が一つもない空間だったので驚きました。宇宙かと思いました。ブラックホールかと思いました。目を閉じるだけとはちょっとわけが違うのですね。こういう場所じゃないと写真は現像できないんだよとおっしゃっていました。そしてあの暗室でよく見る赤いライトもつけてくれました。赤だけは写真に影響しない?とかそんなことを言っていたような。写真のことはよくわからないので、へえーへえーとずっとびっくりしていました。

先生はこの狭い家で小学二年生からおじーさんくらいまでの年の人の美術の先生をしているようで、明日は小学生と美大生が来る予定だよと言っていました。娘は先生の部屋に興味津々でキョロッキョロでした。なんかよくわからないけど先生は娘と相性が良かったのか、娘のどうでもいい質問に延々答えてくれて、小学校の状況や、私たちの家の状況なども聞いてくれて、お父さんとお母さんが仕事で忙しかったらうちに遊びにおいで、何時間でもいていいよ、お腹空いたらおいで、と。そして先生は「先生の仕事を手伝って欲しいんだよ」と娘に言ってくれました。自粛期間中の素敵な出会い、突然「やること」ができた娘、ここだけは治外法権、みたいな感じがして、あまりにも胸が締め付けられる展開ーーー…

絵本とか小説なら、この次の日から娘は足繁く先生のもとに通って、写真の現像を手伝いました。お母さんはその後、不治の病で死ぬけど、気づいたら写真は自分の生きる糧になっていました。とかっていう流れになるんでしょうけどネ…うちの娘まじで話聞いてない。まじで先生の話聞いてない。先生また来ますネっ!とか言って勝手に家出て、ちょっと縄跳び飛んで、また家入って来て、わーとかすごーいとか言って、私だけが話聞いてるみたいな感じで本当に思い通りにならんのです。この映画みたいなムード、彼女にはまだ伝わらんのです。現実はそんなものでございます。

で、とりあえず公園で遊んで家帰りまして、お風呂で先生の話をちょっとしたら「私は先生を絶対てつだうんだ。絶対。」と密かに使命感に燃えていました。明日もちょっと顔だしてみましょうかねえ。三密ですかねえ?

先生のお部屋には森山大道氏のリトグラフ?シルクスクリーン?作品の現物が飾られておりました。オモシロイネ!


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