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第3回「ひとつの文を分解してみる」

「文章の書き方」
編集&ライティング歴40年ほどのフリーライター。120冊以上の書籍化でライティングを担当。
このnoteでは、誰でも文章が上手になるコツを伝えようと思います。特に順序立てて書くわけではありませんので、どの回から読んでいただいてもかまいません。また何回のコーナーになるかも決めておりませんので。暇な時に拾い読みして、参考になる部分だけを実践してみてください。


センテンスは単語の集合体

 一つの文(センテンス)というのは、言うまでもなく単語で構成されています。単語の集合体が文章ということになるわけです。一つ一 つの単語を丁寧に眺めてみてください。一つの文のなかには、大して重要ではない単語もあれば、キーとなる単語もあるものです。

どの要素を主役にするか

 では、 どのようにしてそれぞれの言葉を引き立たせていくか。その手法を紹介しましょう。 たとえば、次のような一文があります。
 「私は妻と結婚して20年になります」
 これはなんの変哲もない一つの文章です。いうなれば「正しく、客観的な文章」ともいえるでしょう。では、この一文から「私」という 一人称を取ってみます。
 「妻と結婚して20年になります」
 このように書くと、「妻」と結婚したことがクローズアップされます。「妻」が主役に躍り出るわけです。では、この「妻」を取ってみ ればどうでしょう。
 「私は結婚して20年になります」
 この文章の主役になるのは「私」です。誰と結婚したかはさして重要ではなく、ともかく自分が結婚して20年が経つということが表面 にでてきます。では「私」も「妻」も取ってみればどうでしょう。
 「結婚して20年になります」
 このように書くと、「結婚」という単語が浮き出てくるでしょう。「私」や「妻」などという人間的な要素が消えることで「結婚」とい う事実だけに焦点が当てられるわけです。

配置変えで大きく変わる

 では次に、単語の順番を入れ替えればどうなるでしょう。
 「20年。それが私と妻が結婚生活を送った時間だ」
 このように書くと、20年という時間がクローズアップされます。「私」が主役でもなく「妻」が主役でもなく、さらには「結婚」が主役でもない。この文章の主役は「20年」という歳月になるわけです。
 このように、同じ事実を書いている文章でも、ある単語を削ったり、単語の配置を変えることで、その文章のもつ意味は大きくかわってくるものです。

いちばんを決めよう!

 自分が何を書きたいのか。いちばん表現したいものとは何なのか。まずはそのことを頭に思い浮かべることで、文章は大きく変わってきます。相手にいちばん伝えたいことは何なのか。そんなことを考えながら書く練習を心がけていれば、自然と文章は上達していくと思います。

表現の変化を楽しみながら

 では、もう一例だけアレンジを加えながら紹介しておきます。
 「私は昨日、彼と渋谷でデートをしました」
 まずは「彼」のことは二の次となる文章。
 「私は昨日、渋谷でデートをしました」
 こう書くと、要するにデートをする相手は彼でなくてもよいということになります。この文章で言いたいことは、私がデートをしたとい うことです。デートをする相手が自分にはいますよというアピールです。
 次は「彼」が主体となる文章。
 「彼と、昨日渋谷でデートしました」
 何はともあれ、彼と会うことがいちばん嬉しいことを表現した文です。すなわちこの文章では「昨日」も「渋谷」も必要はありません。 嬉しさをもっと引き立たせたいのなら「彼とデートをしました」だけでもいいのです。  次に「昨日」という日を引き立たせるとどうなるでしょう。
 「彼と渋谷で会ったのは、昨日のことでした」
 このように書くと、いきなり「昨日」がクローズアップされてきます。いったい書き手にとって「昨日」という日は、どのような日なの だろうか。読むほうはそれが気になってくるでしょう。
 そして次は「渋谷」にフォーカスします。
 「昨日彼とデートをしたのですが、その場所は渋谷でした。
 このように書くと、「私」も「彼」も「昨日」もどうでもよく感じられます。大切なのは「渋谷」で会ったということ。いかにも渋谷という場所に大きな意味があることを感じさせる文章になってきます。

 このように、ほんの少し単語の位置を変えて見たり、あえて書かなかったりすることで、文章が与える印象は大きく変わってきます。 ちょっとしたことで大きく変化する文章を、楽しみながら書いてみてください。

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