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ナツ

京都の大学を選んだ理由は俺を知ってる奴が誰もいないからだ。
『俺』、『奴』なんて言葉遣いは実は今まであまりしてこなかった。
中学高校と俺は大人し目で、目立たないタイプ。
中学の時、上位グループとは違う中間的なグループに居てて
そこそこ楽しかったけど、キラキラと眩しいイケてるグループに憧れていた。
そこで高校ではなんとかイケてるグループにと思って入学早々目立とうと、
校則ギリギリの茶髪にして制服をイジって行ったら、同じ中学の奴らに
「ナツぅ〜、張り切って高校デビューですかwww」
と、いきなりバカにされて笑われた。そう失敗したのだ。
だから今度こそ大学ではイケてるグループでキラキラした学生生活を送るのだ!と、心に決めて親の反対を押し切って地元を離れてこの大学に来た。
地元と比べると京都の大学生はみんながイケてる様に見える。
でも俺みたいに地方から来てる奴も多いから、地方者独特の雰囲気を出さずに
みんなと馴染みながらイケてるグループに入らなと、と入学前のオリエンテーションから気合十分で挑んだ。
高校の時とは違い、変なツッコミを入れてくる奴が居なかったおかげで、
なんとか上位グループに入ることが出来て1年の時は思っていた以上に楽しいキャンパスライフを送れていた。ただ、すごくお金がかかる。付き合いの幅を広げすぎたせいで、誘いを断るとグループから外されるのではと思ってしまって、断れない。親の仕送りもそんなに当てにはならなし、バイトを何件も掛け持ちしているから寝不足気味で講義が辛かった。
2年生になる頃には仲の良いつるむ相手も絞れてきたから、なんとかバイトも落ち着いてきた。
と言うか稼ぎすぎると103万の壁があって、親にこっぴどく怒られた。
「2年生になったらバイトも控えめにして単位も落とさずにちゃんとしてよ。
遊ばすために京都の大学まで行かせたわけじゃないんだから」
と、母親からの小言に
「はいはい。わかってます、わかってます」と適当に相槌を打ってかわしておいた。

同じグループではないけど、同じ学部で最近気になる娘を見つけた。
明るくて、可愛くて、誰に対しても丁寧な対応をする『さくら』だ。
最初「田中さん」って呼んだら
「苗字ダサいから、『さくら』でいいよ」って言ってくれて
それから『さくら』って呼んでる。
京都が地元の娘で、昔からの友達が何人かいるみたいで、その子達と仲良くしてる。
そんな派手なタイプではないけど、みんなと楽しそうに学校に来てる。
中学の時に無理をする必要のない、気の合う仲間と一緒に過ごしていた時を思い出す。
もちろん中学から憧れていた上位グループに居ることは嬉しいけど、
なんか最近は違和感と言うか、しっくりこない。
素の自分を出していないからか、仮面をはめているかのような息苦しさを感じる。
なのにさくらといると背伸びしないでいいと言うか、そんなイケイケの仮面を付けなくても、普通の感じでいれている気がする。

授業が終わる間近、教授に頼まれて教材を運ぶ手伝いをしていたから、
みんなと一緒に昼休憩に行けなかった。1人で急いで食堂に向かっていたら、
偶然さくらに出くわした。
「おぉ〜さくら〜」
っと声をかけたら、何か考え事をしていたのか、目線はこっちにあるけど返事がない。
「ん?どうした考え事?また腹でも減ってるのか?」
「ちょっと、なんでもかんでもお腹が空いていると思うのやめてよね」
「じゃー違うの?」
「いや、当てるけど」
「やっぱり!さくらは可愛いな、素直で」
ホント可愛い。この反応。
こうやってカッコ付けずに普通に話せるこの感じがいいんだよな〜。
2人で話しながら食堂に向かって行った。
オーダーをするための長い列の最後尾に2人でいたら、すぐ後ろに雪が並んだ。

実は雪に少し前に告られていた。告られたと言っても
「好きです。付き合ってください」的なすごいのではなく
「ナツくん、好きな人や気になる人はいる?」
と聞かれて、すぐにさくらの事が頭に浮かんだけど
「いや、今はいないかな〜」
と、誤魔化したら
「私ってどう?」
と聞かれた。初めてだった。告られたの。あれ?これって告られてるよな?
自信がない。だって人生初だったから。
「どうって聞かれても…」
っと、言葉を濁していたら、
「ああ、いいの気にしないで」
っと言われて終わった。
それからは雪の事を意識しすぎて、なんかわざとじゃないけど避けている感じになってた。
その雪がすぐ後ろに居ててビックリした。
「おぉ〜、久しぶり、元気してたか?」
『って、全然久しぶりでもないのに、なんだこの挨拶は』っと自分にツッコミを入れてしまうほど間抜けだ。
「避けてたでしょ。」
ヤバイ、バレてる。いや、違う。わざとじゃないんだ。
「あれ、な〜んだ、さくらと一緒なんだ」
どいうこと?なぜさくらと一緒の事を責められてるんだ。
「いや、違うんだ、そうじゃなくて…」
「もういいよ」
何が、もういいのなんだ〜!わからない、何が起こっている。
さくらが何か話しかけてる。えっなんて言ってる?
あれ、さくらどこに行くんだ?おいおい田中って誰だよ、親戚か?
ちょっと待ってくれ、俺の周りで急に何が起こってる?
「もうすぐオーダーだよ」
っと、雪に促されて前を向いたけど、さくらが知らない男と話してる内容が気になって仕方がない。
「僕はいつもAランチなんだ、和食が好きだし」
「一緒〜、私もどちらかと言うとAランチの和食派」
『マジか。さくら和食派だったのか』
知らなかった自分に腹が立ったのか、それを田中に教えているのが悔しかったからなのか、俺は思ってもいないことを口走っていた。
「俺らはBだな、若者はやっぱ洋食っしょ」
『って、俺らってなんだよ、らって雪を巻き込んでるじゃん』
雪の方をチラッと見たら『私関係ないし』みたいな顔で前を向いたままでいるから俺はどうしていいのかわからなかった。
「確かに洋食も美味しいよね。僕もたまに食べてみるけど、やっぱり和食に戻っちゃうんだ」
『なんだよ田中〜、お前て奴は〜いい奴じゃん。ありがとう、ありがとうな、俺のこのクソダサい会話を拾ってくれて』
「おぉ〜、そ、そうなんだ。それなら俺も今度トライしてみるよ」
なんか嬉しくて普通に答えてしまったよ。

#2000字のドラマ


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