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【短編小説】平穏な日常、不穏な実情


彼との出会いは地元の
とあるライブ会場だった。

彼の歌い上げる歌は
どこか私の中で煌めいて。
その煌めきはいつしか私の中で
恋心へと変わっていった。


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そんな私も彼と交際をすることになる。
私にとってはかけがえのない存在となった。

記念日なんかに特別なことをする
果実が弾けるような、いわゆる
お花畑な女子高生的なものではないけれど。

お互いの休みの日にはドライブなんかしたり。
「疲れたね」なんて言って
車の中で二人で寝た日もあった。
車の中での二人の会話は
世間一般でいうところの
ちっぽけなものかもしれない。

そんなちっぽけな遠くない未来を
たくさんの幸せと共に詰め込んだ。

あの頃は日々が幸せで溢れていた。


私と彼の間には
新しい命が宿った。


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そんなある日だった。


日頃から癖になっているSNSを開いた。
私は目を疑った。
彼のバンドのファンと大好きな彼が
二人きりで写っている写真。
しかも、その相手は妊娠していた。

私の中に広がっていた青く広い空は
嘘かのように瞬く間もなく曇った。

「嘘だ」

人間が言う、幸せだとかの定義が
この世の全人類に否定されるが如く
私の前に事実として現れる。

後日、彼との約束の日。
今日もドライブだった。
私の心情を悟るかのように
今までにないような驟雨に見舞われる。

言いたくもなかった。
聞きたくもなかった。
聞くしかなかった。

「これって、なに?どゆこと?」

彼は言う。

「その子、余命半年なんだ。」
「その間だけ、一緒にいさせてくれ。」

そんなことよりも私にとっては
大きな問題がある。
私のお腹に宿る子だ。

私と彼の間にできた
大切な、大切な命。

彼との会話の中で蘇る思い出たち。
彼を信じたかった。
初めて見たライブを思い出す。
一生懸命に歌う彼の姿は
私にとってヒーローだった。
いや、きっとそれ以上のものだった。

そんな純粋で、真っ直ぐで
煌めいた心は報われることは無い。

彼と1ヶ月に渡り話し合った結果
お腹の子はこの世界を
目にすることはなかった。


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それから半年以上経った今。
彼が言う「余命宣告」された彼女と彼は
幸せそうな笑顔で日々を過ごしているようだ。


嘘をつかれただとか
裏切られただとか
そんなのはもういい。

泡のように消えた幸せだった日々。


今日も雨にふられた。



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