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『嵐を呼ぶレース参戦記』(復刻版)第七話「嵐を呼ぶ仕切りなおし」

◇仕切りなおし編◇

というわけで、一回目の走行ではタイム計測が出来なかったため、ゼッケン12番の私を含め、ゼッケン13、14番が再出走と相成った。

一回走ってコースもちゃんと覚えていたのでもう大丈夫。

今回はkyu氏の同乗がなくても走れるだろう、という自信がついたので、一人で走行することにした。

◇嵐を呼ぶアルトワークス第一ヒート仕切りなおし◇

私は夢中で走っていたので気付かなかったが、仕切りなおし、ということは、今この状況で、サーキットを走っているのは、嵐を呼ぶアルトワークス1台のみ。

つまり、


サーキットと観衆の視線、そして実況も独り占め。


推定3万人の大観衆(大江校長発表)が、私の激走に釘付けである。

みんな見てくれ、私の魂の走りをっ。

中間タイム、1分3秒515。

ゴールタイム、1分47秒694。


ん?

おや?

1分47秒?

確か現在のトップはゼッケン4番の「カローラレビン」の1'31.256。

……16秒遅れ?


現実なんてこんなもんである。


しょうがないのである。

アルトワークスといえど、私の乗っているのはセカンドグレードなのである。

SOHCターボなのである。

RS系ではなく、ieなのである。

世界の中心でieを叫ぶのである。

ieに乗っている私は、ie野郎なのである。

さて、遅いのをマシンのせいにするのは素人にありがちな恥ずかしい行為なのでそろそろやめておこう。

遅いのはいうまでもなく、私の腕の未熟ゆえ、である。

しかし、実は1回目の走行タイムは、ビデオに撮っていたおかげで、大体分かるのである。

参考までに教えてしまうと、1分52秒くらい。

つまりたった一回走っただけで、1分52秒→1分47秒と5秒もタイムアップしていたのである。

(kyu氏を降ろした分、マシンが軽くなって速くなった事も考えられる)

ともあれ、発想を転換しよう。

トップから16秒遅れだったことよりも、5秒もタイムアップした事をこそ、私は誇りたい。

そして、コースを間違えず、パイロンタッチもコースアウトもせずに二回とも走りきった事をこそ、私は伝えたい。


大満足だぞ。


◇kyu氏激走編◇

さて、その後も順調に各車走行を続け、いよいよ「ミドルクラスover170」の番である。

このクラスにはわが朋友kyu氏が出走するのである。

私をこの道に引きずり込んだ張本人である。

さぁ、一体彼はどんな走りを見せてくれるのであろうか。私も助手席に乗り込み、その走りをしっかりと見届けることにしよう。

◇kyu氏第一ヒート走行◇

さて、kyu氏のマシンはスバルが世界に誇る激速四駆、インプレッサである。

公道を走るWRCカー、サーキットでも敵無しのスーパーマシンだ。

なにせ、私のアルトの4倍近い馬力。

水平対抗ボクサーエンジンからひねり出される猛烈なパワーを、スバル自慢の4WDシステムで、余すところなく路面に伝えてくれるのである。

こりゃもう、速いはずである。

加速なんて、もう、大変なのである。


…何を言いたいかというと、スタートと同時に、凄い加速をされたものだから、私は構えていたビデオカメラを顔面にぶつけたのである(笑)

「くぅっ!?」

おかげでピントが狂ったし…。

そして、私のアルトではありえないくらいの速さで、サーキットを駆け抜けるインプレッサ。

おおっ、こりゃぁ速いぞ。

kyu氏のハンドル裁きも絶好調。

これなら文太にも負けねぇぜ!

「ミドルクラスover170」上位入賞の期待を持たせつつ、いよいよ難所の8の字区間へ。

kyu氏がハンドルを一杯に切ると、インプレッサは無事曲がりきれた。

…と、何を思ったか、kyu氏がハンドルを左に切ろうとしているではないか。

これでは8の字ではなく9の字になってしまい、ミスコースでタイム無しだ。

「ああ、ここでないって、こっちこっち」

私も慌てているから、カメラそっちのけで、kyu氏をナビ。

インプレッサ痛恨のストップ。

大幅なタイムロス(笑)。

そしてもう一度ハンドルを切りなおしてゆっくりと8の字をクリア。

もう、2人とも笑いが止まらない。

クリア後、耳をすませると大江校長の実況は…。

「さぁ、タイムは1分38秒741」

「遅~っ(笑)」


kyu氏、不覚。


◇第二ヒート編◇

さぁ、本来なら、延々と観戦していたほかのクラスについても、何か書きたいところだが、時間と紙面の関係上全部すっ飛ばす。

というわけで、早くも私の第二ヒートの模様をお伝えする。

第二ヒートといっても三回目の走行になるのだが、まぁ細かいことは気にしてはいけない。

今回もkyu氏を降ろして、一人での走行。

◇嵐を呼ぶアルトワークス第二ヒート走行◇

さっきよりもさらに慣れたおかげで、スムーズにマシンをコントロールできている。

そして実に楽しい。非常にいい感じである。

この調子で、…と力が入った私、ホームストレートに戻ってきた瞬間やらかしてしまった。

2速全開から3速へシフトアップ!

しかし、なぜか水冷直列3気筒SOHCターボのF6Aちゃんが、ぼへ~、と低い回転しかしてくれない。

アクセル全開なのに全然加速してくれないのだ。

なぜだっ!??

悪夢のエンジントラブルかっ!??


5速に入ってました。


もともとパワーのないクルマなので、こうなるとほんとに加速しない。

多分、ホームストレートの通過スピードは本日の参加マシンの中で一番遅かったに違いない。

しかし、ホームストレート後の中間タイムの計測では…、1分1秒555。さっきより2秒速いぞ。

3速に入れていればさらに1秒速かったに違いない。

さぁ、残りをきっちりまとめれば、おそらくさっきよりさらに4秒くらい速いタイムが…。

1.46.544(-1.150)。

あれ? 1秒しかタイム変わってないし…。

中間で2秒速かったのにこのタイムってことは、後半セクションで1秒遅かったってこと?

ie野郎、ちょっと不覚。


◇kyu氏激走編その2◇

第一ヒートで不覚を取ったkyu氏、今度はウェイト(私)を降ろし本気モードである。

もう、ミスは許されない、とばかり、気合十分でインプレッサに乗り込む。

一方の私は、カメラマンとして、今回は外からの撮影に専念。

kyu氏との腕の違いを見せるべく、ズームなんて高度な機能を使ってみたり。

そして、ズームしすぎて、インプレッサを見失ってみたり(笑)。

◇kyu氏第二ヒート走行◇

中間は1ヒート目の54.150に対し、今回は51.749と、2秒以上速いタイムで駆け抜ける。

が、ホームストレート通過後の、左コーナーを、勢いあまって素通り。

慌てて止まってバックギアという、痛恨のミスをやらかしてしまう。

これで5秒くらい損したはず。

しかし、ゴールしてみれば、1ヒート目の1'38.741とくらべ、1'32.548と、それでも大幅にタイムアップ。

ミスがなければ余裕で1分30秒を切っていただろう。


kyu氏、またまた不覚。


◇エピローグ◇

こうして、マニュアル車に乗りはじめてわずか1週間での、ジムカーナへの挑戦は終わった。

私の順位は「初めてクラス」27台中21位であった。

まぁ、ミスコースをしなかったから、最下位にならずに済んだ、程度の順位ではあるが、それでも一応目標達成である。

(デビュー戦優勝という目標は忘れた)

ちなみに、kyu氏は「ミドルクラスover170」19台中14位と不本意な成績。

次回7月19日の第三戦に向けて、お互い課題が多い一日であった。

しかしながら、今の私はまさに急成長中。

次までにどれだけ腕を上げることができるだろうか。

とにかく、実に楽しみである。

ぜひ次回は初めてクラスでも上位に食い込み、ゆくゆくは軽自動車クラスに参戦したいものである。


表彰式や後片付けなどを終え、私はアルトワークスを駆って家路についた。

クルマの中でかかっている音楽は、ドボルザーク交響曲第九番『新世界より』の第二楽章。

そう、まさに『家路』がかかっていたのである。

『家路(遠き山に日は落ちて)』

作詞者 堀内敬三  作曲者 ドボルザーク

遠き山に 日は落ちて
星は空を ちりばめぬ
きょうのわざを なし終えて
心軽く 安らえば
風は涼し この夕べ
いざや 楽しき まどいせん
まどいせん

やみに燃えし かがり火は
炎 今は 鎮まりて
眠れ安く いこえよと
さそうごとく 消えゆけば
安き御手に 守られて
いざや 楽しき 夢を見ん
夢を見ん

朝の未完成交響曲→レクイエム、というコンボは縁起でもなかったが、今回の選曲はばっちり。

今の私にぴったりの曲であった。

きょうのわざをなし終えた私は、心軽くアルトを走らせる。

昼の熱気が嘘のように、風は涼しこの夕べ。

いざや楽しき12号線。


おあとがよろしいようで。

◇次回予告!◇

こうしてサーキットデビューを無事済ませた私は、それからわずか5日後の6月4日、再び桶川にいた。

今度参加するのはOSL四輪走行勉強会「セカンドステージ」である。

金曜日なので有給休暇をとって参戦した私、kyu氏、T氏。

朝から晩まで走りっぱなし、という超過酷なスケジュール。

限界走行を強いられたアルトワークスについに異変が勃発?

そして、私の身に起きた、恐怖のアクシデントとは?

全国7千万人のグランツーリスモファンを熱狂させるレース参戦記、いよいよ新シリーズへ。


次回、『嵐を呼ぶレース参戦記』第八話


「嵐を呼ぶセカンドステージ」


ご期待ください!

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