『嵐を呼ぶレース参戦記』(復刻版)第十三話「嵐を呼ぶ第二ヒート」
◇競技走行二本目◇
さて、一本目では伝説の「リアハッチ全開事件」を引き起こしてしまった私は、当然のことながら海よりも深く反省し、二本目の競技走行に向けコンセントレーションを高めていた。
言うまでもないが、競技走行は二本のみ。
一本目を走れなかった私は、ここで結果を出すしかないのだ。
まさに、崖っぷち。
すでに、逃げ場なし。
失敗は、絶対に許されない。
全国1億3千万人のファンの期待に応えるため、嵐を呼ぶレーサー、いまこそ最高の見せ場。
モータースポーツの普及、サーキット走行の面白さを読者に伝える為にも、“初めてクラス”優勝を遂げなくてはいけない。
さぁ、いよいよ出番だ。
アルトワークスのエンジンに再び火が入る。
私の闘魂も注入。
ここ一番の最大の集中力を見せて、ぶっちぎりのタイムを叩き出して見せようぞ。
記憶力を総動員し、すでにコースは頭の中に完璧に入っている。
スタートしたら、最初の分岐点で左。
忘れるなよ。スタートしたら、左だぞ。
よし、大丈夫。
順番待ちの車列が無くなり、いよいよ私の番。
視界が開ける。
高まる鼓動。
汗ばむ熱気。
エンジンの音。
私を見つめる、視線、視線、視線…。
大江校長の実況のせいか、すでに私はちょっとした有名人。
ギャラリーの注目を浴びていることが、運転席からでもひしひしと分かる。
そして“チーム直江”こと、我らがB.A.R軍団の3人も、私のスタートを固唾を呑んで見守っているはずだ。
緊張はピーク。
軽く深呼吸。
そして、スタートのフラッグが大きく振られた…。
さぁ、今こそ、私の中の野生を解き放て。
お前は自由だ。
サーキットを駆ける一匹の狼となれ!
アクセルを踏み込む。
クラッチをつなぐ。
軽量コンパクトなアルトワークスが、小気味よく加速する。
タコメーターは一気にレッドゾーンへ。
いいぞ、いい感じのスタートダッシュだ。
これまでで、最高の出足。
いける。
これなら、やれる。
私にも出来る。
マシンとの一体感。
この瞬間、私はまぎれもなく、正真正銘のレーシングドライバーだった。
いざスタート!
まず、最初の分岐点を左に。
左……
通り過ぎてますが…
つまりミスコース…
わずか5秒でさようなら。
まぁ、つまり、その、なんというか…。
一番最初の分岐点で真直ぐ行ってしまいました。
ミスコースです。
二本目も、タイムなしです。
嵐を呼ぶレーサー、直江雨続。
デビュー二戦目のジムカーナは、ほろ苦い一日となった…。
続く……かもしれないが、続かないかもしれない。
◇次回予告◇
ついに前フリは終わった。
いよいよ2004年8月1日、ヒーローしのいサーキットを舞台に、軽自動車のみで争われる、耐久レース「K-Carインターカップ第3戦」に参戦するぞ!
予選のタイムアタックで明らかになった驚愕の事実!
巻き起こる波乱、そしてまた波乱。
果たしてわれらがB.A.R軍団の運命やいかに!?
次回、『嵐を呼ぶレース参戦記』第十四話
「嵐を呼ぶ耐久レース」
ご期待ください。
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