見出し画像

フリースクール活動日記 2023/07/13-葛西

 今日は、葛西臨海水族館を目指す。この行き先は既に、一昨日正午頃に決定された。これら目的地は、僕がレイセンと将棋をうっていたとき既に、3つに絞り込まれていた。すなわち、古代マヤ展、小金井公園、葛西臨海水族館。来週、つまりこの学期の最後、夏休み前の最後の活動先は「海」と既に決まっていたため、決議が採られたのだ。
 そのため初っぱなから葛西臨海水族館は余り人気がなく、小金井公園などとほぼ同数だった。それぞれの代表。つまり、葛西代表のチー君、僕と志を同じくする古代マヤ展代表の龍角散、そして小金井公園を全力で推すヨッシー。彼ら3人の口論はいつまでたっても終わりがなく、このままいけば過去にあったように一日が口論で終わってしまうと感じた。そこで僕も口論に参加し、紆余曲折の後、古代マヤ展は敗退してしまった。
 その後Χαοσの智慧によって、敗色の濃厚だった葛西臨海水族館案は再び盛り返し、ついには小金井公園案を超え木曜日の行き先へと決定した。
 そうして迎えた今日。いつものように集合場所へと向かったのだが、着いてみると意外なことにも誰もいない。この日、人身事故によって一部列車が遅延。いくら待ってもソース、emmanmo、そしてΧαοσ、龍角散。いつまでたってもやってこない。
 仕方がないので彼らのことは綺麗さっぱり忘れ去り、水族館へと向かうことにした。これでもし遅刻しているメンバー内に小学生がいたならば、こんなことは、置き去りにするようなことは、しなかったかもしれない(Χαοσは小学生だというような気がするが、しばらく真偽は思い出さないでおこう)。
 なにはともあれ水族館へと向かってみると、人、人、人。思った以上に混んでいる。よくよく見れば、駅で遭遇した余所のフリースクールと思われる団体が、あちらこちらに存在している。
 彼らのおかげで水族館の前は人で埋め尽くされ、思わず撤退を真剣に検討してしまう。が、そんなことは露ほどにも感じず、イマンモ達は水族館へ向かって歩いて行く。仕方がないので、その後を追った。


 都内在住・在学の中学生以下は入館料金が無料。だが、入館には身分証明書が必須。そういわれていたものの、それを忘れてしまったトラ。「僕は、フリースクールの生徒です。」彼は身分証明書を提示せずになんとか乗りきろうと画策していた。だが……ああ、無情。彼のそんな願望は通らず。職員はそんな彼の要望を受け入れてはくれなかった。そんな彼を見ていた僕は、彼のような失敗は犯さない。最初から学生証を取り出すことで、時間の短縮を図った。
 そうして到着した水族館。階段を登っていった先で辺りを見渡せば、まわりに東京の海が見える。けれども、その海は汚い。3月に行ってきた大島の海とは比べものにもならない。僕が小学4年生の時に行った飛島。そこの海と比べてみるならば、月とすっぽん。天と地ほどの差がある。そんな汚い海をしばし眺めていると、漸く列が動いた。少しずつ動く列に従って館内に入る。蒸し暑い外から冷房の効いている館内へと先を争うように入り、エスカレーターで下の階へと降りた。
 下へと降りてすぐ、大きな水槽が眼に入った。壁一面を覆っている水槽で、悠々とアカシュモクザメなどが泳いでいる。一瞬、この水槽が壊れたならばどうなるか、などと考えてしまったが、もしそうなったらどうしようもなくなってしまうだろう。そこから進んでいくと、壁に小さな水槽が埋まっている。そこで泳ぐ小魚を身ながら、レイセン達と教室の水槽に入れる魚を選ぶ。シードラゴンや、ハリセンボン、鮟鱇などを見ながら通路を進んでいくと、やがてマグロの入った大きな水槽が見えてきた。

マグロなど


 体長1メートル以上のマグロたちが水槽の中を回り続けている。そしてその群のちょうど中心から、不自然にも気泡が出ていた。近づいて確かめようと思い見てみると、意外なことにそこにはなにも置かれていない。その気泡は光の反射によって非常に美しく見える。それを出しているのが人間だと気がつかなければ。潜水服を着た人たちが5,6人、水槽の中の点検をしている。床にブラシをかけ、ガラスを叩いて強度を確かめている。
 そんな現場に飽き始めた。丁度そこにはemmanmo、ソース、Χαοσら遅れていたメンバーが揃い、がやがやがやがやと非常に五月蠅い。静けさを求めて皆が居る反対側へと回っていった。
 そこの水槽を一瞥したとき、奇妙な笑いがこみ上げてきた。原因は、わからない。それを探ろうと思い、もう一度そこを見てみた。水槽の中にいる人と外にいる人とが、パントマイムをしている。いや、正確には中にいる人の動きを、外の人が真似をしている。ガラスを叩いて強度を測っていたのだろうが、外の人の動きに影響されてしまったのか、だんだんと外の人が動きをリードするようになった。


 そうすること1分程度。パントマイムは無事終了した。Χαοσらもどこぞへと消え去ったため、ここに居る意味は既に無いと判断。先ほどの場所へと戻り、ただただマグロを見る。しばらくそれらを見ていると、龍角散がいまになって合流してきた。
 彼は、受付にて「僕は東京都の〇〇区の〇〇〇〇というフリースクールに通っている中学生です。」と堂々と宣言。時間も気にせずそこでひたすら立ち続け、ついには入場料を無料とすることに成功したという。まあ、彼は嘘はついていない。そこはまだ、よかった。これでもし嘘をついていたならば、目も当てられない。その後、僕と龍角散、emmanmo、シャコのメンバーでペンギンなどを見て回った後、皆と合流した。
 館内で昼食を摂った後、退館して海へと行くことになったが、僕は嫌だった。あんなに汚い海に何故行かなければならないのだろうか。そう思ってはいたものの、それ以外に行きたい場所は特になく、もしかすると近くに行けば海は綺麗かもしれないため、前言撤回。皆について海へと向かうことにした。
 が、あとあとから思えば行かない方が良かったかもしれない。その海は薄汚れ、浜には魚の腐乱死体が流れ着いている。それらは約5,10メートルごとに1尾。総計30尾にもなる。そんな状態であるため、何事もないと言うはずもない。凄まじい悪臭を放つ、そんな死体を1つ。後からやってきた龍角散が、拾った。そうしてそれを右手に持って、ゆっくりとこちらに近づいてくる。


 当然、僕は逃げた。必死になって逃げた。が、幸い彼は追っては来ない。その代わり、彼はシャコと共謀してその魚を解体しはじめた。とりあえず、僕たちには害はないと判断。いったんは逃げていた面子も再び集ってきて、彼らのことはいったん思考から外し、思い思いの時間を過ごす。が、結局海に入ろうとした奴は一人も居なかった。

before、after


 この海は、3日後から遊泳解禁だという。こんな魚の死骸で埋め尽くされる砂浜と、泥水のように汚く濁った海。こんなところで泳ごうとする物好きが、果たして何人居るのだろうか。次週も海だと言うが、こんな光景を見てからは行きたくなくなってきた。本当に、綺麗な海であれば良いのだが……次に行った時には、なるべく砂浜は歩かないようにしよう。あんなにも鋭い骨が転がっているところを、ひょっとしたら裸足で歩いていたかもしれないと考えるとぞっとする。

‘今日持っていった本’
吉村昭「間宮林蔵」
 〃 「赤い人」
 〃 「逃亡」
 〃 「帰艦セズ」
西村淳「面白南極料理人」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?