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自作小説-図書館②

 埃の積もった扉を力いっぱいひっぱり、引き開けました。真っ暗で何㎝も埃の積もった部屋はとても広く、通路のようになっていて、あたりには書棚がぎっしり。そこに入っている本も、年代物の骨董品のようなものがちらほらと見えていました。
 表に出して解放されている図書室の本と比べても、遜色がないほどの数が、辺りの書架にぎっしりと詰まっています。僕から見て正面の棚には、古典文学と言われるものが収まっていました。
 思わず手を伸ばして、その本に触れてみたのですが、あの扉にあれだけの埃が積もっていたのにもかかわらず、新品同様しっかりとしていました。
 ははあ、これだけ綺麗になっているということはきっと、どこかに本館に通じる扉か何かがあるにちがいない。僕はそう思いました。入口の扉には埃が積もって、長いあいだ人が触れた形跡がなかったにも関わらず、書架や書籍に埃一つないのは、図書館の司書か誰かが定期的にやって来て手入れをしているからだとしか思えなかったからです。
そう思って辺りを歩き回り、探し回ると、やはり思ったとおり。埃一つない扉が見つかりました。喜んで駆け寄って開けようとしたのですが、鍵がかかっていました。まあ、捜せばサムターンが下の方に見つかったので、おそらく簡単に開けられたでしょう。
 けれども、そこでふとここが図書館の中で、自分のやっていることが不法侵入であると思い出しました。おそらくこの扉は、本当の本館に繋がっているのでしょう。ここを開けて中に入ってしまえば、十中八九見つかってしまい、そうなれば二度とこの場所に入ってくることができなくなってしまう。そう思ってみると、熱心に開けようとしていたのがなんだがバカバカしくなり、とりあえず本を何冊か引っこ抜いて家へ帰ることにしました。
 次の日、普通に学校へと登校したので、クラスメイト達も驚いていたようです。いっそう酷い虐め方をしたのに、泣き寝入りもせずに。それどころか満面の笑みを浮かべていたので、今思えば恐ろしかったんでしょうね。その日からはいじめも下火になっていきました。
 でも当の僕はそんなことには微塵も気づかずにいました。頭の中はあの書庫の事でいっぱいで。幸い、今はもう7月。あと十数日過ごせば夏休みに入ります。僕は友達というものを殆ど持ったことがなかったので、周りが友人達と遊んでいる間にもひたすら学んでいました。そんな僕にかかれば夏休みに出る宿題なんて1日もかからずに終わります。
 昼休みに一人職員室に行って予め夏休みに出される宿題については教えて貰っていたので、この時点でなにが出るかは知っていました。その日も担任の先生から天体観測が宿題で出されると聞いてきたので、またあの書庫へ行って、星座について調べてみようと思って退屈な授業を乗りきりました。
 そして、家に走って帰りました。帰りの会の時に仮病を使って早退し、そのまま少しでも早く家に帰ろうと思ったからです。なぜ早く帰ろうとしたかといえば、誰の目もない状況が欲しかったからです。そんな状況でもなければ、白昼堂々とあの場所へと入ることはほぼ不可能でした。家に帰ったときには既に近所に住んでいた同級生達が家の前の道路を使って―僕の家はかなりな田舎の、町外れの方にあったため、道路が広く、車が入ってきたためしがなかった―遊んでいたからです。
 そんな彼らと遭遇しないよう早めに帰ってきた僕は、帰宅途中で買った食料を、予め用意しておいた鞄に詰め、担いで、家の扉に鍵を閉めて、あそこへとまっすぐ向かっていきました。
 そこからしばらくは、あそこで過ごすつもりだったんです。夏休みまであと少し。勉強はもうとっくのとうに先取りが終わっているし、もう学校へ行かなくてもいいんじゃあないかと思い、最初の部屋に生活用品の大半を運び込んでいました。さすがに風呂、トイレは家へ戻らなければいけませんでしたが。
 夜になって家を出ることになるので、安全のため業者に連絡して、不登校中のあいだに家の敷地を塀で囲い、あそこの上に小屋を建てて貰いました。頑丈な小屋を、たった1日で。
 僕としてはすぐにでも欲しかったので、かなりお金を出して人を沢山雇ったんです。幸い、お金は両親が大量に残して行ってくれたし、足りない分は自分の蔵書を売って金に換えました。この時たまたま叔父が来訪していたので、業者への依頼やらなんやらは叔父に名前を貸してもらうということにしました。一応叔父がいれば子供だからと無下に扱われる事も無いと思い、実際その通りになりました。それでこの時にはもう、寝泊まりする場所も確保でき、さらに増設という形で本邸とつなぎ合わせ、あいだに扉を入れることで、屋内から出ることなくあそこへ行けるようにしました。
 それだけのことをやって初めて、あそこへ行けるのです。こうしておけば、皆がのぞきに来ても、学校や近所の家々にそれとなくながした「病気を患ったため家で静養し、その間に叔父に来て貰い、家の増築作業をしてもらった」という噂の信憑性が増します。だって、どこをどう捜しても僕は家から出てこないし、家が増築されているのは本当のことでしたから。
 ただ、一番の問題だけはどうにもなりませんでした。食事です。別段料理が出来るというわけでもないため、いつもは近くの商店街で買ったものを食べていました。そこらを普通に出歩いているのが見つかって嘘がばれても困るため、電子レンジで解凍すれば食べられるような冷凍食品や、そのまま食べられるものを中心に定期宅配サービスで届けて貰ったり、出前のピザやなにかを頼んで届けて貰うことにしました。

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