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フリースクール活動日記 2023/11/30-東伏見

 しばらく、風邪で休む日が続いた。日曜日に奥多摩から帰宅する途中、急激に体調が悪化。家に帰って39度6分の熱を記録した。この頃発熱間隔が狭まってきていたのをどうにか出来たのは嬉しいのだが、それでも前回から丁度1ヶ月が経っていることに改めて気付く。
 僕は土日に発症したと思っていたのだが、両親の話を聞くかぎり、どうやら木曜日頃からその兆候はあったように思えてきた。木曜日には龍角散の足掻きによって帰宅時間が遅くなったし、金曜日にもサイレント映画を見に行ったために帰りは深夜近くとなった。
 これが夏場ならばよいが、最近では「昼はより暑く、夜はより寒い」砂漠のような気候となっているため、土曜日にこんな気候の奥多摩にいたというのが一番の原因であるのだろう。なんせ、奥多摩に行くと熱を出す。
 この影響で火曜日までを家での療養に当てることになり水曜日、ようやく家を出ることが可能になったため教室へ久々に向かう。僕がいない間に今週の行き先は決まっており、聞くと「東伏見神社」だという。
 この案は随分と前にemmano、御嬢が出したものだった。水上アスレチックに行きたくない一心で出たこの案はしかしながら却下され、「またいつか行く」ことにされていたのだが、今週その案に賛同するものが多数現れ―そのなかには「超巨大ローラー滑り台がある」と聞いた龍角散、カッパくんらも混じっていた―て決着がついたそうだ。
 既に決まってしまった以上、口を挟むことは出来ない。それに、僕もその滑り台には興味を持っていた。もともとは旧教室の近くの公園にローラー滑り台があったのだが、教室移転の影響で行けなくなってしまっていたのだ。久しぶりにローラー滑り台を使ってみたい。そう思って1も2もなく賛同した。
 そんな翌日、集合場所は武蔵関駅。どうやら幾人かのメンバーは家の近くだったようだが、それでも数分遅刻するメンバーが多数現れた。
 全員集合後、しばらく川沿いに歩くと公園に入った。おかしい。早い。いくら何でも早すぎる。地図で調べた限りではこんなに近くにはなかった。さすがにもう東伏見公園に着いたということはないはず。でも、すでに公園に着いている。ここは、どこだ?
 目の前には池が広がり、鴨や鷭が泳ぎ、ボートが漂っている。

 この公園は「武蔵関公園」だという。池に漂っているボートをみて、ふと前の活動を思い出す。レイセンやemmanmoが不忍池でスワンボートを乗り回していた光景が、頭の中に浮かぶ。
 Χαοσからひっきりなしにドングリの絨毯爆撃が行われていたためにしばらく動かず龍角散らの影に隠れていたが、そのうちに皆遊具で遊ぶことに飽きたようですぐさま移動することになった。つぎの目的地は「武蔵野中央公園」だという。ということは、武蔵野中央公園へと行った後に東伏見公園へ、計3つの公園を巡ることになるのか。ここから中央公園まではかなりな距離があるようで、玉川上水に沿ってしばらく歩くことになる。奥まったところにある謎の公園へとふらふら吸い込まれていく龍角散やカッパくん、レイセンたち。最近風邪が流行っているし、それに加えての歩き詰めで方向感覚が狂ったのか、それとも遊具に取り憑かれているのか。
 彼らを無視してしばらく歩いて行くと、銀杏の綺麗な公園が見えてきた。かなり広い。ここが「武蔵野中央公園」だろう。もう12時になっていたため、一寸した丘を見つけて陣取り、弁当を取り出す。
 そんななか、龍角散の叫びが木霊した。うどんがどうたらと未練がましく口の端に出している。その声の大きさに耳を軽く押さえて、彼の肩越しにそれをのぞき込んでみて、納得した。たしかに汁も何もないソフト麺のみを食するのは辛いだろう。それを見かねてかemmanmoが自分の弁当から、幾つか「親子丼の汁とか鶏肉、卵など」分けてやっていた。

 食後、さっそく遊具に向かってかけていくカッパくん。いまでこそ奥多摩や多摩川中流での川遊びがきっかけで「カッパくん」と呼ばれるようになった彼だが、一昔前まではいろいろと常軌を逸した行動をすることから「超人」と呼ばれていた。険しい山を上から転がり下りてきたり、ブランコによじ登っていたり、落ち葉だらけの急斜面を止まることなく駆け上がっていったりと話すネタには事欠かなかった彼だが、近年その行動が縮小していたため皆不審がっていた。もはや彼は「超人」ではなくなり、「カッパくん」になってしまったのかと。しかしながら、やはり彼は「超人」だった。

 逆さになってぶら下がり、動くターザンロープに終わりまでしがみつき続けるその身のこなし、やはり超人……なお、それを真似ようとした龍角散は両足を地面にこすりつけながら前方に引き摺られるという悲惨な光景を描き出した。
 思ったよりも居心地がよかったため、できるならばもう少しここに居たかったのだが、いいかげん動かなければならないようだ。あくまで今日の目的地はここではないのだから。しかしながらやはり皆気が乗らないようで、気がつくとメンバーはレイセン・パイセンチーム、イマンモチームに分かれて、それぞれ別の道へと進んでしまっている。皆呆けすぎだ!このうちレイセンは自身の直感で、イマンモはGoogleマップを頼りに動いていた。
 僕はイマンモの後ろにいたわけだが、しばらく進んだときにとある呟きを耳に捕らえた。
「あれ?ここに道なんてないぞ?」
このイマンモの一言でこの道が遠回りとなることが確実となったわけだが、それでも近くにいた僕や龍角散、御嬢は顔色を極力変えず、いつものように振る舞った。数メートル後ろにはソース、チー君がいる。彼らはまだ、自分たちが間違った道に進んでいることを知らない。もし知ったなら、すぐに踵を返してレイセン達に合流しに動くだろう。いまならまだレイセンの位置がわかるからだ。
 それはあってはならない。一人でも多く、僕たちと一蓮托生にして行かせなければならない。そうしてまた進み、もう別隊との合流が不可能となった頃、迷子になっていたことを明かして彼らの驚いた顔を見て笑おう。そうでもしなければ迷子になったショックが大きすぎてまた道を間違えるといったことになりかねない。
 幸い、Googleもこのあとはよい働きをしてくれた。そのおかげか遠回りによってレイセン達と開いた差も徐々に縮まり、気がつけばもう東伏見神社の鳥居が見えている。レイセン達はまだいない。勝った。
 ようやっとやって来た他のメンバーたちと合流し、鳥居を潜る。目の前には「茅の輪」がある。苦い思い出が胸中に蘇った。少し前、川越の熊野神社に父と行った時のこと。茅の輪のそばに、案内用紙がおいてあるのを目にして手に取った。そこには「茅の輪に一礼して潜り、右に回って戻る。一礼し、潜った後は左に回って戻る。潜って右回りで戻る。そのまま潜って進む」などと案内があった。しかし、本質的なことがわからなかった僕たちは、茅の輪を潜り、その場で一回転して後ろに下がって元の位置に戻り、また進んで茅の輪を潜るという無駄な行為を繰り返してしまっていた。茅の輪の向こう側でぐるぐると回っているだけでなにも祓えていないことは確実である。
 そんな苦い経験を元に、是非皆にも同じことをして貰おうとそそのかしてみたのだが、皆なかなか頭が回る。
「それはおかしい」と、型どおりに茅の輪くぐりをして進んでいってしまった。皆、ちょっとやそっとではひっかかってはくれないようだ。
 神社に参拝する。幸いというべきか5円玉は持っていなかったため、10円玉を入れる。その後も京都の千本鳥居に似ているところへと進み、各稲荷社を回っていたらいつの間にか財布から合計200円がすっぽりとなくなってしまっていた。このままいっても10円玉に続き50円玉、100円玉までなくなってしまい、あとは500円玉と1000円札が幾枚か。さすがにそれまで入れると素寒貧になってしまうため、必死の思いで自制心を働かせる。
 その後、超巨大・ローラー滑り台からカッパくんが放り出されるなど幾つかアクシデントもあったが、皆たいした怪我もせずに終わらせることが出来た。あの滑り台からカッパくんが転落したときはどうなるかと思ったが、さすがは超人、面目躍如だ。

しばらく書いていないことを思いだしたが、まあ仕方がない。とりあえず今回はこれまでのように書く。
‘今回持っていった本’
泉鏡花「高野聖」
 〃 「売色鴨南蛮」

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