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AIと著作権(8)

著作権法に関する文章です。4月は毎週水曜日に書きます。
(4月に書きましたが、7月にアップロードしています)

AI出力の段階での著作権侵害

前回に引き続き、生成AIが出力したモノが著作権を侵害するか、という問題です。
生成AIは、学習のために使用した著作物をもとに画像や文章などを生成します。そのため、過去の著作物に似ているモノが出力されることがあります。
このとき、後の著作物が前の著作物を真似して作った(依拠性)と言えるかどうか、判断することになります。

現時点では、AIによる依拠については、広く依拠性を認める立場がやや優勢のように思えます。
著作物をAIに学習させて、AIは元の著作物についての何らかのデータを作成し、そのデータをもとに著作物と似ている物を作る、というわけですから、依拠性を認める立場のほうが自然かもしれません。
一方で、元の著作物について「何らかのデータを保持する」というのは機械処理では当然のことであり、これについて包括的に依拠性を認めて著作権侵害と判断することは、AI活用に対する阻害となる、という考えもあります。

自然人であれば、アクセスした元著作物の「データ」を残しつつ、似ている物を制作したというのであれば、そのデータが表現であるかアイデアに過ぎないかを判断するということになります。しかしAIであれば、その数理的な処理の過程で残されたデータについて、表現かアイデアかを問うことが、可能な場合も多いですが、容易ではないこともありえます。

そのうえで、元著作物の保護を重視するのであれば、データは創作的表現であるとみなして依拠性を広く認めてよいでしょうし、逆にAIの自由な発展を重視するのであれば、データはアイデアであるとみなして依拠性を否定する方向をとればいいでしょう。

このあたりをふまえて、令和6年3月15日「AIと著作権に関する考え方について」文化審議会著作権分科会法制度小委員会

https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/pdf/94037901_01.pdf

をみてみます。

○依拠性の判断については、既存の判例・裁判例では、ある作品が、既存の著作物に類似していると認められるときに、当該作品を制作した者が、既存の著作物の表現内容を認識していたことや、同一性の程度の高さなどによりその有無が判断されてきた。特に、人間の創作活動においては、既存の著作物の表現内容を認識しえたことについて、その創作者が既存の著作物に接する機会があったかどうかなどにより推認されてきた。

○一方、生成 AI の場合、その開発のために利用された著作物を、生成 AI の利用者が認識していないが、当該著作物に類似したものが生成される場合も想定され、このような事情は、従来の依拠性の判断に影響しうると考えられる。

○そこで、従来の人間が創作する場合における依拠性の考え方も踏まえ、生成 AI による生成行為について、依拠性が認められるのはどのような場合か、整理することとする。【略】

AI学習では、学習させた者が認識できないレベルの大量の著作物を扱うこともあり、利用者が意図しない類似物が生成されることがあります。

なお、逆のパターンもありえます。つまり、学習段階のデータには存在しないような内容の出力をさせることにより、AI学習させた者が意図しないような類似物を生成させるケースです。
例えば、少女漫画のイラストのみを大量に学習させたAIに、特定の少年漫画のような画像を出力するように指示させる場合です。この場合、当該少年漫画の著作権との関係で、AIに保持されているデータとは無関係に、出力者の側の依拠が認められるとされます。

① AI 利用者が既存の著作物を認識していたと認められる場合
✓ 生成 AI を利用した場合であっても、AI 利用者が既存の著作物(その表現内容)を認識しており、生成 AI を利用して当該著作物の創作的表現を有するものを生成させた場合は、依拠性が認められ、AI利用者による著作権侵害が成立すると考えられる。
(例)Image to Image(画像を生成 AI に指示として入力し、生成物として画像を得る行為) のように、既存の著作物そのものを入力する場合や、既存の著作物の題号などの特定の固有名詞を入力する場合

✓ この点に関して、既存の判例・裁判例においては、被疑侵害者の既存著作物へのアクセス可能性、すなわち既存の著作物に接する機会があったことや、類似性の程度の高さ等の間接事実により、被疑侵害者が既存の著作物の表現内容を認識していたことが推認されてきた。

✓ このような既存の判例・裁判例を踏まえると、生成 AI が利用された場合であっても、権利者としては、被疑侵害者において既存著作物へのアクセス可能性があったことや、生成物に既存著作物との高度な類似性があること等を立証すれば、依拠性があるとの推認を得ることができると考えられる。

利用者が既存著作物を認識していた場合には、AIは単なる道具に過ぎないことから、利用者の依拠性が広く認められることになります。

(続きます)

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