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鉱物【ショートストーリー】

 夫と高校生の娘を送り出した後、わたしは庭に洗濯物を干した。外はからりと晴れている。都心から車で20分。郊外に建てた一軒家。夫が趣味で始めたガーデニング。庭にはよく手入れされた季節の花が咲いている。

 あの日誓った永遠。薬指のダイヤモンド。眩いばかりの煌めきも、今は鳴りを潜めて箪笥の奥深くで眠っている。

 結婚と同時に退職して、専業主婦になって20年。友人たちはみな子どもの手が離れたからと働き始めた。家庭と仕事を両立させている姿は大変そうだったが、きらきらと輝いているように見えた。かと言って、何のスキルもないわたしに働けと言われても、適応するのは難しいのかもしれない。

 

 深夜まで夫は帰らない。わたしに触れることもない。仕事が忙しいと言うけれど、それだけではないことも知っている。敢えて波風を立てるつもりはない。真面目に働き、家にお金を入れてくれるのだから。

 箪笥の奥深くから、ダイヤモンドの指輪を取り出した。あの日と同じ輝きを放っている。籠の中の鳥のように、守られている生活の中で、輝きを失くしてしまったのはわたしの方だった。


 夫の好きな人ってどんな人なんだろう。

 今日の夕飯は、夫の好物で食卓をいっぱいにしよう。わたしは何食わぬ顔でキッチンに立った。あなたは誰にも渡さない。

 


文披31題Day27「鉱物」

鉱物ってなんだろう…
頭の悪いわたしは、鉱物をどうしても自分のコトバに置き換えられなくて。
えぇい
ダイヤモンドの話にしちゃおう。浮気している夫への復讐は、夫の好物を作ること。
そんなイメージで書き始めました。これは勿論フィクションです。
わたし嘘つけないので、多分実話ベースの話とフィクションの違い、バレバレなんでしょうね(笑)

家の箪笥の奥深くに、ダイヤモンドの指輪が入っていたことがありました。
あれは誰のものだったのだろうか。
母が置いていったのだろうか。
いつの間にか無くなっていました。

どうしてダイヤモンドに永遠を誓うのでしょうかね?
諸説あるのは知っています。

過去に結婚していたことがありました。宝石には興味がないので、いらないと断りました。
離婚して随分経ちました。その後、恋もしたけれどうまくはいかなかった。
仲睦まじい夫婦や親子連れを見るとまだ胸が痛みます。

「好物」と「鉱物」をかけたのは、良かったかなと思っています。

お読みいただきありがとうございます。

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