小川洋子著『博士の愛した数式』読書感想文

選書理由…ドはまりしたとあるゲームの、登場キャラクターの元ネタがこの書だった。特徴的な記憶障害に、一種の妖しさすらある魅力を感じた。

感想

数式、家事、野球の話が一纏まりになっている。単体でも興味をひくような小話や背景描写で心地よく読み進めてしまう(自分は野球が好きではないが、とんとん進んだ)。俗世から幾らか独立した空間で育まれる営みに顔が綻んだ。最初から最後まで親愛(作品や寄稿コメントの言葉でいえば慕情?)を確かめていく感覚を得る作品だった。こんな人との関わり方を、自分はしていけるのだろうか。やらなくていいのだけども。
暗示が敷かれつつも真相究明には走らず、(数理的事実以外は)何も示さないが人間性を伺える言葉で人を知れ、それぞれの人物の割く心配でもって物語が光景となった。
私は祖父母全員ともう通じ会うことができない。博士のような子供への心配ができない。ルート君のような他者に対する積極的な素直さもない。美しい人たちや歴史を持った人たちに好意を持つと、同時に自分の欠けっぷりを自覚する。これも、良い文学なのでしょう。

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