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人に何かが伝わるということ

 2023年3月2日

 大学が春休みになった.僕の所属した研究室の都合上,およそ週2程度で大学へ通ってはいるが,授業はないので,負担が減った.大学4年で,単位を3つ取って,卒業論文が完成すれば,晴れて卒業だ.僕の場合,何かあった時のために,大学入って最初の2年間で90単位ほど取っていたので,芸人に支障を来さない程度に,両立ができている.また,やりたい研究もあるので,それを研究テーマにしようと思っている.僕の研究室では,土砂災害の対策をメインテーマにしており,僕自身は,人々に土砂災害の危険性をどのように伝えることで,行動を促すことができるかに興味がある.

 お笑いが好きな理由は,自分が面白いと思うものが誰かに伝わってほしいからだ.ネタを書く側ではないので,ちゃんちゃらおかしいが,誰かに「これ面白い」と伝えたい.そして,それが伝わったらすごく嬉しい.


 僕の根本には,誰かに何かが伝わってほしいという強い欲求があるのだと思う.理性よりも感情の割合の方が大きいので,感情の動きに左右されやすい.そして,その感情の動きを誰かに伝えたくなる.この欲求がお笑いにおいても,大学の研究にも影響している.


 人に何かを伝えるのは難しい.どれだけその人と近くにいても,1つの事柄に対して,自分とは全然違う解釈をするのが当たり前だ.仕方ないけれど,僕の言っている赤が,その人にとっても同じ赤として伝わっているのか分からない.でも,伝えたい赤を赤だと伝えて違うと言われて,伝わらないことを,正直怖いと思っている.僕はこの赤を赤だと信じているし,信じているものが間違いであったのなら,悲しいから.僕は,人に何かを伝えたいと思うあまりに,何かが否定されることが,怖くなっている節がある.

 そのくせ,気持ちを肯定された,つまり,伝わったという反応を受け入れられないときもまたある.肯定や褒めという反応は,全部お世辞なのではないかと思ってしまう.その人の立場を考えて,する必要があるからそうしたのかなと考えてしまう.きっとそんなことないのに.純粋に褒めてくれているはずなのに.だから,基本的に誉め言葉は苦手で,どうしていいか分からなくてびっくりしてしまう.それでも,ふとした瞬間の何も褒めてもメリットがないはずなのに,褒められた時,すごく嬉しくなる.

 そして,人に何かを伝えられた時,どう反応したらいいか分からない.否定と肯定ができない.人の気持ちを考えるとき,自分基準にしてしまうから.自分がされるのが怖いから,するのも怖い.肯定するのは話を聞いていなくてもできるから,信じてもらえないかなと思って出来なくて,否定するのは当人に悪いような気がして出来ない.

 でも,ちゃんと話を聞いている時でも,肯定したくなる時はあるから,一応頑張って肯定はする.でもその後,色々話が続いてそれぞれ肯定が続いて,「本当に話聞いているのか」と思われたらいやだなと感じて,そろそろ否定すべきなのかと考えると,もう自分の意見が何なのか分からなくなって混乱する.一方で,せめてめちゃくちゃ遠回りに否定しようとして,オブラートに包みすぎていったい何を言いたいのかが,相手に伝わらないことが多い.だから,何も言えなくなることが多い.ほぇーというどちらとも取れるような反応をして,訝しがられることもある.


 伝わってほしいけれど,伝わらないことも怖いし,その人からの伝わったという反応も信じることはできない.なんて贅沢なのだろうかと思う.だから,最近は,否定は自分の糧だと思うことにした.そう思って,突き進んでみると,案外傷つかない自分もいた.また,黙って喜べと思う自分もいるから,肯定された時に,素直に受け止めるようにし始めた.目一杯喜ぶようにし始めた.単純なもので,本当に嬉しくなっている自分がいる.お世辞でも何でも喜べる人の方が,きっと幸せになれるだろうと思う.そういう意味で,柿田さんを尊敬している.また,逆に喜びすぎは調子に乗っているとも思われそうで,バランスを取るように心がけている.

 そして,毎回毎回ごちゃごちゃ考えているけれど,自分の純粋な欲求は,誰かに何かを伝えたい,というものだから,困ったらそこに立ち返るようにしている.


 なぜのこのような文章を書いたかというと,この前,歯科医院に行った時のことだった.自分の前歯の歯茎が薄くて,前歯の根本がうっすら見えていたから,怖くなって行った.「今日はどうされました?」の時に,このことについて話したら,

 「一応,前歯の歯茎は基本的に薄いので,問題ありませんよ」

とすぐに言われた.ただ念のため,その後にレントゲンを撮ってもらった.すると,親知らずが生えていることが分かった.「抜く必要がある」と言われたので,このことが分かっただけでも,来た意味があったと自分に言った.

 「なるほど」と言いながら,レントゲンに映る僕の親知らずを眺めていたら,へんてこな形をしていることに気付いた.細長くて,先が尖っている1本は奥歯の中で明らかに浮いていた.瘦せこけた人参みたいだった.「おい,なんで細身の人参が口の奥に生えているんだ」と思うと,それが妙に面白くて仕方なくなった.歯医者さんが,

 「桑田さん(僕の事)の親知らずは,少し変わった形をしています」

と言った時,思わず笑ってしまった.すると,歯医者さんもへへっと笑った.その時,「僕が面白いと思うことを,この人も面白いと思ったんだ」とすごく嬉しくなった.人に自分の伝えたい何かが伝わることがこんなにも好きなのだと改めてそう思ったのだった.だから,書いてみた.


 あと,今日の事務所ライブのバカ爆走でやったネタでも,そう感じた.


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