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リズムトーン


音楽が鳴り続けている間
しゃべり続けることにして
どこまでも続く午後のひざしのなかを
歩いていった
右足左足

舗装された7月の道を 
歩き出すには 
走りだすには 
雨に濡れた空白が必要で

うまれるまえから
きこえるまえから
はかられつづける
心拍数と心臓の音

波のかたちをえがくには
どこまでも空白が必要で

こんにちはとポストにとどけられる
宅急便の不在通知にさえも
いくつもの波が交差していて

ひとつの名前をにぎりしめて
暗いドアをひらくとき
名前のかわりにさしだされる
届け物をひらくとき
すでにきこえつづけている
あなたの音を考えます

住所がわからなかったので地図を描きました
名前がわからなかったので花を描きました
切手を貼って投函しました

手を離したとき音がしたので飛ぶと思います
ちいさな鳥です
届いたら籠をあけてください
飛んでいくか 行かないか

紙なのでたよりないけれど
手を離したので飛ぶと思います

その羽音をかたどって
青い夏が伸びてゆきます

蝉の音がきこえますか
こちら雨です
夕立です

雷鳴さえもが心臓の
音にはかなわないようにみえます
きこえますか
こちら雨です
雷鳴です

音楽が鳴り続けている間
しゃべり続けることにして
どこまでも続く午後のひざしのなかを
歩いていった
右足左足

舗装された7月の道を 
走りだすには 
雨に濡れた空白が必要で

一羽の鳥が
雨のなかをとんでゆきます
きこえますか
こちら雨です
雷鳴です

ほどけかける雨音のなか
ながれてゆく音たちのなか
傘に雨をあつめるように
耳を澄ませてきいています

きこえますか
こちらあめです
雷鳴です

切手をはった地図がとどきました
私のうちへです

地図のとおりに歩いてみようとおもいます
右足左足

音楽の終わりに間に合うでしょうか
上下する波がもういちど精密にはかられるとき
わたしたちはどこへゆくのでしょうか
あめのなかを ただ あめのなかを

小さな鳥がやってきて
しきりになにかささやきます
なにをいっているかわからないけれど
こまごまとしたその調子だけは
わすれることができません

7月によむ詩のことを考えていて 
夜があけてしまいました 

朝なのか 夜なのかは 
もはやいっこうにかまいません 
ただ 7月の街路をぬらしてゆく 
足音のゆくさきがしりたいのです

音楽が鳴り続ける間
何か喋っていてください
ちいさなこえでかまいません

あなたがゆらしつづけている
その空白をかたどって
青い夏がのびてゆきます


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