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【午前十時の映画祭11】映画『イージー・ライダー』を観てきた【27分の6】

ごきげんよう。雨宮はなです。
書籍「みんなの映画100選」で紹介されている作品のひとつで、前々から観たいと思っていた作品をスクリーンで観る機会に恵まれました!

シーンのつなぎ目の演出や旅を彩る音楽のおしゃれさもさることながら、この映画がただのオシャレ★ロードムービーにならなかったのがよくわかる95分でした。
※ここから先はネタバレを含みますので、ご了承いただける方のみ読み進めてください。

”わかる”というよりも”感じる”

ビリー(演:デニス・ホッパー)とキャプテン・アメリカことワイアット(演:ピーター・フォンダ)の性格や背景について一切の説明が無いのに、それぞれがどんな性格でどんなふうに関係を築いてきたのかがわかる、というよりも、感じられる作品でした。

現代邦画のように説明台詞やナレーションが必要か所以外、無し!心情描写のためのナレーションも無し!描きたいことは映像と、台詞にばっちり込めてあるから大丈夫!
そんな自信に満ちた声が聞こえてきそうなほど余計なものが無い、だからといって情緒を失ったわけではないしロマンはにじみ出ているのです。

描きたいものにピントが定まっていてボヤけない。軸がしっかりしていてブレない。だからこそ、”感じる”ことができる作品になったのだと思えます。

酒メロ演技もキレッキレ!ジャック・ニコルソン

主演のふたりを差し置いてものすんごく良いことを語ってしまうジョージ(演:ジャック・ニコルソン)ですが、彼が説教くさくならず愛されるキャラクターであるのはアル中&ジャック・ニコルソンの演技によるところが大きいでしょう。
なかでも個人的に印象深かったのは2つ。

ひとつめは、ビリーとワイアットを留置場から出した(自分も出た)お祝いに車庫でジム・ビームの瓶を開けひと口飲んだ後の演技。これが最高にキレッキレ!なんじゃそりゃ、お酒だけでそんなにキマる?!と驚いて思わず笑ってしまいました。
へべれけ、千鳥足、何喋ってるかわからない…というアル中の演技パターンをぶっ壊した偉業はトロフィーものだと思います。

ふたつめは、ジョージがキャンプ中にビリーと話しているシーン。このときのジョージが話す内容にものすごく納得できました。
「ビリー、君を怖がる人は君が象徴しているものを怖がっているんだ。それは”自由”だ。アメリカ国民は自分の自由については意識も主張もするが、他人にそれをみるのは怖いんだ」
そんな旨の語りに思わず真剣に聞き入ってしまいました。”声を大にするものほど持ち合わせていないものだ”とはよく言ったものです。アメリカに本当の意味での自由なんて無いんだという現実が優しく語られます。この時の説得力があるのに説教くさくならない絶妙な匙加減は、さすがと言ったところでした。

衝撃のラスト、田舎の怖さ

『シックス・センス』などスリラー映画によくみられる「衝撃のラスト」の文字。最近はそれを狙い過ぎていて「あぁ、はいはい。またですか」「たぶん、こんな感じ」と斜に構えてしまうし、実際、そこまで衝撃ではないのが現実です。
ですが、この作品はそんなことを自分から言い出しもせず、本当に衝撃的なラストシーンを見せてきます。これほどちゃんとフレーズが似合う作品に久しぶりに出会いました。だって、まさかの銃殺エンドですよ?

謝肉祭…日本人にもわかりやすくいえばカーニバルに少し遅れながらも参加し、娼婦たちと楽しみ、これで終わりかと思いきや旅を再開するふたり。この後どう終わるんだろう、やっぱり走り去る彼らを見守る形になるのかななんてドキドキしていたら、田舎もんの爺に撃ち殺されちゃうんですよ?それも、”よそ者”で”長髪だから”という理由で。なにそれ、アメリカの田舎、怖い。

田舎もんに絡まれるシーンは大きく分けて2カ所、というか、2エリア?
まだジョージがいるタイミングに途中で寄った田舎のカフェと、ラストシーンです。

カフェには食事をとりに来ただけなのに野郎には遠くから罵倒され、お嬢ちゃんたちからは「私はあの人が良い」と値踏みされ、終いにはバイクに乗せてと無い色気で絡まれ…そんな地元客の無礼を止める店員はゼロ、注文を取りに来ることもない。仕方がないから「楽しい店だったよ」と声を荒げることもなく絡まれる前に退散したのに、「何か問題を起こされる前に群境でやっちまおう(ニタニタ)」ともはや襲撃したくて仕方のない様子。
ビリーたち3人は2流のモーテルからも締め出しをくらい、しかたなく野宿をすることに。ここでマリファナ吸っちゃうし全員で寝ちゃうし、無警戒なのはどうかと思いますが、寝ている人間に殴りかかるって正気の沙汰じゃない。この襲撃でジョージは死亡してしまいます。何が怖いって、襲撃犯の中に保安官が混ざってるってこと。

ラストシーンはビリーが胸部を撃ち抜かれ、ワイアットがトラックを追っていると引き返してきたトラックにバイクごとふっとばされてバイクが爆発し、何をどう見てもふたりとも助からないのがわかります。
トラック野郎たちが「引き返した方が」と言ったときに「さすがにマズイと思ったんだな」と思った私をひっぱたいてやりたい。田舎道だから目撃者もいないし、すぐに誰かに見つかって通報される心配もないから、追われるくらいなら今もう片方も仕留めておこうって意味だったんですね。なるほど。
現代みたいに通信手段や監視システムが発達していないからこそのエンドだと思います。

日本とは違う田舎の怖さがあるなと思いました。田舎もんほど怖い人間はいない。理性も常識もない。
2つのシーンを観て、もしアメリカに行くときは「都会に行っただけではその国を知ったことにならない」なんて意識高く持たないで、命最優先でアメリカのはしっこだけ齧って楽しもうと決意しました。
『マディソン郡の橋』みたいな平和な田舎は夢物語なんだ…。

おわりに

ロードムービーをあまり好まないので、正直に言うと「午前十時の映画祭今季作品を完走する」という目的だけで鑑賞しました。ところがまさかの、大当たり!良い作品に出会えました。
評価が高いのも納得。劇中で音楽が流れ始めると出てくる曲紹介のテロップはありがたいし、作品を良作たらしめる要素に溢れていると感じました。
ビリー、ワイアット、ジョージを偲んでジム・ビームで献杯!

最後まで読んでくれてありがとうございます。
ではまた次の記事で。ごきげんよう。

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