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【試写レポ】『神は見返りを求める』試写会【34_2022】

ごきげんよう。雨宮はなです。
かなり時間が空いてしまいましたが、「安心クオリティ」と呼ぶべき面白さをもった邦画を試写会で鑑賞しました。

この作品はすでに劇場公開済みですので、ネタバレに寛容な形で書きます。

作品について

私は「どんな作品かを知りたければ予告編を観れば良い」とは思わないタイプです。なぜって、本編をろくに観ていないか、早送りで流し見したんだろうなという人間がつくったとしか思えない出来栄えであることがほとんどだからです(特に海外作品の場合は)。
ですが、この作品は「予告編を観れば良い」と言えるでしょう。あらすじや雰囲気を本編から離れずに紹介してくれています。

ふんぞり返った視聴者さまへ

反対に、突拍子もないエピソードや演出は出てこないと言えます。それなのに退屈させないどころか、面白いと思わせるのは脚本の力なのでしょうか。メッセージがこめられているのにも関わらず、説教臭くなく受け取りやすいボールのような印象を受けます。

特に素晴らしいなと思ったのは、誰かに肩入れしすぎず主人公とヒロインはそれぞれ立てたうえでそのベースにいる人たち(例:岸井ゆきのさん演じるユーチューバー)の声を取りこぼさなかったこと。観る側の人間が簡単に否定する現実をユーチューバー側から提示したことで、観客に「クリエイティブな人間への隠れた侮蔑」を自覚させ警告を発していたように思えました。

明るい残酷さ

クオリティの高い:実際にYouTubeにアップロードされていそうな動画が本編中にはたくさん出てきます。再生された動画や制作シーンで物語も進行し、明るくポップで楽しい雰囲気が演出されます。みんなでわいわい、キャッキャしながら…おしゃれな洋服に身を包み、流行にのったメイクをして、きれいなスタジオで撮影をする。

…だけじゃないんだよーん!
やりたいことなんてやってないし、自分で面白い事なんて思いつけてないし、仲良くもない人間の前で脱いで染料で塗られなきゃいけないし、知らない間に進んだ企画をうまく再現できなきゃすごんで脅される。なんなら安全が保障されていない企画だって笑顔で「ハイ!ヨロコンデ!」でやらないと企画に呼んでもらえなくなる。

それでも誰かが笑顔になってくれたと聞けば嬉しくなってしまう。その快感のためにそこに身を置き続ける。ばかばかしいと思っていても、どうやってそこから抜けたらいいんだろう。
明るくて、楽しくて、充実したように見えるそれはとても残酷な世界でした。

ムロツヨシというリアルなファンタジー

「田母神さん」というキャラクターはムロツヨシさんのビジュアルと演技力が無ければ存在しえなかったと、私は考えます。
優しさを感じられるまるみのあるパーツに、意志の強さを感じられる顔つきのムロツヨシさん。彼の演技力ひとつでそれらは「いいひと」から「危険人物」に変化させられました。

有名で存在感があるのに「ムロツヨシさん」が怖いのではなく「田母神さん」が怖いと感じるのは、彼がリアルな演技をするにも関わらず、ファンタジー(架空のキャラクターであること)であることをはっきりと意識させてくれる優れた役者さんであることが理由でしょう。

さいごに

個人的に拍手を送りたくなったのは、岸井ゆきのさん演じるユーチューバーが底辺の時代に撮影した「踊ってみた」について。10年とちょっと前、ニコニコ動画の「踊ってみた」が好きだった私にはニヤニヤしてしまうシーンでした。

素人がつくった(体のプロの仕事なのでしょうが)振付を「キレ」とよばれるジタバタした動きで踊る、あの感じ。たまらなくリアルでした。

現代的な娯楽を扱い普遍的な人としての在り方のメッセージを提示する『神は見返りを求める』は、全国ロードショー中!

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