世界の最果てにて
天気は薄曇り。風はなく過ごしやすい明け方。
一人の男が入江の周りをゆっくりと歩いている。カーキ色のズボンによれよれのTシャツ。足になじんだ茶色のラインマンブーツ。少し白髪の混じった無精髭。
丁度いい岩に腰をおろし、大きな荷物からまずはギターをひっぱり出した。
ぽこん、ぱらん、と弦を弾いて調子を整えたあと、四秒の静寂を確かめてから歌い始める。ビートルズの『Across The Universe』。
Jai guru deva
(精霊たちに感謝を)
Jai guru deva…
音色の余韻が霞のようにけぶる。それをかき集め、掌でこねると薄紫色のふかふかしたものになった。
それを釣り針にまとわせてちゃぷんと投げ入れる。入江の水中に優しく音楽が流れ出す。
Words are flowing out like endless rain into a paper cup, ...
(紙コップに降り止まぬ雨が注がれるかのように言葉が流れ続け…)
水底で眠っていたサカナたちがゆらゆらと集まってきた。一匹が薄紫色のふかふかに食いつく。
「om!」
(よーし)
と声を上げて男は釣竿を引いた。
サカナはひらりと逃げながらケラケラと歌う。
Nothing's gonna change my world.
(僕の世界は誰にも邪魔されないんだ)
※歌詞の解釈は(英語とサンスクリット語がちんぷんかんぷんの)筆者によるものです。
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