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第百十三夜 『珈琲屋の人々』

「珈琲いいですね。」
紙コップに入ったアイスコーヒーをカウンターで受け取った彼に話を投げる。
シェアオフィスに常駐されたカフェは随分と品揃えが良い。

「これ無料なんです。」

彼はさまざまなものの実質的な価値を考えるのを好む傾向がある。
逐一行動に対する定量化を行い、金銭で勘定するのだ。
今回の珈琲もその類のものであろうと考える。
第一カウンターの値段表には400円と大きく表記されている。

「私も飲もうかな。実際いくらなんですか。シェアオフィスの番号でもいえば後でまとめて請求が来るんでしょうか。」

彼は笑いながら答える。
「本当に無料ですよ。私だけですが。」

「飲み放題のサブスクみたいなのに登録でもしたのですか?」

「いえいえ、契約更新したらカードも更新されこうなりました。」

彼は首から下げた入館証を見せる。確かに私のものよりも随分高級感のある黒色のストラップに変わっている。

「え、そうするとあそこのメニュー全部無料なんですか?」

カウンターの上部のメニュー表を見上げる。

「全部ではありませんが、ほとんど無料ですよ。座席さえ増やせばこのストラップもらえる人も増えるようです。」

「なんだか、本当に普通に賃貸で借りるよりコスパが高いですね。」
実際、家賃は周辺の賃貸を借りるよりも安く、電話対応、郵便物対応もしてくれ、時折無料でモーニングを提供したり、お酒を出すことさえある。

そう至れり尽くせりである。
今後の家賃の支払いを考えると、平日一日12杯ほど飲めば家賃すら元がとれるのではと無駄な計算をする。

さて、来期もこのオフィスは我々に快適さを提供してくれるのであろう。

物語の続きはまた次の夜に…良い夢を。

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