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星の降る夜に


小さな村の外れにある森の奥深く、夜になると星が降るという噂があった。星が降るといっても、それはただの流れ星ではなく、光り輝く宝石のようなものが降り注ぐのだという。

その夜、若い旅人のリオは村人の忠告を無視して、その森へ足を踏み入れた。彼は噂を信じていなかったが、もし本当に星が降るなら、それを手に入れたいと思ったのだ。

森の中は薄暗く、リオは足元を照らすランプを手に慎重に進んだ。風が木々を揺らし、ささやくような音が彼の耳をくすぐる。だが、リオは恐れを知らなかった。彼の目はただ一つの目標に向けられていた。

「星が降る場所は、このあたりだろうか…?」

しばらく歩いた後、突然、森の中が明るくなり始めた。リオは立ち止まり、見上げると、空から無数の光が降り注いでいるのを目にした。それはまさに噂通りの光景だった。リオの胸は高鳴り、手を伸ばしてその光を掴もうとした。

しかし、光の粒が彼の手に触れた瞬間、リオの周りの風景が一変した。森は消え、彼は広大な夜空の中に浮かんでいたのだ。彼の足元には何もなく、ただ星々が彼の周りを舞っている。

「これは…一体?」

驚愕するリオの前に、突然一人の女性が現れた。彼女は美しい光のドレスをまとい、その顔には優しい微笑みを浮かべていた。

「ようこそ、星の世界へ。あなたがここに来るのを待っていました。」

リオは戸惑いながらも彼女に尋ねた。「ここは一体何なんだ?俺はただ宝石を探しに来ただけなんだが…」

女性は静かに首を振った。「この世界に来た者は、欲望を持ってはならない。星はあなたを試すために降り注いだのです。あなたがそれに触れたことで、ここに導かれたのです。」

リオは後悔の念に駆られた。「じゃあ、俺はここから出られないのか?」

女性は優しく微笑みながら答えた。「欲望を捨て、純粋な心で星々を見つめれば、元の世界に戻ることができるでしょう。」

リオは深呼吸をし、心を落ち着かせた。目を閉じ、欲望を捨て、ただ目の前に広がる美しい星々を感じ取ろうとした。やがて彼は穏やかな気持ちになり、目を開けると、再び森の中に戻っていた。

彼の手には何も残っていなかったが、心には新たな気づきが刻まれていた。

「欲望にとらわれては、本当の宝物を見失ってしまうんだな…」

リオはそうつぶやき、静かに村へと帰って行った。星の降る森の秘密を胸に抱きながら。


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