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CPIとPCE:知っておくべき、投資に役立つ重要キーワード17選【米国株編】⑮

パンデミックからの回復過程でおこった米国の急激なインフレ(物価の継続的な上昇)。中央銀行であるFRBは連続の利上げで対抗しましたが、そのインフレの現況や進み具合を示すのが、消費者物価指数(CPI)や個人消費支出(PCE)です。詳しく見ていきましょう。


CPI(消費者物価指数)とPCE(個人消費支出)デフレーター

CPI

Consumer Price Index、CPIは、都市部の消費者が購入する商品やサービスの価格変動を測定し、インフレ率を示す指標。米労働省労働統計局が毎月中旬に前月分を発表。人口の約90%を対象とする全都市消費者物価指数が使用され、食品、エネルギー、住居費などさまざまな項目で構成されており、住居費のウェイトが最も高く約40%を占めています。

全項目を含む総合CPIと、変動の大きい食品とエネルギーを除いたコアCPIがあり、都市部中心の家計調査に基づきます。基準年の品目ウエイトを用いるため、新製品や低価格品への代替消費が反映されにくく、また医療費などは消費者の自己負担分のみを計上します。

PCE

米国商務省が発表する、家計が消費した財やサービスを集計した経済指標で、英語では「PCE(Personal Consumption Expenditures)」。個人消費支出は、米国のGDPの約7割を占めており、GDPの先行指標として重要視されています。また、個人消費支出の中でも、食品とエネルギーといった価格変動の大きい項目を除いた「コアPCE*デフレーター」は、米連邦準備制度理事会(FRB)がインフレ動向を判断するために注目する指標です。

*デフレーターは、物価変動の影響を取り除く役割を果たす、名目値から物価変動の影響を取り除いて実質値を算出するための係数や指数を指します。

チャートで比べると

最新の数字では、CPIが、8月2.5%、コアPCEデフレーターは7月2.6%となっています(8月分は9/27に発表)。下記のチャートで見てもインフレが落ち着いてきていることがわかります。

<CPIとPCEコアデフレーター>

主な違いは?

  1. データソース

  • CPI: 家計調査による消費者購買データ

  • PCE: 企業調査による小売販売データ

  1. 調査対象範囲:

  • CPI: 主に都市部

  • PCE: 米国全体

  1. 計算方法:

  • CPI: ラスパイレス指数(基準時点のウェイトで固定)

  • PCE: フィッシャー指数(消費行動の変化を反映)

  1. 医療費等の扱い:

  • CPI: 消費者の自己負担分のみ

  • PCE: 企業や政府負担分も含めた全額

  1. 品目のウェイト:

  • CPI: 住宅費用のウェイトが高い

  • PCE: 医療費のウェイトが高い

  1. 発表時期:
    このnoteを書いている9月時点では、8月CPIの発表日が9/11、PCEが9/27となっています。

  2. CPI: 毎月中旬(前月分)

  3. PCE: 毎月下旬(前月分)

PCEの方がより包括的で消費行動の変化を反映しやすいためFRB(連邦準備制度理事会)は金融政策の判断においてPCE、特にコアPCEデフレーター重視しています。一方、CPIは発表が早いため市場の注目度は高くなっています。

PCEデフレータがCPIよりも広範囲に計測されるのは?

  1. 調査対象の違い:
    CPIは都市部の消費者を対象とした家計調査に基づいているのに対し、PCEデフレータは全米を対象とした企業調査に基づくため、PCEデフレータはより広範囲な地域をカバーしています。

  2. 消費の定義の違い:
    PCEデフレータは、消費者が直接支払う費用だけでなく、企業や政府が消費者に代わって支払う費用も含めています。例えば、医療費の場合、CPIは消費者の自己負担分のみとしますが、PCEデフレータは保険会社や政府が負担する分も含めて計上します。

  3. 品目の範囲:
    PCEデフレータは、CPIよりも広範囲の商品やサービスを含んでいて、非営利団体が提供するサービスなど、CPIでは捉えきれない項目も含まれます。

  4. 消費行動の変化への対応:
    PCEデフレータは、消費者の行動変化や新商品の登場に対してより柔軟に対応できる計算方法を採用しており、消費パターンの変化をより正確に反映することができます。

  5. データソースの違い:
    CPIが家計調査に基づいているのに対し、PCEデフレータは企業の売上データなど、より包括的なデータソースを使用しているため、より広範囲な経済活動を捉えることができるとされています。

以上のように、PCEデフレータはCPIよりも広範囲かつ包括的な物価指標となっており、米連邦準備制度理事会(FRB)が金融政策の判断において重視する指標とする理由がわかると思います。

エネルギーや食品(食料)を除く主な理由は?

  1. 価格変動の激しさ:
    エネルギーと食品は他の品目に比べて価格変動が大きく、短期的な要因に影響されやすい傾向があります。例えば、天候の影響で生鮮食品の価格が急激に変動したり、国際情勢によって原油価格が大きく変動することがあります。

  2. 基調的なインフレ傾向の把握:
    変動の大きい項目を除外することで、より長期的で基調的な物価変動の傾向を把握しやすくなります。中央銀行などの政策決定者は、一時的な要因による変動ではなく、持続的なインフレ圧力を見極める必要があります。

  3. 金融政策への適用:
    中央銀行は金融政策の決定において、短期的な変動よりも長期的な物価動向に注目。コア指数を用いることで、より適切な政策判断が可能になります。

  4. 消費者行動の反映:
    エネルギーや食品は必需品であり、価格が変動しても消費量が大きく変化しにくい特徴を持ちます。除外することで、消費者の選択的な消費行動をより正確に反映できる可能性が高まります。

  5. 指標の安定性:
    変動の大きい項目を除外することで、物価指標全体の安定性が高まり、経済分析や予測に適した指標となります。

ただ、エネルギーや食品を除外することで重要な情報が失われる可能性もあるため、総合指数と併せて分析することが重要です。また、日本で生鮮食品のみを除外したコアCPIが主に使用されるように、国によってコア指数の定義が異なる場合がありますので、比較する場合は注意が必要です。

FRBがPCEデフレーター、コアを重要視するのは?

  1. より包括的なデータ:
    PCEデフレーターは企業調査に基づいており、CPIよりも広範囲の商品やサービスをカバー。全国を対象としており、都市部に限定されるCPIよりも広い範囲のデータを含んでいます。

  2. 消費行動の変化を反映:
    PCEデフレーターは消費者の行動変化や新商品の登場に対してより柔軟に対応できる計算方法を採用。CPIは一定期間品目が固定されるのに対し、PCEは代替消費などの変化を反映します。

  3. 医療費等の扱いの違い:
    PCEデフレーターは、企業や政府が負担する医療費なども含めた全額を計上。CPIは消費者の自己負担分のみを計上するため、実際の消費動向をより正確に捉えられると考えられています。

  4. バイアスの小ささ:
    CPIはラスパイレス指数を採用しているため「上方バイアス」(実際の値よりも高めに算出される傾向のことを指します)が生じやすいのに対し、PCEデフレーターはこのバイアスが小さいとされています。

  5. GDPとの整合性:
    PCEデフレーターはGDP統計の一部であり、経済全体の動きとの整合性が高いという特徴があります。

  6. コア指数の定義:
    PCEのコア指数は、より適切に基調的なインフレ傾向を捉えられると考えられています。

まとめ

経済成長にとって、急激なインフレは、足枷となりますが、FRBの見事な対応によって、今回のインフレ退治に米国が成功したことは、明らかです。さらに9月時点でのFRBによる経済見通しでは、コアPCEデフレーターは、2025年が2.2%、2026年、27年とも2%になっています。FRBが、目標とする、経済にとっても心地よい、インフレ率2%は、達成されつつありますが、今後もCPI、PCEをはじめとする、インフレ動向には中央銀行だけではなく、投資家からも注目が集まります。

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*ご注意-このnoteは企業IRや直近のニュース等を参考に、一般的な情報提供を目的として書いています。投資家に対する投資アドバイスではありません。投資における最終意思決定は、ご自身の判断でお願いいたします。またデータ等の数字は、細心の注意を持って記載していますが当noteに載せている情報に基づく行動で損失が発生した場合においても、一切の責任を負いかねますので、ご了承ください。

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