インテル(INTC)最新決算:「インテルまいっている」は本当なのか?配当停止と100億ドルのコスト削減計画【4-6月/Q2,2024】
インテル(INTC)は、世界最大級の半導体企業として、その技術力と市場での影響力を誇ります。しかし、近年の業績の低迷や市場での競争圧力が増す中、同社は大規模な変革を迫られています。Q2、第2四半期決算では100億ドルのコスト削減計画が発表されましたが、その目的や今後インテルの方向性について探ってみようと思います。
インテルという会社
インテルは1968年7月18日にロバート・ノイスとゴードン・ムーアによって設立されました。1971年には世界初のマイクロプロセッサ4004を発表し、コンピューター産業に革命をもたらしました。
1972年に株式を公開し、その後急成長を遂げます。1980年代にはIBM PCに採用されたことで飛躍的に業績を伸ばし、1990年代以降には、ウィンドウズのマイクロソフトの爆発的な成長とともに、「Intel Inside」(インテル入ってる)キャンペーンで消費者向けブランドとしてもその地位を不動のものとしました。
2000年代に入ると、モバイル市場での失敗や競合他社の台頭により苦戦を強いられます。そして今回の業績悪化を受け、大規模なリストラを実施し、従業員の15%削減と配当停止を発表となりました。
AI時代に向けた事業転換を図っていますが、競合他社との差を埋められるかが課題と指摘されています。創業から50年以上を経て、インテルは半導体業界の巨人としての地位を守りつつ、新たな成長戦略の構築に取り組んでいます。
インテルの第2四半期の業績とは?
最終赤字を計上
売上高:128億ドル(前年同期比▼1%)
営業利益:▼19億6400万ドル
*GAAPベースのEPS:▼0.38ドル
**非GAAPベースのEPS:$0.02
4-6月期決算で2四半期連続の最終赤字を計上
7-9月期の売上高見通しが市場予想を大幅に下回る
Q2の業績は、インテルが直面している厳しい市場環境を反映。売上高はわずかな減少となっていますが、利益は大幅に低下。GAAPベースのEPSが赤字となっていることは、同社の収益力に課題があることを示しています。
*GAAPは「一般に公正妥当と認められた会計原則」を指し、企業の財務報告に使用される標準化された会計ルール。一方、非(non)GAAP指標は、GAAPに基づく財務諸表から特定の項目を除外または調整して算出される代替的な業績指標です。
部門別の売上高
インテル・プロダクツ:117億9,900万ドル
-クライアント・コンピューティング・グループ
(デスクトップ,ノートブック,その他):74億1000万ドルデータ・センター ・アンド・AI:30億450万ドル
ネットワーク・アンド・エッジ:13億4,400万ドル
インテル ファウンドリ:43億2,000万ドル
セグメント間取引:▼42億5,400万ドル
100億ドル(約1.5兆円)のコスト削減で何を?
以下の理由から、100億ドルのコスト削減計画はたてられました。
市場競争力の強化:近年、半導体業界は急速な技術革新と激しい競争に直面。インテルは、競合他社と勝負するために、より効率的なオペレーションとコスト構造が必要。
利益率の改善:インテルのCFOであるデビッド・ジンスナー氏も述べているように、売上総利益率はAI PC製品の立ち上げ加速に伴うコスト増や未使用の生産能力によって圧迫。改善には、支出削減が不可欠。
長期的な財務健全性の確保:100億ドルのコスト削減は、インテルの財務体質を強化し、負債を減らすための手段。これにより、インテルは将来的な投資や株主価値の向上を目指すことが可能となります。
人員削減と配当停止の背景は?
インテルは今回のコスト削減の一環として、15%(1万5000人)以上の人員削減を実施すると発表。また、2024年第4四半期から配当を停止することも明らかにしています。
人員削減
大規模な人員削減は、短期的には社内の士気や企業文化に悪影響を及ぼす可能性がありますが、長期的にはコスト構造の軽減に寄与し、より効率的な事業運営を目指すことができます。
配当停止の理由と影響
配当停止は、一時的なキャッシュフローの確保と財務の健全化が目的。CEOのゲルシンガー氏は、将来的にキャッシュフローが改善すれば、競争力のある配当を再開する意向を示していますが、
配当停止は投資家にとって大きな変化ですので、短期的には株価にさらなる圧力をかける可能性を一部市場関係者からは指摘されています。
インテルのIDM 2.0戦略と新たなオペレーティング・モデルの導入
インテルは、IDM 2.0戦略を通じて、自己改革を推進しています。IDM 2.0戦略は従来のIDM (Integrated Device Manufacturer=半導体の設計から製造そして販売までを自社で一貫して行なう企業) モデルを進化させたもの。
インテルの伝統的なアプローチを基盤としながら、新たな要素を加えて拡張、同社が自社製造能力を持ちつつ、外部製造を活用するハイブリッドモデルであり、市場の変動に柔軟に対応できる体制を整え、競争力を維持しようとするものです。
具体的には
従来のIDMモデルの維持:インテルは引き続き、自社製品の設計、製造、販売を一貫して行う。
製造能力の拡大:アリゾナ州に新たな製造施設を建設するなど、製造能力を大幅に拡大する計画。
外部ファウンドリーの活用:必要に応じて外部の半導体製造サービスも利用。
Intel Foundry Services (IFS) の設立:他社向けの半導体製造サービス(ファウンドリーサービス)を提供する新部門を立ち上げました。
先端技術の開発:7nmプロセスの開発を進め、2023年からは、量産体制に。
グローバル展開:米国と欧州でファウンドリー能力を持つ大手プロバイダーを目指します。
このように、IDM 2.0戦略は従来のIDMモデルを基盤としつつ、製造能力の拡大、外部ファウンドリーの活用、他社向けファウンドリーサービスの提供など、より柔軟で拡張性のあるアプローチを採用しています。これにより、インテルは自社製品の競争力を維持しながら、半導体製造業界での新たな成長機会を追求しています。
インテル® 18Aの導入が意味するものは?
インテルは、次世代プロセス技術である「インテル® 18A」を2024年に導入開始。この技術は、パンサー・レイクやクリアウォーター・フォレストといった新製品に搭載され、インテルの製品ポートフォリオの中核を担うことになります。
インテル® 18Aは半導体の微細化をさらに進めることで、性能と効率を大幅に向上させると同時に、インテルは市場での技術リーダーシップを取り戻し、AIやクラウドコンピューティングなどの新興分野でも競争力を高めることを期待されています。
Intel 18A
Intel 18Aは、Intelの最先端の半導体製造プロセス技術の1つです。
1.8nm(*ナノメートル)相当の微細化プロセス技術
2024年末までに製造準備が整う予定で、TSMCの2nmプロセスに対抗。その他、3Dトランジスタ技術、 裏面電源供給網技術などがあります。
インテル® 18Aでは、電力性能やコストの大幅な改善チップサイズの小型化、電力効率の向上が期待されます。すでに開発が完了し、テストチップの動作確認済みで、AI PC向け「Panther Lake」やサーバー向け「Clearwater Forest」プロセッサで採用予定2025年から量産開始予定となっています
ファウンドリービジネスへの影響
Intel Foundry Servicesの重要なプロセスノード(製造技術の総合的な性能を表す指標)となる見込み。
2025年上半期には最初の外部顧客製品のテープアウト(半導体チップの設計が完了し、製造のための準備が整った状態)が予定。
Intel 18Aは、Intelが半導体製造技術で業界トップの座を取り戻すための重要な技術と位置付けられています。TSMCなどの競合他社に対抗し、ファウンドリビジネスを強化する上で大きな役割を果たすことが期待されています。
インテルの現在のビジネスモデル
IDM 2.0戦略
インテルは「IDM 2.0」と呼ばれる戦略を採用しています。これは従来の垂直統合型モデル(IDM=ntegrated Device Manufacturer =半導体の設計から製造そして販売までを自社で一貫して行なう)を進化させたものです。自社製品の設計・製造
従来通り、自社設計のCPUやその他の半導体製品を自社工場で製造。ファウンドリサービス
Intel Foundry Services (IFS)を立ち上げ、他社の半導体製品の受託製造も行っています。外部ファウンドリの利用
必要に応じて、TSMCなどの外部ファウンドリも利用。
インテル、エヌビディア、TSMC
TSMCとNVIDIAとインテルの違いは?
TSMCとの違い
インテルは自社製品の設計・製造も行う
ファウンドリ事業はまだ規模が小さい
製造技術でTSMCに遅れをとっている
NVIDIAとの違い
インテルは自社で製造設備を持つ
インテルはGPUだけでなく、CPUなど幅広い製品を扱う
AIチップ市場でNVIDIAに大きく後れを取っている
インテルのビジネスモデルは、TSMCのファウンドリ事業とNVIDIAの設計能力を併せ持つことを目指していますが、現状ではどちらの分野でも追いつけていません。インテルは自社の強みである垂直統合モデルを活かしつつ、ファウンドリ事業の拡大とAI市場への進出を図っていますが、まだ道半ばの状況です。
インテルの未来は明るいか?
1990年から2000年代を席巻した、『インテル入ってる』は、『インテルまいっている』と揶揄されるほど、現在のインテルは輝きを失っています。半導体チップの設計では、エヌビディアに置いていかれ、半導体製造では、TSMCをはじめとする、ファウンドリーのビジネスモデルに大きく水をあけられています。しかし、ここに来て、ようやく
インテルは、100億ドルのコスト削減と技術革新によって、長期的な成長と競争力の強化への道を歩む機会を得ることができました。
インテル® 18Aの導入は、同社が再び技術リーダーシップを取り戻すための重要な一歩となる可能性を秘めています
もちろん、短期的には不透明感や競争の激化が続く逆風の中で、マーケットからは、厳しい評価をされる状況も想定されますが、技術革新と効率性の追求が成功すれば、インテルは再び半導体業界での地位を回復、リードする確率は、高くなるものと思われます。
About インテル
設立:1968年
上場:1971年
ティッカー・シンボル:INTC
セクター:情報技術(Information Technology)
株式時価総額:915億ドル(約13.7兆円,8/21時点)
年間売上高:542億ドル(約8.1兆円,2023年)
ライバル企業:エヌビディア(NVDA),クアルコム(QCOM)
日本での同業種:ソニー(6758),ルネサスエレクトロニクス(6723)
従業員数:124,800人(2024年末までに15,000人を人員削減予定)
投資金額の目安
21.41ドル×147円×1株=3,147円~
*手数料は入れていません。為替(ドル・円)、株価は変化します。
まとめ
人員削減や配当停止など、100億ドルのコスト削減は、インテルの決意のあらわれでもあります。また、Intel 18Aの成功はIntelのIDM 2.0戦略(自社製品の製造と外部顧客向けファウンドリサービスの両立)の有効性を示す重要な指標となります。
インテルにとって短期的には厳しい局面が続くかもしれませんが、長期的にはこれらの取り組みが同社の成長と市場での地位強化に寄与し、支出削減と財務強化は、将来的な投資能力を高め、株主価値の向上に繋がると期待されています。
よくあるQ&A
今回の決算や事業内容をQ&Aでおさらい・・
Q: インテルの配当停止は株主にとってどのような影響がありますか?
A: 配当停止は短期的には株主にとってネガティブに感じられるかもしれませんが、これはインテルが財務を強化し、将来的な成長を目指すための一時的な措置です。キャッシュフローが改善すれば、再び競争力のある配当が再開される可能性があります。
Q: インテル® 18Aはどのような技術ですか?
A: インテル® 18Aは、次世代の半導体プロセス技術であり、微細化技術をさらに進化させたものです。これにより、インテルの製品はより高性能かつ効率的になると期待されています。
Q: IDM 2.0戦略とは何ですか?
A: IDM 2.0戦略は、インテルが自社製造と外部製造を組み合わせるハイブリッドモデルです。この戦略により、インテルは市場の変動に柔軟に対応し、競争力を維持することを目指しています。
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*ご注意-このnoteは企業IRや直近のニュース等を参考に、一般的な情報提供を目的として書いています。投資家に対する投資アドバイスではありません。投資における最終意思決定は、ご自身の判断でお願いいたします。またデータ等の数字は、細心の注意を持って記載していますが当noteに載せている情報に基づく行動で損失が発生した場合においても、一切の責任を負いかねますので、ご了承ください。
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