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スープをつくろう

 野菜たっぷりのスープを作ろう。
 まずは、鍋に水を入れ、火の通りにくい人参から入れる。水が沸騰するまでに時間があるので、その間に他の野菜を切って行こう。
 キャベツ、セロリ、ブロッコリー、それからキノコや豆も用意しよう。
 並んだ色鮮やかな食材たち。それらが、次第にぼやけて見える。
 玉ねぎは切っていないのに、私の目からは涙が溢れていた。
「もう、あきらめたんです」
 数時間前に、私が口にした言葉だ。
 あきらめるものかと歯を食いしばっていた私が、この言葉を口にするまで、どれほどの苦しみがあったのか、きっと相手には伝わらなかっただろう。だって、私は、笑顔でその言葉を口にしたから。
 惨めに思われたくなかったから。同情されたくなかったから。だから、私は、思いっきりの笑顔を浮かべるしかなかった。
 タイムリミット。時間は恐ろしく残酷だった。砂時計の砂のように、可能性は少しずつ地に落ちて、やがてなくなってしまった。時間を戻せるのなら、やり直したいが、今の科学では無理だ。
 あきらめるしかない。思い知らされたものの、口にすることは出来なかった。口にしたらもう終わりだと思った。
 しかし、私は、とうとう言葉にしたのだ。自分で終止符をうったのである。
 時間は戻せないのだから前を向こう。わかっている。だけど、今は、悲しむことを許してほしい。
 鍋から沸き立つ音が聞こえて来た。
 私はぼやけた視界の中、用意した食材を鍋に投入し、蓋をした。しばらく煮込むことにする。
 野菜たっぷりのスープは身体にいい。きっと、私を元気にしてくれる。
 ぐつぐつと煮える音に紛れながら、私は声を上げて泣いた。
 スープが出来上がるまでには、きっと、泣き止むから。

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