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保育士試験に見る発達障害①

 昨年末、私は保育士試験を受けた。

 と言うのは私、いつかオタマが今ほど手を必要としなくなったら、放課後デイや発達ちゃん向けの塾などでピアスタッフ的なことをしてみたいから。
 せっかく当事者であることを明かして生きていくなのなら、当事者にしか出来なさそうなこと、どんどん探したい。

 その為には、まず、現在の児童福祉関連事情を知ろうと思った。私が教育学部で学んだ頃は発達障害の概念すら怪しかったのだ。当事者目線とか何とか言う前に、子どもに関わる方々が学んでいる一般常識をアップデートしないと。  
 そこで児童福祉を幅広くカバーしてそうな保育士試験に狙いを定めた。
 勉強し始めてみると、ほーらね、出る出る。発達障害やら、虐待の兆候やら、里親制度やら。学生時代の私の部屋へワープして、この本たちを置いて来たい。
 

 試験当日も、女子大生に戻った気分でホクホク問題を解いていたが、ある事例問題を読んで鉛筆がハタと止まった。事例問題とは、児童関連施設で実際に起こりそうな事例に対して、児童に関わる職員(例えば保育士)が、どのような行動で対処すべきか問うものである。

 少し長いが、そのまま引く。

【事例】
 Wちゃん(4歳、女児)は、保育所では活発で他の園児とも楽しく遊ぶ子である。身長体重は平均よりやや高く、重い。これらから保育所では、Wちゃんを特に気になる子どもとは考えていなかった。保育所には母親が送り迎えをしている。母親は、しばしば迎えの時間を忘れたり、間違えて遅くなることがあり、保育所はその都度、母親に電話連絡した。また、母親は冬であってもビーチサンダルで保育所に送り迎えし、Wちゃんが「靴はいて」と話しても、頓着がないようである。Wちゃんは、母親が迎えに来ると、遅れた場合は「まただー」とややごねるが、そのあと保育所で当日あった話などをして、手をつないで楽しそうに帰って行くことが多い。
 保育士が家庭訪問した時の観察では、Wちゃんにとって身体的に危険なほどではないが、家は整頓、片付けされていなかった。母親自身も家事全般が苦手であると話している。Wちゃんも「カレーライスにカレーをかけないで、食卓に出すよ」などと話したこともあった。Wちゃんは、不潔な服を着、髪もぼさぼさで登園することが時としてある。Wちゃんはそれを嫌がっているものの、「朝時間がなかったから」などと保育士に伝えていた。
  
 令和3年 保育士試験(後期)及び 国家戦略特別区域限定保育士試験問題 「保育の心理学」18頁より 

 
 ―――??!
 ギャァァァすみませんすみませんすみません。
 
 誰にともなくアワアワする私。
 これは試験問題だから大袈裟めにかいてるけど、つまり―――うち?
 うちみたいな家には、気をつけろって言ってるんですよね?問題解く側にのこのこやって来て、ホントすみません!!

 ちなみにこの事例の正解の対応は

 母親とさらに時間をとって、困っていることや、通院歴などを聞き、母親理解を深める。

 となっており、ちょっと安心する。
 ネグレクトを疑って通報とか、Wちゃん本人に母親から不適切に扱われていることを伝える、みたいな選択肢もあったけど、迷う受験生もいるのだろうか。保育士試験は正誤の組合せだから、母親理解を深めつつ念の為に通報、みたいな解答も人によってはできてしまう。(でも今回の場合、母親理解のみを選択が正解)

 
 試験は無事に終了し、保育士試験も有り難いことに合格していた。 
 だが、試験が終わって落ち着いた今こそ、保育士試験の事例問題に見る発達障害者の姿を受験生としてではなく、当事者として読んでみたい。 

 この事例問題で、母親には何らかの疾患や障害があるのは確かだろう。何かしらの支援も必要そうだ。
 ただ、当事者として読むなら、カレールーかけ忘れて台所に戻る、とか朝時間なくて子どもの髪がぼさぼさ、くらいは許して欲しい。

 もしかしたら、園側が問題ナシとしてるWちゃん、内弁慶タイプで家庭ではウルトラスーパー多動かもしれない。4歳にして母親のビーサンに突っ込んだり、色々話す描写の口達者な感じ、娘とそっくりだ。それに実際、娘を含め発達凸凹でも、言葉の発達が早くハキハキしてるだけで、園での評価はしっかりもの、みたいになってる子は多いと思う。
 だとしたら、子どもがうろちょろしてる中で熱いカレーのルーをかき回すのは大変だし、風呂上がりも走り回ってドライヤーさせてくれないのかもしれない。(娘の頭は毎朝、信じられないくらい鳥の巣だ。ドライヤー嫌いかつ、寝ている間にも動きまくるせい?)

 もしこの事例が、そこまで加味して書かれているなら、正解の選択肢として、母親理解の他にWちゃん自身には特性の兆候がないか、園でも観察していくみたいなものが含まれていても良いのではないか。
 親子とも特性がある場合、ただでさえ親は子の特性に気付きづらい。そうすると、親子で直面する色々な問題を全部自分のせいにすることになってしまう。(子が多動でドライヤーをかけさせてくれなくても、ちゃんと髪も整えてやれない私はなんて駄目な親なの、みたいな)
 結果的に疲れ果てて家事の不十分も出てくるだろう。
 我が家は、私や夫の通院歴と合わせて娘の発達検査の結果を保育園に伝えている。その上で関係を築いている為か、たまーにしわしわの服(洗ったけど、アイロンまで行きつかなかった)、ぼさぼさの髪で娘を登園させてしまうことがあるが、今の所、それについて何か言われたことはない。

 保育士試験の勉強は、最新の児童福祉の知識を学ぶことができ、大変面白かった。
 と、同時に、保育士試験の受験生が事例の中で学ぶ「一般的な発達障害者像」と、実際のいち当事者の肌感覚には、微妙なずれがあるのもわかった。これは、発達障害だけでなく「一般的なDV被害者像」、「一般的な里親里子像」など、全てにおいてそうなはずで、このような場合には私は「一般像」しか知らないまま、形だけ学び終えた側に立っている。
 このずれを意識した働きかけは、当事者側からも支援者側からも必要だろう。それが今のところ、最も大きな学びである。

 
 それにしても。この事例以外にも、たまに見かけた髪ぼさぼさ描写。そこ見てます?……ちゃんと、洗ってるよ?

 娘が色気づいて自分からぼさぼさ頭イヤ!と言い出したら、大人しくドライヤーをかけるよう取引をしようと思っていたけれど―――試験以降、寝癖直しウォーターを買った方がいいのかなぁと深く首をひねっている。
 誰か、多動っ子の寝癖対策、いいのあったら教えて下さい。
 そして私、ビーサンで出歩かないようにするからね。ビーサン、持ってないけど!
 

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