見出し画像

【架空文通】浅田さんのお手紙に対する返事(ラカン、精神分析医、診察料一時間三万円、無意識の世界、トラウマ、両親殺害の誓い)

浅田さんへ

 コロナで遠出も飲み歩きもできず、梅雨で日光にも当たれず、自称鬱になった私です。

【ラカンの精神分析本】
 ラカンにだいぶ力を割いているようですね。お手紙で、貴殿が誤字を多発していると謝っていましたが、そうではなく、日本語から派生した貴殿独自語のシニフィアンがそう表記すると定めたのです。だから、誤字ではないのです、ご安心を。

【精神分析医、一時間三万円】
 「相性の良い臨床医にかかれて良かったですね」とありましたが、私としては、「相性が悪くはなかった」というのが実際のところでした。これは良い、どちらともいえない、悪いの三段階で評価した場合、少なくとも一番下の悪いではなかったというと意味です。理由は、医者はほとんど聞いているだけだったからです。一時間のうち、医者がしゃべったのは多くて三分だったでしょう。三万円を出して、医者の発言が三分って、初回は精神分析医ってぼろい商売だなって思いました。しかも、治癒の可能性も、治療期間も分からない、と言われているのですから、もう、心の弱ったものを食い物にしている悪人なのではと思ってしまいます。ただでさえ、猜疑心の塊になっている状態だというのに。

【無意識の世界】
 しかし、二回目、たまに訊いてくることが絶妙なポイントを突いていまして、やはり、そこに精神疾患の原因がありそうだったりするのです。
実際は、「では、一番古い記憶から順番にしゃべってください。」です。ここで面白いのは、人間というものはしゃべりたくない嫌な記憶は意図せず省略してしまうのですが、はたから聞いていて前後が飛んだ感じがするのですね。「あれ、今、話が飛んだけど、それはなぜですか。」と訊いてくるのですよ。そこで、嫌な記憶をよくよく思い出して、しゃべるわけです。心の片隅で悪霊の霧ようにぼやーと存在していた感情を言語化する作業といってもいいと思います。

【両親殺害の誓いのトラウマ】
 私の場合は、こんな悪霊の霧があちこちにあったわけですが、どうも、雑魚キャラかせいぜい中堅幹部レベルでしかなかったのです。こいつらじゃないな、という感覚です。三回目の精神分析の日、家で予行演習しているときに思い出したのです、いつか両親を殺害してやると押し入れの中で宣言した事件を。即座に「こいつだ」と納得しました。これを報告すると、治療終了となりました。

 振り返ると、医者がしてくれたことは時間にして十分にも満たなかったです。しかし、精神分析のやり方が分かっただけでも出費に見合う収穫でした。相性が合ったか、と訊かれると「うーん」です。

 最近は、ハーブを買ってきて、香りでリフレッシュしています。しかし、倦怠感が日に日に強くなってきたので、ハーブの上級神である生薬の一種、イカリソウを通販で買い、葉っぱを食べています。周囲からはヤバイ草を栽培している、と思われています。

 またね