見出し画像

【架空文通】鴨志田さんのお手紙に対する返事(小説の文体、望ましい応募者のトラウマ、純文学寄りの賞、三幕構成)

鴨志田さんへ

 お元気ですか。いつの間にか、お盆直前でびっくりしているところです。毎日、籠らされていると、同じ内容の日が続くので、記憶に残ることが無くて、最後の記憶が結構前で、え、もう、一週間たったの、と思ってしまう事がしばしばあります。

【小説の文体】
 小説の文体は評価軸次第で何がいいのかが変わると考える、とのこと。
 慧眼ですね。そこから言えば、確かにラノベでは読みやすさが重視される、という事になりますね。
 そうなると、一瞬考えないといけないユーモアが好きな私はライトノベルには向いていないと結論付けることができます。やっぱり、そうだったか。迷いが吹っ切れ、さっぱりした顔になった新生私が爆誕しました。ありがとうございます。

【小説新人賞】
 私が応募しようと思っているコバルト短編小説新人賞は十代の女子向けエンターテイメント小説の応募を待っているのではないのか、とのこと。
 え、それ本当ですか。雑誌『公募ガイド』の応募要項ではそんなこと、一言も書いてなかったですよ。は、今、似たような事件を思い出しました。
 六年前に、隣駅にあるお寿司のテイクアウト店でアルバイト急募っていう張り紙がしてあったんですよ。当時から海外移住という夢の実現を図っていた私は寿司職人が特殊技能優遇ビザの対象になることを知っていたので、やっておけば実績作りになるな、と思って、レジの若い女の子に「これ、やってみようと思っているのですけど」と声をかけたんですよ。そしたら、彼女はガラスで区切られた厨房に入っていきまして、代わりに、今、店にいる中で最も位が高い、という感じの六十代と思しき背が低くて痩せた女性が出てきまして、私を見てから、「ああ、これね、これは、その、もういいの。」といって、張り紙をなでてあげるだけで、一向に剥がそうとしなかったんですよ。で、「ということなので、さあ、帰って」と言わんばかりに、こちらに向き直って、一礼をして、私を取り残して、中にそそくさと入ってしまったんです。その張り紙は今日まで間断なく同じ場所に存在しています。で、いつもガラス向こうの厨房を見ると、十代後半から二十代前半のイケメン数人に囲まれる形で、その老婆がにこやかに指図をしているんですよね。ああ、そういうことか、彼女はきっとオーナーで、ここは彼女の城であり、彼女が作りたいように作っている理想郷なのだな、と理解した私でした。しかし、それにしても、あの時、張り紙を一旦剥がすことぐらいはして欲しかったです。私が去った後に再び張るのがめんどくさい、剥がしているほんの数分間が原因で若いイケメンが応募を諦めたらどうすんだ、と言う思いが伝わってきて、悲しい思いをした、という事件でした。

【純文学寄りの賞】
 私は純文学寄りの賞を狙った方がいいのでは、とのこと。
 そう言われるとなんだか自分がとっても高尚な文章を書けると思われているようで、「うむ、当方も左様に考えていたところです。」などと貴殿にええかっこしいの台詞を言ってしまいそうです。
 確かに、カズオイシグロの『日の名残り』を読んだときは、和訳でしたが、品とユーモアを兼ね備えている文章に感動し、「俺も高みを目指して、こんな文章を書けるようになろう。そして、彼と同じくノーベル賞を獲ろう。」と、周囲が耳を疑う決心をしました。
 しかし、その後に読んだ岸本佐知子の『気になる部分』と彼女が推薦する町田康の『くっすん大黒』が、普段から私が考えている事を普段の私の口調で文章にしていて、それが前者はアマゾンで星四・三、後者は芥川賞候補作品であり、作者は後に別の作品で芥川賞を受賞しているとなれば、もう、先ほどの一大決心はひとまず置いといて、まずは一里塚である芥川賞までは自分節でいこうか、と中間決心したところなのです。え、中間決心は私の造語です。

【三幕構成】
 私がどんなに頑張っても話が合わないのは、お前が三幕構成について知らないからだ、とのこと。(ラノベ風に言い換えてみました。)
 という事で、早速、検索しました。なるほど、設定、対立、解決で構成することなのですね。
 確かに、設定、友愛、解決だとそもそも解決も何も無いじゃないか、となりますもんね。
 ちょっと、私が自伝映画を制作するとして、当てはめてみましょうか。食うか食われるかの生殺与奪の毎日、自分以外全員敵(今ここ)、・・・、制作できないことが判明しました。

【最後に】
 またしても長くなってしまいました。同じ作家志望という事で、口角泡を飛ばす内容となってしまいました。もし、紙面にシャボン玉か水風船のように見える淡い模様を発見できた場合は、夏らしい便箋をロフトで選んできてくれたんだろうな、とポジティブシンキングして下さいませ。
またね。