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あのひとは蜘蛛を潰せない


綾瀬まる/あのひとは蜘蛛を潰せない


とある薬局を舞台にした恋愛小説であるが中身は母と娘の関係性、
「悪い人ではないが愛情過多」な母親とそんな母の言葉に縛り付けられながらも母を「かわいそう」に想い離れられない娘の共依存にも似た存在感の変化がベースにある。

主人公の薬局店長の理枝は同居する母の厳しい言葉や言動に悩まされながらも仕事をこなし、学生バイトの三葉と出会い付き合い始める。
自分と真逆の感情や気持ちを迷わず人に伝えられる三葉のその人柄に惹かれ、理枝自身も母と離れ一人暮らしを始め、恋愛を楽しみ悩み、家族との関係性も、職場での立ち振る舞いもだんだんと変わっていく。

私は理枝の自分より相手の事を優先したり、言いたいことが上手く伝えられないもどかしさに共感しながら、周りや自分が見た他人の苦しみと自分の苦しみを比べて自分なんて大した痛みや悩みじゃない、と過小評価してしまう危うさが物語の脆さの正体なのかもしれない、と感じたし

母と娘の関係性が主体の作品って重いものが多いけれどこの作品は重さより、ひとりひとり顔の想像ができる登場人物の血の通っている感覚、優しい三葉やそれに付随する蜜のような甘美さが充分にあって蜜を味わいを慈しみ、気持ちよく読み進めることができて久しぶりに恋愛小説もいいな、と思えた。

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