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同じ夜を乗りこなした君へ【サカナクション】

昨年に比べてライブに行く頻度は増えたものの、
まだまだ前のように頻繁には行けていないライブ。
それでも今年は、2回も大阪城ホールへと足を運ぶこととなった。

私が初めて大阪城ホールに行ったのは、サカナクションの6.1ch公演の時だった。
ライブに限らず、誰しも初めての新しい経験は、色濃く記憶に残っているのではないだろうか。
私もそれに違わず、初めて大阪城ホールへと足を踏み入れた日のことを、今でもしっかりと覚えている。

そして、12月22日。サカナクションアダプトツアー二日目の公演。
この日もきっと色濃く記憶に残ることだろう。と、いつも通り期待を抱いていた。
場所としての思い出だけでなく、サカナクションはいつも私に新しい体験を提供してくれるからだ。

▼開演30分前

12月22日。
ライブ前の用事が予想外に長引いてしまい、用事が終わった瞬間に私はダッシュで電車に乗り、会場へと向かった。
大阪に住んでいるとはいえ、いまだに電車を乗り間違えるし、線が多くて覚えきれない。
しかも大阪城ホールへ向かうときはいつもJRの環状線から乗っていたらしく、電車から降りた時に全く知らない景色が飛び込んできて、私はプチパニックになった。
街灯はあれど、周りは真っ暗。
すぐさま地図アプリを開こうとした時に、奥の方から何やらアナウンスが聞こえてきた。
ふと視線をそちらに向けると、暗闇の中で大きく主張をしている「大阪城ホール」の文字が目に入ってくる。

眩いくらいの電光文字にこんなにも感謝したのは、あの日が初めてかもしれない。
私は開きかけた地図アプリを閉じて、光と音が聞こえる方へと歩みを進めた。
今朝の私の計画では、開演2時間前くらいには着いているはずだったが、開演30分前に着く、というなんとも慌ただしい始まりだった。

会場入り前にささっとグッズ購入だけ済ませて、急ぎ足で会場に入る。
席について息をついたあと、ちらっと周りを見回す。
サカナクションのファン層は、20代〜50代くらいという幅広い印象だ。
Zeppでのライブツアー時と比べると、若干年齢層は高めの印象を受けた。
今回のライブのチケットが、通常時のライブと比べて高かったことも層に関係してるのかもなぁ、なんて考える。
あとすでにほとんどの人が着席していたため、お客さんのファッションをあまり見ることができなかった。残念。


そんなことを考えていると、開演の時間となり、アナウンスが入る。
少し会場の空気がピシッと研ぎ澄まされる。
私も大きく息を吸い込む。
サカナクションの世界に飛び込む準備は万全だ。

会場の照明が落ち、音が会場内へと流れ込む。
灯台の灯りのようなライトに照らされ、サカナクションのライブが幕を開けた。


▼幕が上がる(第一幕)

私はアダプトONLINEの配信を見ていたので、大体の曲の流れ、構成はある程度覚えていた。
それでもやっぱりこの曲を聞くと毎回、息をするのも忘れてしまうくらい曲の世界にのめり込んでしまう。

そう 生きづらい
そう 生きづらいから祈った

心の奥の本音を大声で叫ぶのではなく、
溢れかえらないようにしていたコップの中身が何かの振動でゆっくりとこぼれ落ちるかのように歌うこの曲に、いつも心揺さぶられる。
歌は静かに語りかけるけど、それを支えるメロディは、思わず溢した心の本音を支えるかのように、しっかりと背中を押してくれる。
どこか神聖でとてもまっすぐな曲だ。

配信ライブとほとんど同じ構成、ということもあって、配信ライブでこの曲を聴いた時、ポロポロと涙したことを思い出す。
というか、この曲をライブで聴くと私は毎回泣いている気がする。
今日も少し涙がこぼれそうになったが、それよりも、久々に感じることができた、全身を音で包まれる感覚に私は飲み込まれていた。
その場に立ってるはずなのに、会場内に鳴り響く音に身体を支えられてるような人をダメにするクッションの如く、身体にまとわりつくような、そんな感覚。

私は今回、アリーナの割と端の方の席だったのだが、端の席だということを忘れてしまうほど、前後左右、上からも音が押し寄せてきて、度々目を閉じて、全方向の音圧を感じていたほどだ。
この感覚が何より嬉しくて、いつもの感動の涙よりも嬉しさが優った。


今回のアダプトツアーでは、オンラインライブ同様、【舞台×MV×ライブ】というコンセプトがある。
二階建てのアダプトタワーという構造物が、会場のステージ上に設置され、役者さんの演技が曲と同時に進行され、まさに舞台を見ているかのような、リアルタイムで完成されていく作品を目の当たりにするような、特別なライブとなっている。
ツアー前に披露された、オンラインライブと構成はほとんど変わらなかったが、オンラインライブとリアルライブの違いを実際に体験できるライブとなっている。

役者さんの演技とともに、ライブは『なんてったって春』へと歩みを進める。
演技と演出・演奏が目の前で繰り広げられる異様な光景に視界は大忙しとなる。
そんな忙しさをよそに『キャラバン』『スローモーション』が続く。

『スローモーション』では、雪が降るような演出もあり、曲の世界観が会場中に一気に広がる。
遡ってみると、約2年ぶりのサカナクションのライブだが、なんだかこの曲も久々に聞いた気がする。
その証拠に、MVの怪物たちのダンスをすっかり忘れていた。
ちらりと周りを見回しても、奇妙な動きをする人は1人も見当たらなかった。
この曲がリリースされた後のライブでは皆ひっそりと踊っていたのになぁ、と思いながら、雪が舞う会場で、私たちはへんてこダンス、ではなくゆらゆらと音楽に身を任せて踊った。


続く『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』のイントロが始まった瞬間、会場の空気が一気にぐんっと上がった感じがした。
まさに待っていました、、!と言わんばかりの温度上昇だった。
この曲で初めてMステに出て知名度が上がったこともあり、この曲がサカナクションの出会い、という人も多いからだろうか。
そしてこちらも2年ぶりのバッハダンス。
席指定のライブといえど、自由に踊れるくらいのスペースはあったため、隣の人に当たらないよう気をつけつつ、ひっそりとバッハダンスをしながら存分にサカナクションの音楽を浴びる。(ちなみに隣席の年配の方が、私同様しっかりとバッハダンスを踊っていてなんだか嬉しくなってしまった。)

会場が十分温まり、そのまま新曲の『月の椀』、そして静かに『ティーンエイジ』へと続く。
このライブで一番印象深かったのが、『ティーンエイジ』から『壁』『目が明く藍色』への流れである。
先に挙げた、このライブのコンセプト、【舞台×MV×ライブ】という部分を強く感じた場面でもあった。(この3曲については、後ほど別記事としてupします!)

ギターの轟く音に負けじと、少女の狂気のような笑い声が響いた『Klee』
悍ましさを感じたまま、深い闇へとゆっくり足を進ませるような『壁』
暗闇の中、一筋の光が溢れてくるような『目が明く藍色』

曲自体が持つ印象や色はもちろんのこと、視覚的な演出も相まって、
目の前に繰り広げられる世界にどっぷりと入り込んでしまった。
自分でも気づかぬ間に涙がとめどなく溢れていた。

『目が明く藍色』の曲終わり、一郎さんが掲げた手からピックを落とし、先ほどの少女の手を固く強く繋ぐように握る光景が映し出されて、ここで演劇でいうところの第一幕が下りたように感じた。

音が鳴り止んだ後も、音楽含めた"表現"にここまで心が揺さぶられるのか、としばらく呆然としてしまった。
そして、驚くべきことに、このライブはまだ序盤なのである。


▼幕が上がる(第二幕)

まるで、ここから別世界に足を踏み入れますよ、と言わんばかりに会場は暗転。
(この場面切り替えの仕方も舞台のような印象を受けた。)
少しの静けさの後、暗闇の中、アダプトタワーをネオンの光が走る。
近未来チックな印象を受けていると、会場に、いつものDJスタイルのサカナクションメンバーが姿を現す。

『DocumentaRy』
昔のライブのインスト曲をライブのセトリに組み込んでくれるスタイルが、個人的にはとっても好きだ。
「歌がなくても音だけで楽しめるでしょ?」
「自由に踊れるでしょ?」
「音楽って楽しいんだよ」

と言われてるみたいで。
そして、まるでその問いに答えるかのように、インスト曲が流れ出すと会場内は一気にクラブと化す。
思い思いに身体を揺らし、ビートを刻み、手を挙げ、自由に跳ねる人。
サカナクションのファン層は、私よりも上の方が多いので、やはり皆本能的に自由に踊るし、何よりその世代の人たちは圧倒的に踊ることがうまい。
踊りの無法地帯と化した会場は、見ているだけでも気分がいい。
みんなが音に酔って我を忘れて踊り狂う姿が素晴らしくって、私まで嬉しくなってしまう。


どこか近未来的な異質空間を創り上げたあと、キーボードの音とともに緑のレーザーが私たちの頭上へと広がる。
『ルーキー』のレーザーは定番化しているが、それでも毎回圧倒される。
目の前のお客さんは、レーザーに手を伸ばして、決して掴めない緑の光を掴もうと必死に飛び上がっていた。
あー、取れないってわかってるけど、レーザー触れたくなるよなぁ、、わかるなぁ。。なんて勝手に共感しながら、手を挙げる。

ミエナイヨルノ ツキノカワリニ
ヒッパッテキタ アオイキミ

コロナ化の前であればみんなで合唱していたところを、声が出せない代わりに必死に手を挙げて応える。
声が出せない分、いつも以上に全身で音楽を楽しむ。(他の人迷惑にならないように)
これが、今の状況下でのライブの楽しみ方であり、マナーだと私は思っている。


『ルーキー』が終わり、またステージの照明が落とされる。
今回のアダプトツアーは、配信ライブとほとんど同じセトリで行われてはいたが、曲順を覚えて参加したわけではないため、純粋にいつものライブのように、曲順含めて楽しみにしていた。
しかし、ルーキーの後の暗がりを見て、これは、『プラトー』が来る!!
と直感的に思った。
『プラトー』についてはこちらの記事でも取り上げています。)

そして、私の予想(というよりオンラインライブでの記憶)は的中。
これからのサカナクションを表すような、私たちへの宣誓のような曲だ

『プラトー』を皮切りに、『アルクアラウンド』『アイデンティティ』『ショック!』『モス』『夜の踊り子』『新宝島』と、フェスで大トリを飾るロックバンドとしてのサカナクションの曲たちが続々と連なる。
サカナクションの分類でいうところの、"浅瀬"の曲たち。

中でも印象的だったのが『ショック!』である。
新曲ながらも、”ショックダンス"という脇を開いたり閉じたりする動きが既に浸透していて、会場中に奇妙な動きをする人たちが続出した。
その異様な一体感がどこか可笑しくて、それまで照明や映し出される映像とか、メンバーそれぞれの動きや音とか、細かいところまで探っていた自分が急にどうでもよくなって、周りの人たち同様、とにかく楽しく脇をワキワキした。笑
他の会場でもそうなのかは不明だが、大阪公演二日目は、ショックダンスだけでなく、なぜか一郎さんが突然ニョッキッキダンス(笑)をし始め、会場中に伝染してよりカオスな空間になっていた。

まだ配信もされていない楽曲であるにも関わらず、ここまで観客を巻き込んで楽しませる曲を創り上げたのは、改めてすごい戦略だな、と思う。
まさに異様なダンス(笑)なんかは、新宝島が大きくヒットし、ライブで行なっている新宝島の動きから着想を得たのかな、なんて考えたり。
メディアへの露見に対して悩んでいたサカナクションであるからこそ、
ただ曲を創り出すだけでなく、受け手の印象、観客の求めるものも追求した、完成された曲の魅せ方なのではないだろうか。

そう考えると、曲1つだけでも一体どこまで計算し尽くされているのだろうか、という疑問が浮かんでくる。
音源を聴いた時の印象、ライブで聴いた時の印象、そして曲によってはライブでアレンジされているものもあるので、アレンジverの印象。
どれも新しい発見があって、毎回サカナクションには驚かされる。

「ただの音楽好きの兄ちゃん姉ちゃんだから」
と、以前MCで語っていたが、
本当に、今まで知らなかった新しい音楽の楽しみ方を教えてくれる、兄ちゃん姉ちゃんだな、とライブに行くたび思い知る。

本編ラストは『忘れられないの』
草刈さんのベースラインが一際映える曲で、【834.194】のアルバムの中でも特に好きな曲だ。
この曲自体がどこか淡い色合いでできているような、懐かしさを感じるものであり、BPMが遅いのもあって、ゆっくりエンディングへと向かっているんだな、と感じた。
『プラトー』からの長く続いた熱気をゆっくりと冷ましてくれて、そのまま夢へと誘ってくれるような、そんな光景がよぎった。


▼アンコール(そして先の未来へ…)

一旦メンバーがステージを去った後、私はへなへなと椅子に座る。
なんだか1本の映画と内容がぎっしりと詰まっている1冊の物語を読み終えたくらいの幸福感と疲労感が一気に押し寄せてきた。
すごいものを体験してしまった、、という気持ちになった。
疲労感はあったが、それよりも心臓がバクバクと大きく鳴って、興奮が止まらなかった。


暫くの拍手の後、メンバー5人がステージに再び現れる。
「声が出せなくても楽しめましたか?」という一郎さんの問いかけに、会場中から大きな拍手が鳴り響く。
そして、恒例の「グッズが売れてない!!!」という嘆き。笑
(今後のツアーに行かれる方は、是非お土産にショックキャンディだけでも買ってあげてください。。笑)


「来年、サカナクションは15周年を迎えます。」
「15年前の曲をやります。」

その言葉で紡がれたのが、『三日月サンセット』『白波トップウォーター』
今思えば、今回のライブでは、過去曲があまりセットリストに組み込まれていなかった。
この曲が入っている【GO TO THE FUTURE】は、まさにサカナクションの初期を感じる楽曲ばかりだ。
一聴すると、どれもシンプルな曲に聞こえるが、歌詞を紐解くと一郎さんの言葉選びに戦慄するし、ベースラインなんかは細かく休符が入っていたり、主旋律の裏で激しく動く、まさに草刈さん節全開で、聴いていてすごく心地良いメロディとなっている。



15年前の2曲を演奏したあと、
このアダプトツアー までの道のりについて、一郎さんが静かに語り出す。
サカナクションは2020年のツアー(SAKANAQUARIUM2020”834.194 光”)が新型コロナウイルスの影響でツアー途中で公演延期となり、その後ツアーの再開断念、という苦渋の決断に至った。
ライブができない、という抑圧されたこの状況を、サカナクションは身を以て体験してきたのだ。
ライブができないなら、配信ライブを。
配信ライブでしか味わえない体験を。

と、サカナクションは私たちに希望新たな楽しみを提供してくれた。

「上京以降、初めてみんなと同じ気持ちになった」
「みんな先が読めない状況下で色々な不安を抱えていて、みんなと同じ夜を過ごしてるんだなと思った」

次々と予定していたライブがなくなり、中には閉店するライブハウスも出てくる中、もしかしたら私たち以上に、音楽を創り出す彼らは先の見えない現状に、未来に、不安を抱えていたのかもしれない。
それでも、私たちと同じ目線に立ってくれて、それでいて、自分たちに何ができるのか、試行錯誤してくれた。

たとえ立ち止まっても後ろを振り返っても、最終的には必ず前を向いて道を作ってくれる。
そんな彼らだからこそ、この音楽が作れるわけで、今この素晴らしい空間が創り出せたのだな、と思った。

「変わらないまま変わり続ける」

一郎さんのその言葉を聞くたび、私は毎回安堵する。
「サカナクションは昔と変わらないよ」なんて、少なくとも私は言えない。曲を聴けば変わっていることは明らかだから。
でもそれでも、私が変わらずサカナクションを好きな理由は、きっとそれだ。
変わらないまま変わり続ける、まっすぐな彼らだからこそ、
彼らが創り上げるもっと先の未来を見たくなるのだろう。


彼らの決意を聞いた後、本当のエンディングへと進んでいく。
転調で曲の印象がガラリと変わる『ナイトフィッシングイズグッド』
サカナクションの強みでもある、全員での合唱も相まって、"サカナクション"として歩み続ける未来を覗いたような気がした。


そして、ライブは、配信ライブと同じく新曲の『フレンドリー』で、
スクリーンに流れるエンドロールとともに熱気と感動に包まれた公演は幕を閉じた。


==========

贔屓目なしに見ても完成し尽くされた、圧倒的なライブでした。
ライブに行くたび、私の中の期待値をどんどん更新してくれるサカナクション。
彼らが行き着く先は今この世に存在しないどこかだろうし、そんな場所に私たちを連れて行ってくれるのか、と思うと、本当にワクワクが止まりません。

ひとつだけ、ひとつだけ今回のライブに不満があるとしたら、
アンコール2曲目の『白波トップウォーター』
この曲は、キーボードとクリック音から始まる曲で、最後全ての楽器の音が消えた後に、わずかにクリック音が鳴って終わるんですよね。
静寂の中で鳴り響くあの曲終わりのクリック音が、この曲が美しい存在であることを更に引き立ててくれるんです。
ただ、今回のライブでは、キーボードの音が鳴り止んだとともに、会場から拍手が鳴り響いて、最後の一音を待たずして曲が終わりを迎えてしまったんです。。。
個人的にそれがすっごくもったいなくって……。
初めてサカナクションのライブに来た人もいるだろうし、仕方ないかもしれないんですが、、
そこはぐっと堪えて、拍手をあと少し待って欲しかった……!
なんだかとっても悔しかったので、
ここまで読んでくださった皆さんは、『白波トップウォーター』の美しい終わり方を!最後のクリック音を!聴いて帰ってください!
お願いします!!!笑




きいろ。


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