見出し画像

エシレバター と シラスボシ

 
 フレンチレストランなどで使われているエシレバターは、1894年にフランス中西部エシレ村で生産されるようになったという。美味ゆえに“バターの王様”と呼ばれているらしいが、普段使いには向かない高級食材で、来客など特別な事がない限り買うことはない。

 そもそもバターが食用で使われ始めたのは紀元前60年頃でポルトガルが最初だという。その後、ヴァイキングやベドウィンといった移動系牧畜民族を介して、ヨーロッパ各地に広がっていったらしい。
 製法は、牛乳から分離したクリームを強く攪拌(かくはん)することによって乳脂肪の塊を集めるという方法で、今でもほとんど変わっていない。

 日本に乳製品として入ってきたのは長崎に出島があった江戸時代だが、民衆に広く普及し始めたのは終戦の1945年以降で、パン食が増えた背景が消費量の後押しをしたようだ。

 ところで自分が子供の頃の夕飯時には、ご飯にバター、シラス干し、醤油をかけて食べる、という裏メニューがあった。それはシラス干しが余っているときに前触れもなく父親がやり始め、なとなくその日は家族みんなが真似をする、といった感じだった。
 これは、和食といえば白米と味噌汁、洋食といえばパン·バターとミルクといった定説を覆す一品で、ミスマッチなようだがシンプルでとても旨い。

 最近この事を思い出し、新米とエシレバターで“バターとシラス干しご飯”を作ってみた。炊き立ての新米にバターを載せた瞬間に芳醇な香りが広がる、季節モノの贅沢な一品を悦にひたりながら堪能した。
 
 パンしかりラーメンしかり、日本人は、海外から輸入した食文化を、勤勉さと探求心からより良いものに昇華させるDNAを持っているようである。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?