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ヌー と King Gnu

 広すぎて空が近くに感じる。地平線まで無限に続くヌーの群れは、人間が地球の主では無い事を思い知らされているようだった。

 以前、タンザニアのセレンゲティ国立公園でサファリをした時には、偶然雨季の時期にも重なり、エサの多い草原を求めてヌーが大移動をする様を見ることができた。ヌーの集団は、春から少しずつ合流して、やがて数万頭から数十万頭の巨大な群れになる習性を持っているという。

 そんな風に、老若男女を巻き込み大きな群れになりたい、という思いが名前の由来だとか。King Gnu(キング ヌー)というバンドの曲が、ずっと頭の中を流れている。

 メディアに登場し始めたのは2年くらい前らしいが、TVを持っていない事もあり、その存在を知ったのはごく最近である。『白日(はくじつ)』という曲を初めて聴いた時には、これは音楽というジャンルなのか?と驚いたが、youtube再生回数3億回越えも頷けるほどに、何度でも聴きたくなる。

 以前読んだ脳科学の本によると、ダリやピカソの絵を“何処かで観たことがある”と感じるのは、彼らが多くの人の脳がイメージする“一歩手前の情景”を描いているから、だという。誰もが持っているイメージだけど具現化できない。その一歩手前を描くことができたとき、その絵は歴史に残る作品になると言うのだ。King Gnuを聴いた時に、まさにそんな印象を受けた。

 魅力的な理由はなんなのだろう。唯一無二のボーカルのハイトーンボイス、低音のハモりと超絶技巧なギター、ジャズのようだけどグルービーなベース、曲の変わり目に確実に加速度をつける力強いドラム、全てが緻密に計算されているのだろうが、なんか分からないけど心地いいのである。

 しかしながら、一番心打たれたのは、彼等がJapan Madeと謳っていることである。漢字仮名混じり文を壊さない文学的な歌詞や、陰鬱さと前向きさの両儀性を想像させる転調などが、醸成された日本らしさの表現、と感じるのかもしれない。

 ところで、アフリカのヌーは、群れで河を渡る時に、ワニに食べられたり溺れたりして、そこで一生を終える事も多々あるらしいが、ヌーの骨から出るリンや微生物が、植物や魚の栄養分となり、何十年にもわたって生態系に栄養を与え続けるのだという。

 King Gnuも、時の洗礼を受けながら、何十年後でも評価されているミュージシャンになっていたら面白いな、と思いながら『三文小説』っていう曲も聴いてみる。

 




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