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人にやさしい世界がいい

身も心も安定して、誰かを思いやる。そんなやさしい人になりたい。手の届く限りでも。

そう思うのは、母がやさしい世界を体現している人だからだと思う。

母はガスの検針員をしている。22年務め上げ、来年に定年を迎える。

毎日重たい機械をぶら下げて、小さな身体で長時間歩き続ける母。雨の日も、風の日も、ガスメーターをチェックする母。頭が下がる思いだ。4人の子どもを育てるために、一生懸命働いてきたのだから。

検針員の仕事は大変なことがほかにもある。横柄な態度をとる住民もいて、つい最近も「いきなり怒鳴られて、泣いちゃった笑」と恥ずかしそうに言うのだ。

「そんな人のために涙を流すことなんてないよ?」と思う。か弱いウサギのような母が目に浮かぶ。住民の方、検針員が過酷な仕事だということをわかってほしい。どうか、やさしくしてください。

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家族のLINEグループでは、母から日々の検針のつぶやきが送られてくる。

「新しくできた美容院へ検針に行ったの。そしたらね、あなたたちと同じくらいの年齢の店長さんで、すごく感じが良かったわ~」

「今日は現場で子ネコちゃんがゴミ捨て場におったわ。親ネコが見当たらなかったら心配だわ汗」

「いつも顔出しくれるおじいさん。出てこないから心配でご自宅見てみたら亡くなってた……。悲しいわ」

母からのLINEを見て、4人の娘たちは思い思いに返信する。(おじいさんの話は、びっくりした)

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(撮影:母)

母のLINEは、いつだって誰かを思いやる言葉で溢れていた。

忙しい日々のなかで、4人の娘たちをやさしい世界で包んでくれていたと思う。わたしたちは甘えすぎていて、ときにそのやさしさに気づかなかったり、傷つけたりした。それでも母はありったけの愛情を注いでいた。

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今から10年以内に、ガス検針は自動化されるという。母が定年したあと、検針の仕事はなくなるだろう。そういう仕事だから、邪険に扱う人もいるのかもしれない。

「検針で~す」と笑顔で仕事をしている母のような人を、やさしい世界で包んでほしい。わたしはそういう世界で生きたいのだ。

「人に対して謙虚でね。そうすれば幸せはやってくるから」

人を憎まず、人を許す。やさしい言葉で誰かを包む。

そんな母のように生きていけるだろうか?

まだ心からできるとは言えないけれど、町ですれ違う検針員さんに、元気よくあいさつをするようにしている。

記:池田あゆ里

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