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1000文字エッセイ集

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日々の想い出を綴った、クスっと笑えてちょっぴり泣けるエッセイです。
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今日しまむらで、妹がデザインした服を買う

わたしは横浜のセンター南駅の「しまむら」で仁王立ちしている。 安くて便利なファッションセンター「しまむら」。郊外に行けば必ずといっていいほど見かけるファッションセンター「しまむら」。 そんな「しまむら」の前で、いつになくわたしは使命感に燃えていた。 この場所に思い入れがあるのではない。売っている洋服に思い入れがあるのだ。そう。わたしの妹がデザインした服が販売されているのだ! その妹とは、わたしの愛する四女、Rちゃんだ。 わたしたちは13歳の年の差があり、高校生の頃に

個人的な産休に入ります【26週~32週目】

妊娠9ヵ月目に入りました。今は、体調に気を付けながら過ごしています。 フリーランスなので、会社から産休手当がもらえるわけではなく……。でも期限を決めずに仕事を続けてしまうと、出産・育児の準備ができないので、「個人的な産休」と題して、12月から2月いっぱいまで仕事を休もうと思います。 この期間は里帰り出産のため名古屋に帰りますが、パソコンは持っていきますのでお気軽にご連絡ください。できる範囲で対応させていただきます。 さて、今の心情を少しだけ。 仕事について。人の人生を

3カ月後に生まれる予定の、この子さん【21週~25週目】

7月中旬は、「腸が活発なのかな」くらいのポコポコッとした気泡がはじけるような感触だった。 8月初旬、次第に「蹴られてるやん!」と感じるほど、へそ下がボコボコと動くようになった。とくに、右腹。ようやく、ひとりの人間を産み育てる覚悟ができた気がする。 望んでいた妊娠であり、春から初夏まで「子どもにとって恥ずかしくない親でいよう!」と思いながら過ごしていた。けれど、そのベクトルは自分に向いていたし、「産む時こわいな。やっぱり無痛分娩ができる病院を探そうかな~」などと不安に感じて

1年半ぶりに人前で踊ってみた話

こんにちは。池田アユリです。 前回、ダンサー・池田組がそれぞれの道を歩き始めることを書きました。 今回はわたしが競技ダンスを引退し、ショーダンサーとしてリスタートしたことを書いてみようと思います。 復帰させてもらったのは、2022年12月末に行われた2回のイベント。ひとつは、会員制の「in Cruises」さまのクリスマスパーティー。もうひとつは一緒に踊らせていただいてる工藤雅文先生の9周年パーティーです。 踊り終えた感想として、自分のなかでの反省や課題はありましたが

【1000文字日記】知らない場所に住むということ

「ああ、やっと1年経ったな」と思った。昨年の10月1日、わたしは縁もゆかりもない町に引っ越した。 38年の人生で居住地を中部→東部→西部と、どのエリアでもわりかし引っ越した方だと思う。出身は愛知。良くも悪くものびのび過ごして地元で就職。25歳で「自分を試すなら東京だ!」と上京し、銀座ではたらきはじめた。翌年、「やっぱ、高級な場所は苦手だ」と思い知らされ、鎌倉で再スタートを切る。その後、住まいを横浜に移した。 そして、今は難波に電車を使って40分ほどの場所に住んでいる。

カモの親子を見た夫と、見れないわたしの違いとは

ある夏の夕方に公園を散歩していると、後ろから夫がやって来て、ワクワクした顔でこう言った。 「さっき、カモの親子がこの道を渡ってるのを見たよ!」 夕方の散歩は、わたしたちにとって日課だ。公園にはわりと大きな池があり、その池の周りはウォーキングコースになっている。 わたしがこのコースを3周する間に、夫はわたしを追い抜いて5周する。つまり、わたしたちの歩幅は2周分違うということだ。 2周多く歩いている夫は見た。カモの親子を……。縦に並んで、左右にお尻を振る親子だったらしい。

ボンカレーの食べかけで、母は恋に落ちた

小学生の頃、無性に親の馴れ初めが気になったときがある。 「なんでケッコンしたの?」 「なんでフウフになったの?」 わたしには、父と母の共通点がわからなかった。よくケンカするし、趣味も性格も違うし、とにかく気の合うところが見当たらなかった。それでもふたりは結婚した。なぜ? 乙女心を持つピュアな性格の母が、にっこり笑って言った。 「付き合いたてのとき、一人暮らしのパパのうちにお邪魔したのね。そこでね、台所に食べかけのボンカレーがぽーんと置いてあったの。それ見たときに、きゅ

新婦からの魔法の言葉

取材を終えて、いざ「インタビュー音源チェック」の時間だ。 「おいおい!なぜ、ここで話を深めなかったんだ?」と、フック&ジャブからのハイキックを自分に打ち込む。これは、インタビューライターであるわたしの日常だ。 自身のインタビューの至らなさに打ちのめされる。肝心なことが聞けてなかったりするもんだから、「時よ戻れ~、タイムリープさせて~」とひとり言。ああ、なんて語彙力が足りないんだ。なんで「なるほどぉ」ばっかり言うんだよ。AI文字起こしが「成歩堂」のオンパレードになるだろ!

水槽のエビを食べた子どもが、どうも愛しい【1000文字小説】

子どもを出産して驚いたのは、「ママだよ」と子どもに話しかけていることだ。 以前は「わたしはわたし」と思っていたのに、子どもと目が会った瞬間に、自然と「ママ」を受け入れた。 ・・・・・ 1歳になったばかり娘、れいながアンパンマンのおもちゃで遊んいる。髪が生えそろっていなくて、まるでキューピーだ。 「こぉんな天使のママなら、悪くないじゃんっ」 ユリカは元気よく言った。 それでも…子育てに向き合う中で焦りを感じていた。人と合わせることができない自分。すぐ忘れ物をしてしま

目に涙をためながら、彼女は【1000文字小説】

散らかったワンルームのベッドに、大切なヒトが眠ってる。 厳密にはヒトじゃない。猫だ。まっ黒な猫の、風太。赤い首輪に鈴をつけて、「魔女の宅急便」のジジみたいだ。 美由紀は、眠気まなこでぼんやりと風太を見つめながら「あぁ、なんてかわいいの」と、思わず声をもらす。丸まって寝ている風太をすくい上げるように両腕で抱きしめたら、「ニャッ!」と拒否られた。 「んもぅ、ツンデレだな。ふーちゃんは……」 枕の下に潜むスマホを取り出して、時刻を見る。 AM8:16。ヨレヨレのスウェット

【1000文字小説】序章「わたしたちの家」

青空の広がる5月、家がショベルカーによって壊された。 その様は、進撃の巨人が街を荒らす光景と似ていた。壁も、窓も、勢いよく吹き飛んで、砂ぼこりがむわっと広がる。 わたし。美由紀。ユリカ。そして、リナ。わたしたち4人姉妹は、家が破壊されていく姿をぼんやりと見つめた。 家の取り壊しが決まったのは、去年の夏だった。愛知県の隅っこの町、長久手市で大規模な区画整理が行われ、家はドンピシャで当たってしまった。大きい道路を作るために、この家は邪魔なんだそうだ。 「まだ10年も住んで

焼きトウモロコシ屋のおじさんに、メンチ切る

小4の頃、お祭りで焼きトウモロコシ屋のおじさんに、メンチを切った。 一列に並べたそれの中で、一番小さくて細いのを渡してきたからだ。わたしは眉間にシワを寄せ、口を横に割りながら睨む。 (チビだからって、ナメんじゃねーぞ。おっさん!) ドスのきいた声を出す。ただし、心の中で。小さなトウモロコシを握りしめながら、母を見つめた。 「500円もするのに、こんな小さなトウモロコシだったよ。お母さん」 「え、そう? うーん。取り替えてって言う?」 「いい。あのオジさん、『やく

ゴールデンウィークは、自分の名前と向き合おう

わたしの名前は、「池田 あゆ里」である。 どこか牧歌的な印象を受ける名前だ。「池・田・あゆ・里」のマッチングが、田舎を彷彿とさせるのかもしれない。 名前について振り返っているのは理由がある。ライティング講座「ぶんしょう舎」の講師、コピーライターの阿部広太郎さんから「自分の名前紹介」という課題があったのだ。 一文字ずつ意味を調べてみて、「おお、わたしの名前って、いいじゃん」と思った。 「池」は「いけ(生け)」を表す漢字。語源は水を溜めておくため、魚を生かせておくための「

2歳児のわたしが口紅をぬった理由

ふと、口紅の減りが遅いことに気づく。 そりゃそうだ。去年から毎日マスクをしているんだから。口紅を使うことが減ったんだ。 でも待って。わたしが一番好きな化粧のアイテムは口紅だ。2歳児のときからその歴史は始まっていた。 おでこのバッテンは口紅(笑)2歳児のわたしはドレッサーの前で口紅を顔にぬりたくっていたらしい。「大笑いしてカメラを探したわ」と母。ちょっと恥ずかしそうにそっぽを向いてるのが、わたしらしいや。 当然こんな小さい頃のことは覚えていないけれど、たぶん、母と同じよ