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マンガ『BEASTERS ビースターズ』に渦巻く「男と女の生きづらさ」

「何かにハマる」にはそれ相当の理由があって、わたしの場合、魅力的なキャラクターに深堀りするのが楽しくてハマる。わたしは敵味方関係なく『BEASTERS ビースターズ』のキャラクターが大好きだ。

この作品は「男と女の生きづらさ」をテーマにしていると思う。動物の世界の話だけど、本能に苦悩する姿は「人間の生きづらさ」そのものなのだ。今日はわたしがなぜ『ビースターズ』に魅了されているのか書いていく。

『BEASTERS ビースターズ』受賞歴

まずは受賞歴について。これは娯楽としてのマンガの域を越えている。現在『少年チャンピオン』に連載中だが、少年の枠に収まらないものがある。

2017年 『このマンガがすごい!2018』(宝島社)オトコ編 第2位
2018年 第21回文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞
2018年 第11回マンガ大賞大賞
2018年 第22回手塚治虫文化賞新生賞
2018年 第42回講談社漫画賞少年部門

平和に見える動物界の闇

【あらすじ】舞台になるのは全寮制で中高 一貫の「チェリートン学園」。この学校では肉食獣と草食獣が一緒に学んでいる。主人公は肉食獣ハイイロオオカミの高校生レゴシ。草食獣ドワーフウサギのハルと仲良くなりたい繊細で心優しい少年だが、見た目の"偏見"や生き物としての"本能"とのギャップに悩み、周囲との軋轢を乗り越えながら心身ともに成長していく。

物語は学園内で草食獣のアルパカのテムが「食殺」される事件から始まる。この世界で肉食獣が草食獣を食べるのは重罪だ。

この食殺事件を背景に、平和に見える動物界の闇に迫っていく。その一方で、学校内に存在する種族の差別問題にも焦点を当てる。まるで現実の人間社会にある「人種やジェンダーによる差別」のよう。

異なる種族とのかかわり合いを擬人化することによって、内面よりも外見で判断されがちな点がわかりやすく描き出されているのだ。

「肉食獣=男性、草食獣=女性」なのか

この作品は「肉食獣=男性、草食獣=女性」のように見せてると思う。肉食獣は強者、草食獣は弱者だ。

もちろん人間の世界では女性が男性を弱者にする場合もあるとは思うが、男性と女性が本気で殴り合いのケンカをしたら女性は勝てない。社会的権力も男性のほうが優位にある。

肉食獣は裏市(非合法な市場)で肉を食べることで、普段は肉食欲を抑えながら生活する。それは男性が自分の性欲をどこかで発散することで表社会にそれを持ち込まないのと似ている。

一方、草食獣は身の危険をつねに意識している。それは女性が苦手な男性に対してうっすら抱く嫌悪感のために、相手といい具合に距離をとる姿に似ている。

主人公のハイイロオオカミのレゴシは、ドワーフウサギのハルへの恋心を「恋愛感情か?狩猟本能か?」と葛藤する場面がある。その姿はまるで「俺が彼女を好きなのは、彼女自身か?それとも体目当てか?」と悶々とする10代男子みたいだ。

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(出典:BEASTARS(ビースターズ)のネタバレ解説まとめ

このような「性の生きづらさ」を、わたしは今まで誰にも言えなかった。そういうことを言うのは恥ずかしいことだと思っていたのだ。だからかもしれない。キャラクターの苦悩を見るほど、わたしは心の奥底にあったグレーな感情を思い出した。「そうか。わたしは生きづらさを感じていたのか」と…。

「捕食すること」は、「差別すること」に似ている

キャラクターたちの「肉食獣であるがゆえ、草食獣であるがゆえの劣等感」にも心揺さぶられる。

・「無害な存在でありたい」と願う肉食獣のハイイロオオカミのレゴシ。
・捕食される側(草食獣)であることに強いコンプレックスをもつアカシカのルイ。
・「小型の草食獣」という圧倒的弱者であることに諦めの境地に達し、他種族と奔放に身体を重ねるドワーフウサギのハル。

捕食する側、捕食される側の心の境地。どちらの感情もリアルだ。作者の板垣巴留(ぱる)さんは、あるインタビュー取材でこのように述べている。

「人は外見で判断して偏見を持ってしまいがちですが、一口に肉食獣といっても、それぞれに個体差があり、個性があります。見た目でひと括りにしたら何もわからない。個人個人にはそれぞれの内面があるということを伝えたくて描いているところもあります。」

わたし自身も「身長が低い」というコンプレックスがある。それは持って生まれたもので、変えることはできない。そのため「所詮大きい人には敵わない。」と心のどこかで諦めている。「捕食すること」は、「差別すること」にも似ていて、「差別された側」の経験を踏まえた上でこの作品を読み進めると泣けてくる。でも、強く生きていきたいとキャラクターの本能と戦う姿を見て、思った。

本能の恋は食うか食われるか

この作品は現在20巻まで出版されているが、後半になればなるほど登場するキャラクターの「本能あるゆえの生きづらさ」を見せつけられる。だって、肉食獣と草食獣が恋なんて・・・食うか食われるかの大問題だ。死ぬくらいなら同種族との恋を選びたい。けど人を好きになるのは本能なんだ。好きな人になら食われてもいい……そう思ってしまったらもうしょうがない。

『ビースターズ』を読むのは男女ともに勇気がいるかもしれない。だって人間の殻を破ったら、わたしたち人間だって本能むき出しだ。そのむき出しの状態をリアルに感じる作品だから、1ページの重みが濃い。

「もし私が肉食獣だったら?草食獣だったら?」

妄想のなかでキャラクターたちと一緒に自分も成長している気持ちになる。

最後に、わたしの好きなこの言葉で締めくくりたい。

「持って生まれたものなんて、何の自信にもならない。自分が見てきたもの感じたものの方が、ずっと心強くて自信になる」
            ーー『ビースターズ』主人公、レゴシの言葉ーー








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