ライター目線で紐解く「ウルトラニッチ」川内イオさんの取材の裏側
見出し画像

ライター目線で紐解く「ウルトラニッチ」川内イオさんの取材の裏側

池田 アユリ@インタビューライター

2020年10月28日に行われたオンラインイベント、「ライター目線で紐解く『ウルトラニッチ』」。

主催はジャンルを問わず「世界を明るく照らす稀な人」を追う稀人ハンター、川内イオさんだ。取材や執筆に悩むライターには、大変ありがたいイベントである。

▼参加された方のツイートを厳選。



こちらのイベントの司会・質問役を任され、イオさんにはお話することに集中していただけるよう頑張ろうと思っていた。がしかし!  人生何があるかわからないもので、ネット回線の問題か、司会である私がイベントに入れないという事態に……。そのため、冒頭から20分、イオさんに一人語りをさせてしまった。(申し訳ありませんでした~泣)

本日はこちらのイベントを、私の感想も交えながら振り返りたい。

川内イオさんのライターの出発点は、公募コンクール!?

2003年からフリーランスライターとして活動を始めた川内イオさん。でも、どう仕事を得ればいいかわからず、考えた末、雑誌「公募ガイド」から出版社が行っているコンテストに応募したそうだ。

「5社くらい応募したかな。そのうちの、株式会社リクルートの文章コンテストで入賞しました。入賞式のスピーチで、『会社員を辞めて、ライターになりましたが仕事がありません。仕事をください!』と話したんです。翌日、そのリクルートさんから仕事をいただくことになって。話がこなかったら、どうしたんだって話ですよね(笑)」

唯一無二の記事を作り出す、あの川内イオさんのスタートが、まさか公募コンテストからだったとは!「ほんと、勢いで生きてきたんだよね」とイオさんは言う。

その縁で仕事が続いていき、2006年に海外へ渡った。「ドイツのワールドカップを現地で見てやる」と思ったイオさんは、「世界一周をしながら、日本のサッカーの勝機を探る」という企画を立てた。それが出版社に通り、月2回の連載が決まったそうだ。

旅費交通費は世界一周航空券だけで50万円くらいで、滞在費など全て自費だったが実行した。そこで出会った著名なサッカーライターに勧められバロセロナへ。そこから4年間、サッカーライターの仕事をつづけた。

「有名な選手にはなかなかインタビューできなくて。それで、いぶし銀のような選手のインタビューを企画してました。その取材がめちゃめちゃ面白かったんです。これが稀人ハンターになる原点でしたね」

ウルトラニッチ、誕生のきっかけ

川内イオさんの近著『ウルトラニッチ 小さな発見から始まるモノづくりのヒント』。ウルトラニッチな仕事に取り組む10人が登場するのだが、熱量がすごい。ひとりひとりの人生が頭に浮かんでくる。

『ウルトラニッチ~』の誕生のきっかけは、一本の記事だった。今年の1月に公開された川内さんの記事『1日30万円を稼ぐリンゴ売り。妻子6人を行商で養う38歳の元ジャズピアニストの半生』。公開24時間で「とんでもないPV」を記録したバズ記事である。

この記事を読んだ「本屋B&B」のの代表である内沼晋太郎さんより、「freee出版という出版社が立ち上がるのですが、そこで本を出しませんか?」と依頼が来たそうだ。

freeeとは、会計ソフトでかなり有名な会社である。(私も利用している。)スモールビジネスを応援するfreee出版と、スモールビジネスを色濃く取材してきた川内イオさんがタッグを組んで生まれたのが、『ウルトラニッチ~』なのだ。

「スモールビジネスを、世界の主役に。」をミッションに掲げ、統合型経営プラットフォームを提供しているfreee株式会社が発足した出版レーベル。(freee出版のサイトより)

川内イオさんが選んだ、ウルトラニッチな人選

本を出版するにあたり、イオさんは過去に取材した8人の再取材の他に、新たに2人を選出。タイトルの”ウルトラニッチ”という言葉が生まれる前、「スーパーニッチ」や「ハイパーニッチ」という案も思い浮かんだが、ウルトラニッチという言葉を思いついたら「これしかない!」と確信したそうだ。

イオさんの言葉を生み出す力は、すごい。イオさんの生み出すワードは神がかっていると以前から思っていた。例えば、ご自身の肩書きの「稀人ハンター」。本当に予測不可能な稀な人をハンティングしている姿がぴったりなのだ。「何をされているときに思いつくんですか?」と聞いてみた。

「なにしてたかな~。カフェでお茶してたときかも。でも、本のタイトルはすごい大事なので、何もしてないときでもずっと頭の片隅にあるような感じでした」

そっか、簡単に生み出されているわけじゃなかったんだな。考え続けることの大切さを感じた。

準備編:調べる、調べる、調べ尽くす。

取材相手の思いを、まっすぐ文章にするイオさん。その裏側には、綿密な取材準備があった。

イベントで、パワーポイントでイオさんのノートの写真が映し出された。A5サイズのページの中央に線を引き、調べた単語や矢印が無数に書いてある。あるウイルスの研究者さんに取材する下調べのメモだ。「一人の取材相手に6ページは使う」とイオさん。半分に区切って書かれているので、つまり12ページ分ということか!

その方が出演しているテレビやラジオ、動画やウェブ記事など、調べ尽くして取材に臨む。よく活用しているのはGoogleやYahoo!検索での「ニュース」ページ。「ノートにもう書くことないや、と思うくらい調べます」とイオさん。

取材編:現地を訪ねる。時間を取る。どこでも行く。

話は取材の注意点まで及んだ。

「肝心なのは、『〇〇ってなんですか?』というような質問をしないこと。例えばこちらの研究者さんは、ウイルスの研究をしている。だから、頻出のキーワードを理解していないと取材にならない。もしキーワードについて質問したら、その方はその説明を話し始めてしまう。そしたら、聞きたいはずのエピソードにたどり着けないかもしれない」

ただ、認識のずれがあると大変なので、イオさんはこのように確認するという。

「『僕が調べた限りだと、〇〇はこういういことだと思うんですが、合っていますか?』って聞きますね。人に焦点をあてる記事を書きたいのだから、『あなたのことはほとんど調べて理解できていますよ』ということを取材の姿勢で伝えなければならない。ここはすごく重要だよ」

こういう確認、自分はしきれていなかったなぁと思った。だから執筆の段階で迷ってしまうのだろう。取材中に、基礎中の基礎を聞いてしまう。そんなインタビュアーにはなってはいけない。

あらゆる稀人に取材してきたイオさん。苦手な分野はあるのか聞いてみた。

「実は、アートの分野が少し苦手です。僕の奥さん(作家の川内有緒さん)は以前パリに住んでいて、付き合っているときによく遊びに行きました。それなのに、ルーブル美術館に一度も行かなかったんです。周りからは『ありえねぇだろ!』って言われました(笑)」

稀人ハンターでも、苦手なものがあったんだ! 自分も苦手な分野があって、悔しい思いをしたことがある。なんだか勇気が湧いた。

そして、取材の仕方について。

「僕はなるべく現地を訪ねるようにしています。1対1でお話して、そこで見えるもの、気づくものが自分の原稿でめちゃめちゃ大事なんですあと、多くのインタビューでは取材時間を設定すると思うんだけど、僕は取材の後の予定は絶対に何も入れないんです。もし取材で仲良くなって飲みに誘われたら、断りたくない。そこでいい話をポロッと聞けることもありますから」

ここでイオさんは、ライターの仕事の心持ちについて語ってくれた。

「コスパが悪いとか、考えちゃダメなんです。下準備から取材、そして執筆の前時間を時給計算したらとんでもないことになるわけで。でも、そんなことを考えて取材していたら、取材相手にバレますよ」

この話を聞いて、自分の取材を振り返った。時間を気にせずに思う存分聞けた取材と、時間制限のある取材。いったいどちらが良い記事だったろうか。答えは一目瞭然である。

執筆編:読者をいかに没頭させるか。

イオさんが執筆で最も大切にしていること。それは、「読者をいかに没頭させるか」だという。イオさんの記事は、ウェブメディアの記事でもひと際長文なのだが、気づいたら最後まで読んでいる。どの記事もそうだった。いったいどのように考えているのだろうか?

「映画やドラマを観ているような感覚になってもらえるように意識しています。例えば、ドキュメンタリー番組『情熱大陸』の映像を文章で書き起こす……。そう考えてもらうと想像しやすいかもです」

取材相手が話したエピソードは、イオさんの頭の中で動画のように流れるそうだ。その描写を想像したままに書いていく。そうすると、読者はその場にいるような追体験ができるのだ。

そのため、イオさんのインタビューはかなりニッチになる。

「そのときの天気はどうだったのか?」

「どんな服を着ていたのか?」

「その場に誰がいたのか?」

イオさんは、頭の中で映画をつくっていたんだな。実際に映画化してほしいなぁ、と思った。

その後、文章の組み立て方に移った。

「ただ、映像の描写だけだと情報が足りないので、情報と描写を交互に出すようにしています。僕は9000字の記事を書くことがほとんどですが、最後まで読んでもらえる確率が高いんです。それは、描写で読み手を引き込んで、その後客観的な説明をし、また描写へ……読者にスイッチが入るように書いているからだと思っています。つまり、描写と情報の波をつくるんです」

ウェブ記事は4000字が限界と言われているなか、イオさんの記事は最後まで気になって仕方がない。ただ、取材相手のエピソードによって、「その波の比率を変えてもいい」とイオさんは言う。本作『ウルトラニッチ~』の中に登場する「おやさいクレヨン」の木村尚子さんの記事は、なんと描写を8割で書かれたそうだ。再読して、イオさんが作り出した「描写と情報の波」を研究してみよう。

誰でも大きな可能性を秘めている

その後、出版後についてのお話があり、フリータイムの時間になる。

参加者から質問が途切れることなく飛び出し、一時間半を予定していたイベントは、気づけば2時間半を超えていた。

「なんでも聞いてください」とイオさん。自分の悩みを打ち明ける皆さん。とても心地よい時間だった。

最後に、イオさんから勇気をもらった言葉を紹介したい。

「僕は、すべての人の原稿が大きな可能性を秘めていると思っていて。いつ何時、本になるチャンスが巡ってくるかもしれないです。けど、3000字の記事を読んで、編集者さんが「この原稿を本にしよう」とは思いづらいんじゃないかな。9000字でみっちり書いてある原稿だったら、「これなら本にできそう」って思ってもらえると思う。

それに、取材でこんなに根掘り葉掘り聞いているのに、それを端折って書くと、密度が薄くなってしまう。しっかり書くと、取材相手の方もめちゃめちゃ喜んでくれる。『こんなに書いてもらったの初めて!』って、何度も言われましたし、自分の履歴書のように使ってくださるんです」

目の前で向き合っている原稿、取材、下準備……。すべて巻き戻して振り返ってみよう。自分の行動や考えで、どんな風にも変わる。まだ知られざる稀人を探す川内イオさんもまた、ウルトラニッチだった。

(記:池田アユリ)

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?
気軽にクリエイターの支援と、記事のオススメができます!
池田 アユリ@インタビューライター

お読みいただきありがとうございました! いい記事を書けるよう、精進します!

精進します!
池田 アユリ@インタビューライター
年間100人ペースでインタビュー取材。社交ダンスの講師としても活動。noteではエッセイや小説を。誰かを勇気づける文章を目指して活動の枠を広げている。noteコンテスト受賞作品▷https://note.com/amayuri4/n/n6aa223569d3a