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祖母とギョーザと、これからの事。



昨年の12月29日に
祖父が天国へと旅立った。

あまりの悲しさにしばらく自堕落な日々を送っていたが、今は無理のないペースで音楽活動に向き合えている。

音楽活動を優先するあまり、ロクに祖父と顔を合わせられなかった僕は、あれから毎月祖父の墓参りをしている。世間知らずな僕はどのタイミングで墓参りに行くべきなのかよく分からない。生前に会えなかった分、たくさん掃除したいし、たくさんお参りしたい。

物忘れの激しい祖父だったけれど、これだけしつこくお参りしていれば、きっと忘れないだろう。





今年の1月の中旬に、祖母に会いに行った。車を持っていないので、電車とバスを乗り継いでのんびりと向かった。

バスに揺られながら、燃え殻さんの『ボクたちはみんな大人になれなかった』を読んだ。思い出って素敵だな、って今更ながら思う。

葬式ぶりに会った祖母は相変わらず元気で、家に入るなり「仕事はどう?  音楽は楽しい?」と、話が止まらない。


気づけば3時間以上も話し込んでいた。

久々に祖母と密度濃い時間を過ごした。

祖父のアルバムを見返しながら一緒に涙を流しては、たくさん笑った。

これからも目を背けることなく、祖父との数少ない思い出を抱いて生きていこうと思う。





祖母がお昼ご飯にギョーザを振る舞ってくれると言う。少しでも手伝おうと思ったが、「いいの!   座ってなさい!」と祖母も譲らない。ここはとことん甘えるとしよう。

プライパンに並べられたギョーザを数えてみると、ザッと30個はあるだろうか。


「ばあちゃんはいくつ食べるの?」

「あたしの?  いらないよ〜」


ん?

聞き間違いだったようだ。
もう一度聞いてみよう。


「ばあちゃんはいくつ食べるの??」

「いらないってば!  お昼ご飯食べたもん!」

いや食べたんかーい。

今並べられている30個のギョーザは、僕一人の昼飯らしい。冷や汗が止まらない。


「たくさん食べてね〜」と祖母が追い討ちをかけてくる。

そだね〜たくさんたべるか〜(棒)


ギョーザを食べ始めると、冷蔵庫から朝ごはんの残りだというウィンナーやらほうれん草の煮浸しやらサラダやら、色んなものが出てくる。

そう、今日はとことん甘えると決めたのだ。

祖母の愛情全開のお昼ご飯を平らげて僕はトイレに行く。なかなか僕が帰ってこないので、祖母が心配して様子を見に来た。

「ごめん、作りすぎちゃったかな〜?」


うん、作りすぎだよ…………。


でも美味しかった。

ばあちゃん、ごちそうさま!





祖父が亡くなってから、早くも半年が経とうとしている。

どうしても考えてしまう。

もしも、祖母が亡くなったら。

肺気腫持ちで重度の認知症だった祖父に比べればハイパー元気な祖母だが、今年で91歳になる。何が起こるか分からない。

だから、生きているうちに、この手で抱きしめられるうちに、たくさん会いに行こうと思う。

そして祖母が天国へ旅立った時は、悔いの一切ない晴れ晴れとした気持ちで送り出せるような、素敵な瞬間にしたい。




帰りしなに、祖父の仏壇に手を合わせた。
遺影の両脇には、真新しい菊の花と香花が生けられている。生前、祖父が好きな花だったそうだ。ちなみに祖母が好きな花はガーベラ。


菊の花の花言葉は「高貴」「高尚」「高潔」

ガーベラの花言葉は「神秘」「崇高美」

何とも老夫婦揃ってオシャレだ。


今度墓参りに行く時は
菊の花と、香花と、ガーベラと、
あとは僕の好きな花を生けようと思う。

どんな花がいいか迷うけれど、心優しい祖父ならば何でもいいんだろうな、とも思う。




玄関先で、祖母と不器用にハグをした。

ちょっと恥ずかしかった。


「行ってきます」



ばあちゃん、またね。

いつまでも元気で。


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