タイトルなし 続く。
夢をみなくなった。もしかしたら、夢はみているが朝起きると覚えていないだけかもしれない。今日も夢を見ることはなかった。僕は最後に見た夢を鮮明に覚えている。動物になる夢だった。脚は細く変化していて、身体は手触りの良さそうな体毛で覆われていた。嗅覚と味覚は正常に、いや人間だった時よりもしっかりと機能しているように思えた。動物になった僕は恐る恐る人間の世界から離れ、静かで空気の澄んだ山で暮らした。山で暮らし始めて、野草や木の実を食べ風雨に身体がさらされると不思議と初めから動物だった気がしてくる。普段の生活と同じく山でも出会いがあった。僕は動物たちと会話する事ができた。動物だったら当たり前なのかもしれない。特に意味もなく山の上を目指して走っていると雨が降ってきた。ぬかるんだ土に脚を埋めてゆっくりと山頂を目指した。道中で獣をみつけた。その獣に注意を向けると雨音とは別に鈍い音が響いていることに気づいた。その獣は大木に身体を打ちつけていた。激しく大木が揺れている。気づかれないようにゆっくりとその場を通り過ぎようとした時、獣がこちらを振り向き叫んだ。怒号のように聞こえた叫びは、今思い返すと悲鳴に近い何かだったかもしれない。身を震わせその獣を機械的に睨んだ。その獣は大木への歩みを止めて、静かに喋りかけてきた。会話をすると体の奥の方から暖かくなった気がした。僕はどんな動物にでも優しくできそうな気がしていた。彼も山頂を目指しているらしく、会話をしながら行動を共にした。土の匂いを消すくらいに彼から雄々しい匂いが漂っていた。なぜ身体を打ちつけていたかを尋ねると、忘れないために身体を打ちつけていると言った。薄れそうな記憶を忘れないために打ち付けているんだと。彼は薄れている記憶から、むかし人間だった時のことを聞かせてくれた。
僕の携帯に一件着信が入った。
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