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アイスランド日記 14日〜21日目

27日
昨日の夜はスペインから来たアーティストのおじいさんの時代の話をしてもらった。
フランコ政権時代に警察に見つからないように町でひとつのラジオを毎日別の家に回して聴いていたそうだ。そのラジオは今彼の手元にある。
あまりにも壮大でドラマティックな話だし、私がここに書くべきことでもない。小説か映画になったらいいのにと思うほど、胸がどきどきした。
以前にロシアの強制収容所が関わる小説を読んだことがあって、そのことを思い出した。
私と同時代に生きている人、しかも私より年が若いようなひとが、第二次世界大戦の傷跡、というか傷を直に体験しているという事実を普段は考えもしない。
ひとは何を抱えて生きているのか、少し見ただけではわからない。ほんにんにだってわかりはしないのかもしれない。


28日
今日はみんなで遠足にいった。
今日は身体が敏感な日で、バスのタイヤの感触が直に身体に響いてくるのでとても怖かった。ちょっとの揺れやきしりが、身体をこわばらせる。
速度が速すぎてついて行けない。自分の感覚よりうんと早くて、からだに隙間ができて、その弱いところをずっと揺さぶられている感じ。怖くて目をつむったり、揺れに合わせて立ち上がったりしていた。

北アメリカプレートとユーラシア大陸が接する谷を歩いて、滝でしぶきを浴びて、吹き上がる熱水を見上げた。
バスでまどろみながらついた海岸は雲に隠れた月がかろうじて視界をつくっていて、砂浜に岩がごろごろころがっていた。
近づくとそれは岩じゃなくて、ぜんぶ透明の氷だった。
よそから流れ着いた流氷なんだって。
全部が蒼い闇のなかで光っていて、海鳴りがからだを震わせる。
2014年にいわきに行ったとき、海岸を歩いたけれど全部が夢のようだった。霧のなかで、久しぶりに会えた友達と、どこの時間のどこの世界かわからないところを歩いているみたいだった。
次の日、海岸に埋まっている車の屋根を見た。
この下に車が埋まっている。
中にいたひとはどこにいったのか、わたしにはわからない。

夜はブルーラグーンにMさんが招待してくれた。
顔に泥パックしたり、泳いだり、お酒を飲んだりして楽しかった。
いつまでもからだがぽかぽかしてゆっくり眠った。


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29日
この日なにがあったかな。よく覚えていない。
稽古をして、ご飯を食べて。
26日にプレゼンを終えて少しほっとしたのち遠足をしたので、ちょっとのんびりした一日だったと思う。
Nさんと一緒に海際を歩いて帰った。道は真っ暗で、海の音と風が吹き付ける。
内田百閒の『冥途』を思い出していた。
夢のなかで暗い海際の細長い高台を歩く話で、いつのまにか後ろに得体の知れない美しい女がいて何を話しているかわからないという話だったと思う。恐ろしいような哀しいようなうつくしい時間で、読んだ私のイメージも、ほの暗く淡くあいまいに光っている。
オーロラがうっすらのびているのをふたりで見た。


30日
この日も何があったか忘れた。
14日に来たときにはとても寒かったけれど、それ以降はずっとさほど寒くない。氷点下に落ちる時がほとんどないので、風が吹いていないときには服装は東京やパリにいるときと同じようなのでいい。
28日の遠足のように寒い場所に行くときにはフル装備。
といっても、スキー場に行くくらいの格好(風を防ぐ上着の中に空気を溜めるような温かいインナー、水が染み込まない靴、手袋)。
耳が冷たくなるとつらいので耳あてか、耳や頬まで包むような帽子。
風が強く、気温が高い日には傘をさすことができないのでカッパが必要。気温が低い日はさらさらした雪なので傘は必要ない。服や靴が防水なら、頭周りだけ濡れないようにすれば大丈夫。
氷が滑るので靴に取り付けるスパイク(Amazonなどで安く売っている)を持っているといい。
でも今回はそんなに必要なかったかな。

アイスランドの物価は高いと言われるけれど、パリに暮らしているのでそんなにひどく高い気はしない。
ほぼ日本円と同じくらいだから、表示をみるのが楽。
500アイスランドクローナはほぼ500円。
とはいえパリより、1.2割くらい高い印象。物によってはもっと高い。


31日
大晦日、大きな焚き火を見る。
こんなのを見たらわたしはなにをやっているんじゃいと思ってしまう。
同時に、わたしはこのからだでなにかをやるんじゃいとも思う。
火はおそろしい。おそろしくてうつくしい。なぜ気が狂ってしまわないのかわからない。
美味しいご飯を頂いたのち、3時くらいまで踊ったりジャンベを叩いたりする。初めて叩いたんだけどなかなか上手にできたので楽しくて右手の指の関節が腫れてしまった。今も痛い。(今日は1月3日)


1日、2日
4日のオープニングに合わせてアーティストたちがばたばたしている。
私もやっと踊る場所が決まって、作り始めることができるようになったので(2週間踊る場所が決まらなかったので作り始めることもできなかった)光を作って、影を見て、見たい絵を確認して、これならできそうだとやっとほっとした。実はずっとやきもきしていたから。
だってこんな機会に招待してもらったのだから、いいものをつくるしかない。
2日にはRadio Franceの方が音の収録とインタビューにいらした。
フランス語では言いたいことを伝えきれず、通訳してもらう。情けなかった。私の外国語能力よ…!!!
あなたは踊っているときに色んな動物とか、エレメントに見えますねとインタビュアーが言ってくれた。私がしたいことのひとつはまさにそれで、世界中で起こっていることが、からだの中でおこるといい。
そうしたら私はどこにでもいつでも旅に出られるし、踊りを見てくれたみんなのことも連れて行ける。


3日
明日は嵐が来るとのことで、オープニングが4日から5日に変更になった。
私が出演するパフォーマンスは5つ。

①『Eluht Amitlu』with Satoru Kita
フランスにいる間から照明器具や小道具を手作りして、アイスランドに来てから構想を練りました。30分くらいの作品になる予定。これを膨らませてパリでも公演できたらいいな。

②『Alignement』with Amon Bey, Augstian Suprianta, Ayu Multi
アイスランドに来たとき、朝から夕方まで太陽が地平線すれすれにあって、振り返ると月もずっと見えていた…というところからイメージしてララバイを踊ります。

③『Fable』with Natsuki Tamura
なつきさんが提案してくれたイメージや言葉や音が私のなかの扉を開けた感じで、あっという間にすんなりと構想ができあがった。
踊るなかで物語のなかに生きているような、世界中のものごとが身体のなかで起こっているような気になることがあるのだけれど、そんなものの端っこを香らせられたらいいな。
Fresh Winds Icelandとはまた別に8日にレイキャビクでなつきさんのライブがあるのだけれど、そこでこの小品を演じさせてもらえることになった。わーい。

④『Ice-dream』with Jeff Bizieau, Satoru Kita
ニース在住のダンサーJeffさんと即興を踊ります。
年末に流氷が打ち寄せられている夜の砂浜を訪れたのだけれど、まるで朝方の夢みたいに美しくて異質だった。
雲に隠れた月だけが視界のたよりで、私は2014年にいわきの海岸を訪れた日、砂浜にやっと車の屋根だけが出ていた光景のことを思い出したのでした。それはまるでこの流氷のようだった。

⑤『Unknown sailors』Christine Coste with Jeff Bizieau, Chia-Hui Luo, Natsuki Tamura, Satoru Kita
半島の先にある灯台の近くにはむかし海で遭難したひとたちのお墓があって、そのお墓には無くなったひとの身体も入っていないし名前も彫られていない。
その史実からインスピレーションを得てChristine Costeさんが作った作品に出演します。
灯台の中でのパフォーマンス。粘土をかぶったりするの。恐ろしく寒そうだけど楽しみ。

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嵐が来たり、場所の関係で制作が思うように進まなかったり…といろいろあるけれど、集まったアーティストたちの作品がどんどんできていくのを見るのも楽しかったし、今まで知らなかった方たちと共演して自分の大事なことを再確認できたりしたことも嬉しい。
ご飯で集まるたびにどうでもいいことをお話するのも楽しかった。英語ができないから(これ何年言ってるだろう。一生言うのかな…)じっくりコミュニケーションを取れない人がほとんどだけど、近くで見ているだけで親しくなったようで離れがたい。
ああ、終わってほしくないなあ。
オープニングが始まったら帰り始めるアーティストもいる。
世界中にみんなが散っていって、どこかでまた会えるとしてもなんだかさみしい。
まだここで作ったり、一緒にいたりしたい。

こんな機会をくれたミレイヤやキャシーをはじめ、このビエンナーレに紹介してくれたサマンタやファブリス、永井くんに感謝しています。ありがとう。いいものつくるよ。

さて、お祭りがはじまる。

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