ろうそくの母子

 夜の国がありました。朝も昼も夜もお月さまと星たちが国を照らし、太陽が決して来ない国でした。国に住む者たちは、お月さまや星たちの光を頼りに暮らしています。

 その国の片隅で、ひっそりと暮らすろうそくの母子がありました。空にお月さまが出る日なら二人は幸せなのですが、空の具合が悪いと母子は辺りを照らすために自分たちの蠟を削らなければなりません。子供の蠟はまだ長くて丈夫なのですが、母の方はもう短く細いのです。

 ある日、夜の国の王さまは、「もっと光を」と言い、お月さまと星たちを奪ってしまいました。お城は光り輝いて明るくなりましたが、国中が足元も見えないくらいに暗くなってしまいました。夜の国に住む者たちは困りました。お月さまや星たちの光がなければ生きていけないのです。

 そんなある時、誰かが言いました。

「ろうそく母子がいるぞ」
「そうだ、あの灯を使えば生活ができるようになるぞ」

 国中の者がろうそく母子を奪いにやってきました。

「子供だ、長くて丈夫な子供を奪うんだ」

 みんな我先にとろうそくの子供を奪いあいました。
 ろうそくの子供は恐怖で泣き叫ぶばかりです。

「待ってください。私が国中に光を照らしますので、この子には何もしないでください」

 ろうそくの母が言いました。

「短く細いお前にそんなことが出来るはずもあるまい」

 誰かが言いました。

「私が燃え続ければ、お前は燃えることもなく長く生き続けられるだろう」

 ろうそくの母は子供を力いっぱい抱きしめると、泣き叫ぶ我が子に振り向くこともせず夜に飛び出していきました。

 短く細いろうそくは夜に向かって走り続け、空に着くと夜に火をつけました。
 夜はろうそくの母をあっという間に飲み込み燃え始めました。その火は夜を燃やし、国中を明るく照らしました。

 国中の者たちは喜びの声を上げましたが、我に返るとみんなすぐに下を向いてしまいました。ろうそくの子はただただ泣くばかりなのです。

火はそれからも消えることはありませんでした。国が滅んでもろうそくの子の上で今でも燃え続けています。


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