【司法試験予備試験】社会人受験生の1年独学勉強法の記録
はじめに
令和4年司法試験予備試験に合格することができたため、ここまで勉強してきた内容をまとめました。
30代の社会人で二児の父という、受験生の中では少数派の勉強法の一例として、似たような環境の方のご参考になれば幸いです。
※ 本記事は、利用書籍等につきましては合格時の情報をそのまま掲載しております。最新の情報を踏まえた「今ならこうする」という勉強法は以下の記事で詳細に解説していますので、ぜひご覧ください。
プロフィール
大学は理系学部で、卒業後から現在までデータサイエンティスト・AIエンジニアとして仕事をしています。合格年現在で、私自身は30代、妻と未就学の子どもが2人います。
平日仕事後の夕方から夜と休日は大体家族と過ごしているため、子どもが起きるまでの早朝と、子どもが寝た後の夜に集中的に勉強していました。1日平均4.5時間程度です。
試験の結果
今回から論文式で一般教養が廃止され、選択科目が導入されています。私は経済法を選択しました。
得点および順位は下表の通りです。
1年間のスケジュール
科目別の勉強法の前に、1年間を通してどのようなスケジュールで勉強してきたかをお話しさせていただきます。全体感としては下図のイメージです。
入門
まったくの初学者であったため、司法試験や予備試験用のテキストに入る前に、科目ごとに薄い入門書を読みました。
実際に利用した書籍は後ほど紹介しますが、各科目の特性や考え方、用語などに触れることによって、基礎インプットにスムーズに移行できたと思います。
基礎インプット
いわゆる予備校本や基本書を科目ごとに1~2冊決め、何度か通読しました。
この際、定義や趣旨、そして論証集がついている場合は論証も覚えるようにしました。最終的に論証の多くは書き換えていますし、勉強初期には覚えるべきことがどれかも判断できないため、賛否あるかと思いますが、短期合格を目指す場合は、このタイミングから暗記量を積み上げていくことは必須だと思います。
特に暗記作業から長らく離れていた社会人の方の場合は、「暗記の仕方を思い出す」ための期間がそれなりにかかります。私も2ヶ月ほどは、前日に覚えたはずの内容がほとんど出てこず、泣きながらカードを回していましたが、続けていれば覚える速度も維持期間もどんどん改善していきます。
ちなみに、暗記不要論を唱える講師の方のコメントで、「問題演習を通じて必要な情報は自然と記憶される」というものがありました。ここは人それぞれだと思いますが、私は暗記すべきものは暗記すべきものとしてカードで管理した方が安心するタイプなので、勉強期間全体を通じて記憶メンテの時間は重視していました(当然、正確に記憶するべき「定義」や「判例の規範」とその他を区別して軽重をつけることは大事だと思います)。
なお、暗記用のカードですが、カード作りそのものに時間をかけるのはもったいないので、紙よりアプリの方が良いと思います。入力の時間短縮もそうですし、追加や修正も簡単にできます。
なにより、スケジュール管理を自動的にやってくれる、というのは紙にはない圧倒的なメリットです。私はAnkiというアプリを使っていましたが、シンプルなインターフェースで、特に設定の必要なく定着度に応じて次の表示タイミングを10分後、1日後、5日後というように調整してくれます。PC・スマホ間で同期もできます。これがあるとカードが増えてきても1日分の分量はそこまで多くならないため、非常におすすめです。
試験対策における暗記については、こちらの記事でも詳しく書いています。
短答用アウトプット
基礎インプットと並行して、短答式の過去問を解いていました。基礎インプットで学んだ範囲を過去問で確認するようなイメージです。
短答式の過去問には、科目全体を俯瞰しないと解けないようなものや、複数の分野が組み合わさったものも多いため、当然この段階では歯が立たない問題もあります。しかし、勉強初期から本番で解けるべき問題に触れておくことで、基礎インプット時にどのようにテキストを読みこめばいいのか、という点のヒントを得ることができるため、インプットの効率が大きく上がります。
もちろんテキストの復習としても効果的でしたし、全科目終わってから過去問を始めたのでは本番に間に合っていなかった可能性もあるので、このタイミングで着手できて良かったと思っています。
短答式試験の勉強方法の詳細については、以下の記事をご覧ください。
論文用アウトプット
3月からは論文用のアウトプットも始めました。短答直前の4月初まで続け、短答後からまた再開しています。
素材は過去問で、一部の科目のみ演習書も併せて使いました。自由作文にならないよう、科目ごとに模範解答や演習書を参考に「答案の型」を固め、そこに当てはめて解くことを意識していました。
とはいえ、勉強を始めて数ヶ月の初学者がそんなことをしても、できた答案が合格レベルか判断する術はありません。そもそも論点落としくらいしか自己評価もできず、それ以外はどうすれば改善できるかも分かりません。
そこで、独学の唯一の例外として、ここでは合格者の方に添削をお願いしました。各科目2~3通ずつですが、三段論法の徹底や、事実の評価を含めた当てはめの具体的な方法など、論証を覚えているだけでは気づけない作法や改善点をご指摘いただき、大変勉強になりました。今回合格できた大きなポイントの一つだと思います。
短答後は、1日1~2通フル起案 + 2通答案構成(見出し、適用条文、論点、当てはめ事実メモ)を本番まで続けていたので、各科目の過去問各年につき、だいたい1回の起案と2回の答案構成で計3回解いたことになります。
また、商法や民事訴訟法など、手続の流れの理解が重要な科目は、アウトプットと並行して、基礎インプット時に使用した本を再度周回しました。
なお、選択科目の経済法は短答後から基礎インプット、(司法試験の)過去問演習を開始しています。今年は選択科目一年目で問題が簡単だったということもあり(Bでしたが…)、何とか乗り切れましたが、次年以降は準備期間をもっと長くとる方が多くなるのではないかと思います。
論文式試験の勉強方法の詳細については、以下の記事をご覧ください。
口述対策
論文後、9月までは仕事に集中していたため、口述対策を始めたのはその後です。
9月初から10月の論文合格発表までは、民事の要件事実、刑事の刑法各論構成要件を暗記していました。発表後からは、民事の保全執行・手続、刑事の刑法総論・手続の確認も追加し、過去問でシミュレーションを行っていました。
1年間でやってきたことは、このような感じです。
実際は、年単位スケジュールを立てた上で、週単位、日単位、時間単位に分割して管理していました。
1日4.5時間×試験までの日数、と使える時間は決まっているため、1問当たりにかかる時間から最終的に解く問題数、周回数を決めて配分していましたが、漠然と進めていたのでは終わらなかったと思います。
週単位以下の計画は進捗等に応じて随時修正していましたが、基本的には計画をしっかり立て、それをストイックにこなす、ということを徹底したことが短期合格できた一番のポイントだと思います。
科目別勉強法
ここから、科目別の勉強法の詳細について記載していきます。
公民刑の順で記載していますが、実際は、民法→刑法→憲法→民事訴訟法→刑事訴訟法→商法→行政法→経済法の順で取り組んでいます。
基本的には興味の順に進めれば良いかと思いますが、訴訟法は実体法の知識が前提となっていること、行政法はその他六法すべてと関連性が強いことを踏まえた順に進められると戻りが少なく効率的かと思います。
憲法
■入門
まず、入門用書籍として「伊藤真の憲法入門」を読みました。当然これだけ読んでも過去問を解けるようにはなりませんが、事前に科目の全体感を頭に入れておくことで、この後の本格的なインプットの効率が大きく変わることは間違いないと思います。
このシリーズは分かりやすい上に比較的網羅性が高く、薄くてすぐ読めるためとてもおすすめです。
■基礎インプット
憲法では、呉先生の「憲法」をメインに、「憲法判例百選」を補助的に使いました。呉先生の憲法は本編がたったの370ページですが、少なくとも令和4年については短答から論文までこの1冊で足りないと思うところはありませんでした。
巻末には論証カードも付属しています。試験対策講座(シケタイ)等の他シリーズの論証カードと比較すると、一貫性があって自然な文体なので、そのままでも使いやすいです。
論証自体は、判例や基本書の解説から自分で作った方が記憶に残りますし、勉強にもなると思います。ただ、私のような初学者は、そもそもどの論点が試験的に重要なのか判断できないため、そういう意味で論証カード(=重要論点リスト)の付属した予備校本は価値があると思っています。
私は、前から順に読み進め、登場した判例は百選で事例、判旨、解説を確認し、論証は都度Ankiに転記して暗記ルーティンに加えるという使い方をしていました。
短答で合格点をとるためだけであれば、判例についてもテキストに引用されている限度で判旨を記憶しておけば足りたとは思いますが、事例の詳細や百選の解説にも触れることで、ある程度理解が深まり、記憶の定着に役立った気はしています。
ただ、百選は漠然と読んでもまったく頭に入ってこないので、例えば、短答式の過去問でテキストには載っていない判例知識に出会ったときに百選を見て、判旨のこの部分を理解していれば良かったのか、というような経験を経て、試験的な読み方を会得していくことが望ましいとは思います。
もっとも、これは聞いた方が早い領域の典型例でもあるので、時間的金銭的に余裕があれば、「判例の読み方」のような予備校の講座等を活用しても良いかと思います。
■短答用アウトプット
憲法を含む全科目で「短答過去問パーフェクト」を使いました。前述の通り、基礎インプットテキストの復習としても有用です。
1周目は、メインテキストの進捗に合わせてすべての問題を解きます。毎日、①当日の対象範囲 + ②前日の対象範囲 + ③前々日の対象範囲のうち前日間違えたもの、を解いていました。2周目は、1周目で③に該当したもの + ランダムに選んだ問題を、3周目は2周目で間違えたものを、と繰り返し、最終的にはほぼすべての肢について理由付きで正誤を判断できるようにしました。
短答式の対策は全科目通じてほぼこれだけですが、読むスピードが極端に遅いといった事情等がなければ、これで充分足りると思います。
■論文用アウトプット
まず、答案の型については、基礎インプットで使った呉先生の「憲法」の記載をベースに、「伊藤塾試験対策問題集 憲法」の解答例、添削時のコメントを踏まえて固めていきました。
その上で、上記問題集で過去問を解く中で、固めた型が反射的に出てくるように訓練しました。
行政法
■入門
憲法同様、「伊藤真の行政法入門」から始めました。また、大島先生の「新人弁護士カエデ、行政法に挑む」も入門書として人気だったので、こちらも読みました。後者は小説形式で、実際の行政手続に沿って事件を解決する流れを追っていく作りになっています。初めて読むときは個々の手続の意味がさっぱり分かりませんが、論文を書き始めた当たりで再度読んでみると、全体の流れを俯瞰できて理解が深まります。試験に必須かと言われればそうでもないので、罪悪感のない息抜きぐらいの位置づけかと思います。
■基礎インプット
櫻井先生、橋本先生の「行政法」(通称サクハシ)をメインとして、橋本先生の「行政判例ノート」を補助的に使いました。
憲法と同様、前者を読み進めながら、登場した判例を後者で確認するという使い方です。「行政法」は「行政判例ノート」を参照しながら読むことが想定されているようで、判例についての記述が薄いため、判例学習用の教材は必須です。百選でも良いのかもしれませんが、「行政判例ノート」は同一著者による一貫した立場・文体で解説が書かれており読みやすいこと、「行政法」と相互インデックスされていることから、使いやすくおすすめです。
■短答用アウトプット
「短答過去問パーフェクト」を利用しました。使い方は憲法と同様です。
もっとも、行政法の短答式では憲法以上に細かい判例知識が問われます。この部分は過去問だけではカバーできない可能性があると感じたため、前述の「行政判例ノート」を使い、事件名ごとに事例と結論、判旨の重要なキーワードを想起できるようにしておきました。
■論文用アウトプット
「事例研究行政法」をベースにケースごとの型を固め、「伊藤塾試験対策問題集 行政法」で過去問演習を行いました。
前者は問題集形式ですが、行政法の主要なケースごとに丁寧に解法が解説されており、答案の型を習得するのに非常に有用です。私は解かずに前から順に読み進め、まとめた型をAnkiで覚えていました。
「事例研究行政法」は全科目を通じて、もっともおすすめできる教材の一つです。
民法
■入門
他の科目同様、「伊藤真の民法入門」を読みました。前述の通り、民法から勉強を始めたため、本当に最初に読んだ法律の本がこれということになります。
今読むと自分の成長を感じられ自己肯定感が高まるので、落ち込むことがあるたびに引っ張り出そうかと思います。
■基礎インプット
伊藤塾の「試験対策講座 民法」(通称シケタイ)を使いました。特に補助教材は併用していません。前から通読し、定義や論証は都度Ankiで覚えるようにしていました。
ちなみに、全科目勉強した経験で分かった基礎インプットで重要なことは、
なるべく早く1周すること
1周目で覚えるべきことを覚える(覚えようとする)こと
の2点です。一つ目は、そもそも基礎インプットだけでは問題を解けるようにはならないので、早く過去問に取り組むためにもかける時間を少なくするべきという趣旨です。二つ目は、断片的にでも重要事項を覚えておくことで、1周目の定着率と2周目以降の読む速さが段違いに向上するため重視するべきだと思っています。少なくとも私は覚えようとしながら読まないとまったく頭に残りませんでした。
試験対策講座の図表は確かに分かりやすいのですが、細かい記述も多く、1周に時間がかかるため、上記一つ目の観点からはあまりおすすめできません。
そういう意味では、民法も呉先生の「民法」が(これも全部読むと長いですが)基礎インプットに向いているかもしれません。
■短答用アウトプット
「短答過去問パーフェクト」を利用しました。使い方は他の科目と同様です。民法の短答式は他の科目と比べると簡単なので、ひたすら過去問をつぶして苦手分野をなくすというアプローチがとても有効だと思います。
また、民法の短答式の選択肢は、
短文事例に対して、
条文を適用し、
論点があれば解釈をして(判例を引用して)、
要件該当性を確認した後、
結論を述べる
という流れのうち、1と5が問題文でその正否を判断させ、2から4が解答(の理由)となっているものが多いですが、これは論文の思考プロセスと同じです。そこで、解く際には、何となく理由を想起するだけではなく、2から4をはっきり意識し、論文と頭の使い方が似た状態になるようにして解いていました。これによって肢の数だけ短文事例問題を解いているのと同じことになるため、論文用アウトプットへ繋げやすくなったと思います。
■論文用アウトプット
「伊藤塾試験対策問題集 民法」で型を確認し、過去問演習しました。
また、民法は新しめの旧試験と問われ方が似ているので、「スタンダード100 民法」の旧司過去問も何度か解いています。フル起案する時間はなかったので、こちらは1問10分程度の答案構成のみです。
旧司の過去問に取り組んだこと自体は良い練習になったかなとは思いますが、「スタンダード100」は解答の質のばらつきが大きいため、答え合わせに難儀します。ここに悩んで時間を食われるのはもったいないので、余裕があれば予備校の旧司答練を受ける方が良いと思います。
商法
■入門
他の科目同様、「伊藤真の会社法入門」を読みました。会社法は民法の特別法なので、民法より後に取り組む方が理解しやすいと思います。
■基礎インプット
「会社法 (LEGAL QUEST)」を使いました。最初はとっつきづらく感じましたが、2周目以降からシステマチックな構成の良さが徐々に分かってきました。
最終的には、短答も論文もこれ1冊読み込めば足りるという確信を持てたので、過去問演習と並行してひたすら周回していました。
こちらも、もっともおすすめできる教材の一つです。
また、商法は近藤先生の「商法総則・商行為法」、手形法は早川先生の「基本講義 手形・小切手法」を読んでいます。少なくとも短答式では商法・手形法のどちらも必須ですし、出題されても簡単な問題が多いため、手を付けないのはもったいないと思います。
上記2冊はいずれも薄く、簡潔な記述で読みやすいのでおすすめです。
論証については、「趣旨・規範ハンドブック」で論点をピックアップし、テキストを参照しながら自分の言葉でまとめたものをAnkiで覚えていました。「趣旨・規範ハンドブック」の内容そのものは特に役に立っていないので、今やり直すのであれば、テキストのすべての事例ごとに判例ベースの論証を吐き出せるように準備すると思います。
■短答用アウトプット
「短答過去問パーフェクト」を利用しました。使い方は他の科目と同様です。
もっとも、会社法は他の科目と比較して、「点」で知識を覚えると記憶に残りづらい(私だけ?)ので、できるだけ問題を解く前後に基礎インプットテキストの対象範囲をざっと眺めて、その位置づけを確認する方が良いと思います。そして、その問題で問われている知識が含まれる流れ全体を覚えるか、関連知識を表形式にまとめて覚える方が効率的です。
■論文用アウトプット
「伊藤塾試験対策問題集 商法」で型を確認し、過去問演習しました。
令和4年もそうでしたが、商法は基本的な訴訟パターンにプラスして、短答知識のようなやや細かい条文が問われることが多いようです。
たくさんの事例に触れようとして無暗に演習の問題数を増やすよりは、基本的な訴訟パターンは型をしっかり固めておいてノータイムで吐き出せるように訓練し、あとはテキストを読みこむのが効率的かなと思います。
民事訴訟法
■入門
他の科目同様、「伊藤真の民事訴訟法入門」を読みました。
行政法のカエデ本と似た位置づけで、「小説で読む民事訴訟法」も罪悪感のない息抜きになると思います。少し古いので改正があった部分は要注意ですが、民事訴訟の流れが良く分かります。
■基礎インプット
「民事訴訟法 (LEGAL QUEST)」を使いました。
知的好奇心を満たすという意味ではとても良い本で、口述試験対策も含め何度も読み返しましたが、純粋に試験用という意味では理論的な部分がやや冗長かなとも感じました。
一方で、判例の記述はかなり薄いので、事例や理由付けの詳細を重視する場合は百選の併用が必須だと思います(私はそこまで手が回らなかったので読んだのは論文後です)。
今から始めるのであれば、2022年4月に新版が発売された「基礎からわかる民事訴訟法」を使うと思います。適度にポップなデザインで、基礎インプットの通読向きです。
論証については、商法同様、「趣旨・規範ハンドブック」で論点をピックアップし、テキストを参照しながら自分の言葉でまとめたものをAnkiで覚えていました。
■短答用アウトプット
「短答過去問パーフェクト」を利用しました。使い方は他の科目と同様です。
■論文用アウトプット
「伊藤塾試験対策問題集 民事訴訟法」で型を確認し、過去問演習しました。
また、民法同様、新しめの旧試験と問われ方が似ているので、「スタンダード100 民事訴訟法」の旧司過去問も一部の分野のみ解きました。解答が残念なのは前述の通りですので、おすすめはしません。
今考えれば、民事訴訟法は旧司過去問の代わりに「判例百選」を読む時間を確保していた方が、点数が安定したのではないかと思います。
刑法
■入門
他の科目同様、「伊藤真の刑法入門」を読みました。法律初学者がもっともイメージしやすい法律だと思うので、民法ではなく刑法から始めるのもありだと思います。
■基礎インプット
伊藤塾の「試験対策講座 刑法」を利用していましたが、民法と同様の理由でおすすめしません。特に刑法は章ごとに立場がブレているので、はじめて読むと非常に混乱します。
私は口述対策時には「基本刑法Ⅰ 総論」、「基本刑法Ⅱ 各論」を使いました。こちらは、当然立場がブレるということもなく、非常にきれいにまとまっているので、総まとめ的な使い方には最適でした。一方で、独学の基礎インプットとして使うには、不親切な部分も多いように感じます。
というわけで、こちらも呉先生の「刑法」が丁寧かつ過不足がないという意味で基礎インプット向きかもしれません。
■短答用アウトプット
「短答過去問パーフェクト」を利用しました。使い方は他の科目と同様です。
■論文用アウトプット
「伊藤塾試験対策問題集 刑法」で型を確認し、過去問演習しました。
また、民法同様、新しめの旧試験と問われ方がほぼ同じなので、「スタンダード100 刑法」の旧司過去問も何度か解いています。
刑法の旧司過去問は、頭の使い方の訓練(特に論点を漏れなく拾う訓練)にかなり有用だと思うので、事例演習本より優先度は高いと感じています。もっとも、前述の通り「スタンダード100」の解答が残念なので、予備校の旧司答練等を活用した方が良いです。
刑事訴訟法
■入門
他の科目同様、「伊藤真の刑事訴訟法入門」を読みました。刑事訴訟法は後述の基礎インプットテキストが分かりやすいため、ここは飛ばしても良いかと思います。
■基礎インプット
「基本刑事訴訟法Ⅰ 手続理解編」、「基本刑事訴訟法Ⅱ 論点理解編」を使いました。素晴らしいテキストだと思います。初見でも分かりやすく、さくさく読み進められます。また、判例ベースのケースごとに、判例の要旨・学説・規範定立・丁寧な当てはめ、といった構成になっているため、ケースごとに論証として整理しておけばそのまま論文対策にもなります。
短答用の知識としても足りないところはないため、この2冊ですべてが事足りる、圧倒的ナンバーワンのおすすめ教材です(論文Dなので説得力はアレですが…)。
■短答用アウトプット
「短答過去問パーフェクト」を利用しました。使い方は他の科目と同様です。刑事訴訟法は判例問題の出題パターンがかなり限られているように感じたので、過去問つぶしが特に有効な科目の一つだと思います。
■論文用アウトプット
「伊藤塾試験対策問題集 刑事訴訟法」で型を確認し、過去問演習しました。
それ以外には「基本刑事訴訟法Ⅱ 論点理解編」の事例を短文事例問題集的に使い、論述を想起する訓練をしました。
経済法
経済法は、独占禁止法という市場の健全性を確保するための法律の理解をメインに問われる科目です。
他の選択科目を勉強していないので正確な比較はできませんが、暗記量は非常に少なく、十数パターン程度の禁止されている行為類型を覚えれば終わりなので、負担は小さい方だと思います。
そのそれぞれについて、行為類型に当たるか判断するための構成要件のようなものがあるので、問題文の事情をそれに当てはめ、該当するかしないかを答えるのが経済法の答案の型となります。
■基礎インプット
「伊藤真実務法律基礎講座 経済法」を通読しました。実務で独占禁止法に触れる機会のある方以外は、雰囲気をつかむために読んだ方が良いと思いますが、これだけで論文対策を行うのは難しいです。
■論文用アウトプット
「司法試験論文対策 1冊だけで経済法」の論証パートと上記「伊藤真実務法律基礎講座 経済法」で型を整理し、前者の過去問パートで演習しました。
「司法試験論文対策 1冊だけで経済法」は、司法試験の過去問に対して上位合格者の解答と申し訳程度の解説のみが掲載されているため、初学者が自分の解答を正確に採点するのはなかなか難しいものがあります。私は時間がなく無理でしたが、予備校の答練を利用した方が無駄が少ないかもしれません。
一般教養科目
もっとも対策が難しい科目の一つです。
他のところでも言われている通り、範囲が膨大であることから、新たに解ける問題を増やす、という方針は効率が悪いと思われます。
そこで、文学、社会科学、数学、英語といった分野ごとの出題傾向や出題数は概ね固まっていることから、一般常識問題を必ず解く軸として、それ以外は自身の経験を踏まえて検討する分野の優先順位を決めておき、プラスアルファで余裕があれば優先順位の高い分野に限り知識をさらっておくという程度で充分だと思います。
私は過去問をみて、例年出題されている、考えれば解ける論理問題1~2題、社会科学関連の一般常識問題1~2題を軸に、国語2題、物理2題、数学2題、経済学1~2題の優先度を高く設定しておきました。
自信度に応じて15~21点程度を見込んでおき、それによって法律科目の目標を設定しておけば、過剰に不安にならずに済みます。
本番では、残りをランダムに選んだとしても数問は正解するので、見込みよりは上振れるはずです。
民事実務基礎
■基礎インプット・論文用アウトプット
大島先生の「完全講義 民事裁判実務の基礎[入門編]」で要件事実、保全執行、倫理の知識をインプットし、「伊藤塾試験対策問題集 民事実務基礎」で演習しました。短答後からの開始です。
知識的にはこれで充分だと思いますが、評価されるポイントは法律科目以上に分かりづらいため、添削を受けて書き方のコツをつかむことが非常に重要だと思います。
■口述対策
「完全講義 民事裁判実務の基礎 (上巻)」で要件事実を確認した後、「総合講義1問1答 民事実務基礎」を繰り返し、知識を定着させました。
前者は受験生ほぼ全員読んでいると思われるので、相対的に落ちないためにも必須だと思います。後者は解説が薄いですが、まさに口述向きの問答でとても良い練習になりました。
刑事実務基礎
■基礎インプット・論文用アウトプット
「刑事実務基礎の定石」で知識をインプットし、「伊藤塾試験対策問題集 刑事実務基礎」で演習しました。
添削の重要性は民事と同様です。
論文式の実務基礎科目は、数年前は少し対策すれば簡単にリードできるボーナス科目だったようですが、今は対策しないと逆に大きく差をつけられる要注意科目なので、基本知識と事実評価の作法はしっかり押さえておく方が無難です。
■口述対策
前述の「基本刑法Ⅰ 総論」、「基本刑法Ⅱ 各論」で実体法の条文知識と論点を、「基本刑事訴訟法Ⅰ 手続理解編」、「基本刑事訴訟法Ⅱ 論点理解編」、「刑事実務基礎の定石」で手続法の条文知識と論点を総ざらいしました。
刑事では犯罪成立要件を論点も含めしっかり覚えておくことが重要なので、「基本刑法Ⅱ 各論」に一番時間をかけています。
その他
■六法
六法は「ポケット六法」を持っていましたが、条文をAnkiに転記することも多かったので、普段はPC上でe-Gov法令検索を利用していました。
独学の場合、論文式試験本番まで予備試験六法を見る機会がないため、不安があればメルカリ等で昨年版を買って触っておくのもありだと思います。
■模試
伊藤塾の短答直前模試、論文直前模試を自宅で、口述模試を会場で受験しました。独学だと周りのレベルと自分の位置を知る術がまったくないため、勉強方針が合っているのか確認する意味も含め、受験は必須だと思います。
さいごに
長々と書きましたが、今回の勉強経験を通じて、合格のために特に重要だと感じたのは以下の3点です。
計画を立て、守ること
過去問を解くこと
論文の添削を受けること
これをベースにすれば、テキストや演習書は自分に合うもの(=自分が過去問を解けるようになるために必要なもの)を選べば何でも良いと思います。司法試験の最終合格目指して一緒に頑張りましょう。
なお、私が運営しているLegalSuite(リーガルスイート)というサービスでは、計画の作成や進捗管理、そして過去問を中心とした演習課題の出題と添削を、合格者が担任講師としてしっかり伴走しながらお手伝いさせていただきます。短期かつ確実な合格を目指す方は、ぜひご利用をご検討ください。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。