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司法試験予備試験の合格に暗記は必要か

はじめに

「必要か」、というタイトルにしておきながらいきなり結論を言いますが、私個人としては、合格のためには間違いなく暗記が必要だと考えています。
暗記の定義にブレを許せば、これに真っ向から反対する合格者はいないとは思いつつも、定期的に質問をいただくので、具体的にどのような暗記が必要になるのか、という観点も踏まえ記事を書かせていただきました。

そもそも暗記は過去問演習などと違い、特に長い時間をとったり一定のスペースを必要とするわけではないため、勉強計画において要不要を議論する優先順位は低いはずです。
にもかかわらずこの話題が人気なのは、暗記における思い出す作業の脳への負担感や、忘れていた時の徒労感による精神的なダメージが大きいことから、とにかく暗記しなくてもいい理由を探す人が後を絶たないからだと思われます(過去の私です)。

この記事はあくまで個人の考えですが、何を、どうやって暗記すべきか、という内容を通じて、なぜ私が暗記を必要と考えているのかをまとめています。何かを強制したり否定したりする類のものでは当然ありませんが、予備試験合格に向けた勉強計画のヒントとなれば幸いです。

私自身の合格までの勉強法や使用教材については、以下の記事をご覧ください。

何を暗記すべきか

ここでは、試験の段階別に覚えておくべき内容(の一例)について解説していきます。

暗記とは

はじめに、この記事でいう「暗記」を定義しておきます。
まず、暗記している状態とは、特定の文章を何も参照せずに口頭で再現できる状態、とします。そして、暗記とは、明示的にせよ黙示的にせよ、その状態にすること、とします。
暗記カードを使ったり、ある文言を繰り返し呟いたりすることは前者の明示的な暗記に当たり、問題を解く中で自然と覚えることは黙示的な暗記に当たります。

短答式対策

短答式では、単純に知識が問われることから、当然一定の暗記が必要になります。
基本的な暗記対象は、条文判例です。
科目によってそれぞれどの程度の粒度や正確性で覚えておくべきかは異なりますが、テキストから必要な内容を取捨選択するのはなかなか難しいです。そこで、やはり王道である過去問演習を通じて暗記すべき内容を厳選することが非常に有効です。
具体的な方法については以下の記事をご覧ください。

論文式対策

論文式の問題を解く際の基本的な要素は、条文当てはめ結論です。
事例に適用するべき条文を選択し、要件に解釈を要するものがあれば規範を定立し、事例における事実を当てはめ、結論を述べる、というのがメインの流れになります。
この中で、条文解釈に関する事項以外は、こちらの記事で詳しく書いた通り、現場思考でどうにかなります。
一方で、条文解釈については、そもそも何が論点なのか、という点をその場で思いつくことはまず不可能だと思われます。また、その論点について判例がある場合は、その規範を引用した方が評価が高くなるのは当然です。
そこで、重要な条文については、どの文言について論点が存在し、規範をどう立てるか、という内容を暗記しておくことが望ましいといえます。例えば、民法177条の「第三者」の解釈であったり、刑法236条の「暴行又は脅迫」の解釈がこれに当たります。
一般的に「論証」と言われているものはこの部分に対応することが多いと思います。いわゆる予備校の論証カードを一言一句記憶する必要はまったくありませんが、定義や判例の規範といった正確性が重要なものは確実に覚えておく必要があります。あとは理由付けを一つ、キーワードで覚えておき、現場で全体を自然な日本語で文章化できれば十分です。

これについては、条文の趣旨から導けばよい、という意見もよく言われます。たしかに、法的思考の訓練としてはその方が望ましい一面もあるのかもしれません。しかし、あくまで試験であることを考えれば、その練習をしている間に規範を覚えた方が早いし確実だろうというのが私の個人的な考えです。

口述対策

民事では要件事実、刑事では犯罪成立要件(刑法各論)が、特に暗記するべき対象となります。その他の知識は短答式・論文式の民法・民事訴訟法、刑法・刑事訴訟法とほぼ共通です(論文式の実務基礎科目対策等で暗記済みであれば、特に新しい対象はないことになります)。

なお、民事刑事ともに、条文番号を聞かれるケースがあります。
これは、再現を読む限り間違えてもクリティカルに合否に影響するようには見えず、また令和4年含め聞かれない年もあることから、暗記しておく必要性は低いようにも思えます。
ただ、不安に思う場合は、民事であれば要件事実、刑事であれば犯罪成立要件を覚えた条文の番号に絞って暗記しておけば、負担も小さく、実効性も大きいはずです。

どうやって暗記すべきか

続いて、暗記の方法について、前述した明示的・黙示的それぞれのメリット・デメリットを考えていきます。

明示的な暗記

一般的に暗記といえばこちらを思い浮かべることが多いと思います。
よくある方法としては、カードの表裏にキーワードと暗記事項を書き、何度も繰り返すということが考えられます。また、何度も書いたり、呟いたりするという方法もあり得るかと思います。
私自身は、Ankiというアプリを利用して、PC・スマホ上で暗記カードを利用していました。カード作成が楽なだけでなく、記憶定着にベストなスケジュール管理を自動で行ってくれるため、おすすめです。

こういった方法の一番のメリットは、覚えるべきことを確実に覚えることができるという点です。暗記カードを回す中で、覚えていないものを何度も繰り返せばよいだけなので、特に難しいこともありません。
逆にデメリットとしては、シンプルに面倒くさいという点が挙げられます。(明示的な)暗記作業は、冒頭に記載した通り脳への負荷が大きく、とにかく辛いです。覚えていても達成感はなく、覚えていないと泣きたくなります。

面倒くささを乗り越えてこの方法を本番まで継続するためには、とにかく習慣化するしかないと思います。
暗記物は寝る前にやると記憶が定着しやすいとよく言われますが、一日の終わりの疲れがピークのタイミングで毎日必ず取り組むというのはかなりしんどいものがあります。
そこで、一日の勉強の開始のタイミング、かつ、できれば朝に当日ノルマ分の暗記カードを一周してしまうというのもおすすめです。一番やる気に溢れている時間帯なので、辛さをいくぶん軽減できます。また、カードを通して科目の全体像を短時間で確認できるため、その後の勉強を俯瞰的な視点で行うことができます。

黙示的な暗記

こちらはあまり一般的な用語ではありませんが、テキスト通読や問題演習を通じて必要な情報を記憶してしまうことを、ここでは黙示的な暗記と呼ぶことにします。
この方法のメリットは、明示的な方法の裏返しで、精神的な負担が小さいことです。問題は解ければ達成感がありますし、それで記憶までできていれば言うことありません。
デメリットとしては、やはり前述の内容の裏返しで、網羅性・確実性に欠けるという点があります。まず、読んだり解いたりするだけで覚えたという保証がありません。また、覚えているかチェックする、というフローが存在しないため、現状の到達点の把握が難しいです。

そこで、上手く両者を合わせて、負担を小さくしつつ確実性を担保するとすれば、まずは問題集を数回解き、最後まで解けなかった内容は暗記カード化して確実に潰す、といった方法が考えられます。
勉強が得意な方は、何を当たり前な、と思うかもしれませんが、盲目的に問題集を解いているだけではそこまでやらないことが多いはずです。なぜやるのか、どこまでやるのか、という目的意識を明確に持つことで、明示的な方法と黙示的な方法を使い分け、暗記効率を最大化することができます。

さいごに

暗記はとにかく辛いことも多いですが、試験場で一番頼りになるのは自分の確実な記憶であることもまた確かです。
ぜひ、色々模索し、継続できそうな方法を探してみてください。

最後までお付き合いいただきありがとうございました。

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