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【予備試験過去問対策講座】平成26年憲法


はじめに

この記事は「予備試験過去問対策講座」講義記事です。
今回は、平成26年憲法を題材に、実際に過去問を解く流れを思考過程から段階的に解説していきます。

予備試験憲法の思考方法

はじめに憲法の人権問題一般に共通する思考方法の例を紹介します。ここでは、「憲法Ⅰ(渡辺康行他)」の記載を参考とした三段階審査による論述を前提とします。

三段階審査は、問題となっている具体的行為が、①人権として保障された行為か、②その人権に対する制約があるか、そして、③その制約が正当か否かという三段階の検討を経る手法です。
この形式を徹底することにより、憲法28条が題材となった令和4年のように見慣れない問題であっても、自分の型に落とし込んで迷わず書くことができます。また、それぞれの検討段階ごとに、論証のパーツとして判例を引用しやすいため、全体として出題趣旨で求められているような「判例を踏まえた検討」を実践しやすいといえます。

以下、それぞれの段階ごとの書き方を解説していきます。

制限される行為と違憲主張の対象の特定

三段階の検討の前提として、個人のどのような行為や自由が、何によって制限されている(されうる)のか特定します。この際、違憲主張の対象が法令なのか、または行政機関等による処分なのか、という点は明確に区別します。この違いは、後述するように、当てはめにおいて摘示する事実の種類に影響します。
違憲主張する当事者が登場する場合は、どのような点に不満や要望があるのかを確実に読み取り、上記の判断を行います。

保障の有無

特定した行為や自由が、憲法によって保障されるのかどうかを論述します。
試験対策的には、ここで保障されないと結論づけると以降書くことがなくなるため、保障されるといえるような内容にします。
形式としては、原則として三段論法を厳守します。特定の人権の保障範囲を大前提として述べ、特定した行為の具体的な内容と意味が小前提となり、結論として保障範囲に含まれることを指摘することになります。

また、外国人や団体の人権享有主体性等についても、保障が及ぶかどうかという観点からここで論じます。

制約の有無

上記行為や自由を保障するとした人権に対する制約があるか否かを検討します。
ここでは、違憲主張の対象である法令や処分のどのような効果が、対象となる行為や自由をどのように制約しているのか具体的に述べ、争点を明らかにします。

制約の正当化

制約があると認められる場合、例外的に正当化できないとその制約は許されないものとなります。この正当化を検討する過程は合憲性審査と呼ばれ、形式的審査実質的審査の二つの観点から行います。

■形式的審査
形式的審査として、まずは問題となる制約に法令の根拠があるかという点を確認します。根拠がない場合は、法律の留保原則から、この時点で違憲と判断することになります。
また、表現の自由に対する制約や、刑罰法規については、明確性も問題になるため、ここで併せて検討します。もっとも、明確性が問題になるとしても、ここで無効としてしまうとやはりこれ以降書くことがなくなるため、明確性が認められる方向で論述することが多いと思います。
なお、明らかに形式的審査の対象に該当しそうな事由がない場合は、省略することもあります。

実質的審査
形式的審査をクリアすることが確認できたら、その制約の内容が正当かどうかを審査します。
ここでは、規制の目的と手段の必要性・合理性について規範を定立し、事実を当てはめて、最終的に正当化できるかどうか結論を述べる、という三段論法を基本として論述します。

規範を定立するに当たっては、事例における権利の重要性と規制の態様についてそれぞれ評価を行い、審査の厳格度(審査基準)を設定します。
この際、判例を直接引用しないにしても、判例が審査基準を設定するに当たって考慮している要素を検討することで、出題者の意図に沿った解答に近づく可能性が高まります。例えば表現の自由に対する制約であれば、直接的か間接的・付随的か、内容規制か内容中立規制か、事前規制か事後規制か、といった内容等がこれに当たります。

実質的審査は、目的手段の適合性手段の必要性、及び手段の相当性の観点から行います。したがって、審査基準もそれぞれに対する許容度という形で設定することになります。

目的審査は、合憲を主張する側がいう規制の目的により、どのような利益を得ることができるのか、という観点から行われます。
手段の適合性審査は、規制によって上記の目的を達成することができるのか、つまり関連性はどの程度か、という点を評価します。
手段の必要性審査は、目的を達成するための他の手段があるのではないか、という点を検討します。
最後に、手段の相当性審査は、規制により得られる利益と失われる利益の比較衡量により行います。

一般的な審査基準と上記観点ごとの許容度をまとめると以下のようになります。

  • 厳格審査基準

    • 目的:必要不可欠であること

    • 手段の適合性:規制範囲が厳密に規定されている(過不足がない)こと

    • 手段の必要性:より制限的でない手段では目的を十分達成できないこと

    • 手段の相当性:相当であること

  • LRAの基準

    • 目的:重要であること

    • 手段の適合性:実質的関連性があること

    • 手段の必要性:より制限的でない手段では目的を十分達成できないこと

    • 手段の相当性:相当であること

  • 実質的関連性の基準

    • 目的:重要であること

    • 手段の適合性:実質的関連性があること

    • 手段の必要性:検討不要

    • 手段の相当性:相当であること

  • 合理的関連性の基準

    • 目的:不当でないこと

    • 手段の適合性:合理的関連性があること

    • 手段の必要性:検討不要

    • 手段の相当性:不相当でないこと

最後に定立した規範(審査基準)に対して、事例中の具体的な事実を当てはめ、結論を述べます。
法令違憲を主張する場合は、その法令が制定された背景的事情である事実(立法事実)が当てはめの対象となります。つまり、適用される相手方や場面によらず、一般的に合憲または違憲といえるのか、という検討をすることになります。
一方、処分違憲を主張する場合は、処分のなされた実際の状況における事実(司法事実)が当てはめの対象となり、具体的・個別的な検討を行います。

なお、採点実感等に明記されているわけではありませんが、一般的な認識として、事実の引用が充実している答案の評価が高いとされています。そこで、規範定立までの抽象論は大展開しすぎず、むしろその後の当てはめに時間を掛けられるような配分が重要です。分量としては、規範の定立までとそれ以降が1対1になる程度を目安にすると、十分な引用となることが多いと思います。

まとめ

以上を答案構成の形でまとめます。

  1. ○○法の○○という規制は、○○の○○という行為(自由)を侵害し、違憲ではないか。

  2. 保障の有無

    1. 特定の人権の保障範囲

    2. 当てはめ

    3. 結論(保障される)

  3. 制約の有無

  4. 制約の正当化

    1. 形式的審査

      1. 法令の根拠の有無

      2. 法令の明確性

    2. 実質的審査

      1. 規範定立

        1. 権利の重要性(~から重要な権利である等)

        2. 規制の態様(~から強度の制約である等)

        3. 違憲審査基準の設定

      2. 当てはめ

        1. 目的

        2. 手段

          1. 適合性、必要性、相当性

      3. 結論

以上が、人権問題の基本的な思考方法です。

平成26年憲法

では、実際の問題を解いていきます。

制限される行為と違憲主張の対象の特定

C社は、「本条例は違憲であると主張」していることから、答案上ではこの条例に対する法令違憲審査を行う流れで論述すれば良いことが分かります。そして、「加入義務は憲法に違反していると考え」ていることから、本条例のうち、この部分の規定をメインに取り上げれば良さそうです。

では、商店会への加入の義務付けは、憲法上のどのような権利を制約するでしょうか。まず、直接的には結社の自由の裏返しとして21条1項により保障される「結社をしない自由」を制約すると主張することが考えられます。
そして、商店会へ加入しない場合は、7日間の営業停止処分を受ける可能性がありますが、何度も当該処分を受けるとすれば営業の継続は困難であり、22条1項が保障する「職業選択の自由」を制約しているとも言えそうです。
もっとも、前者は、実質的には、目的達成の手段として強制加入制を採用している点についてのみ問題となり得るため、答案上、対象とする権利としては直接取り上げず、職業選択の自由に対する規制態様として強制加入制について検討することにします。現実的にも、時間と紙幅の制約がある中で、双方過不足なく論じることは難しいと思われます。

第二十一条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。

第二十二条 
何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。

問いでは、設問1でC社の主張、設問2でA市の反論と自身の見解について述べるよう指示されていますが、以下では、三段階審査の段階ごとに、3者の主張をそれぞれ検討し、最後に並べ替えて整理することにします。

保障の有無

職業選択の自由は22条1項で明示的に保障されています。したがって、この点は争いが生じ得ません。

制約の有無

■C社の主張
C社としては、当然、商店会への加入の義務付けは、職業選択の自由に対する制約に当たると主張します。

■A市の反論
これに対して、A市は、本条例は、あくまで商店会への加入を義務付けるものであり、新規参入そのものを規制するわけではないことから、職業選択の自由に対する制約とはいえないと反論することが考えられます。

■自身の見解
ここで制約性を否定してしまうと、以降、自身の見解として述べることがなくなるため、肯定しておくべきでしょう。
理由付けとしては、前述の通り、商店会へ加入しない場合は、7日間の営業停止処分を受ける可能性があることころ、何度も当該処分を受けるとすれば営業の継続は困難になり、開業そのものの断念にもつながり得ることから、実質的に職業選択の自由を制約する、といったものが考えられます。

制約の正当化 ~実質的審査~

もっとも、制約があるとしても、職業選択の自由は「公共の福祉に反しない限り」保障されるにすぎず、制約も一定の基準の下で正当化されます。

以下では、制約される権利の重要性と制約の態様から、妥当な基準を検討します。

違憲審査基準の定立
■C社の主張
職業選択の自由の重要性については、特に3者で争いはないと思われるため、ここでは、制約の態様に注目します。

規制が、憲法上明文で保障されている職業選択の自由そのものに対する直接的な制約である場合は、審査を厳格化する理由となります。C社としては、前述の通り、加入義務に付随する営業停止処分を理由として、本条例が職業選択の自由そのものを制約していると主張することになります。

したがって、C社は、実質的関連性の基準で違憲性を審査すべきと主張することになるでしょう。

■A市の反論
A市としては、規制の目的に着目して、より緩い審査基準の適用を主張したいところです。

職業選択の自由のような経済的自由権に対する規制は、規制の目的に応じて立法裁量を尊重する程度に差が生じます。すなわち、社会公共の安全や秩序維持という目的の場合は、立法府の裁量を尊重する理由が乏しいといえる一方、経済的弱者を保護するための目的の場合は、専門的及び政策的判断の必要性から、立法府の裁量はより尊重されるべきでしょう。

そこで、A市は、本条例の主要な目的が、共同でイベントを開催するなど大型店やチェーン店を含む全ての店舗が協力することによって集客力を向上させ、商店街及び市内全体での商業活動を活性化することにある点について述べ、これらは所謂積極目的に当たることから、立法府の裁量を尊重する必要があり、合理的関連性の基準で審査審査すべきと反論することが考えられます。

■自身の見解
本条例の目的は、A市の主張する積極目的に加え、大型店やチェーン店をも含めた商店会を、地域における防犯体制等の担い手として位置付けることにもあります。これは、社会公共の安全に繋がることから消極目的といえるでしょう。つまり、本条例の目的は、消極目的と積極目的が混在していることから、違憲審査に当たっては、立法府の裁量を過度に尊重するべきではないといえます。

したがって、C社と同様、実質的関連性の基準で違憲性を審査すべきと主張することにします。

当てはめ
設定した審査基準に応じて、前述の4要素を検討していきます。

■C社の主張
まず、実質的関連性の基準における許容度は以下の通りです。

  • 目的:重要であること

  • 手段の適合性:実質的関連性があること

  • 手段の必要性:検討不要

  • 手段の相当性:相当であること

当然、C社としては、いずれかの要件を充足しない点を主張することになります。色々な主張が考えられますが、例えば、目的のうち、商店会を地域における防犯体制等の担い手として位置づけるという点について、そもそもこれは公権力による警察規制によるべきであり、商店会の責務とはいえないため重要ではないといった内容が考えられます。

■A市の反論
合理的関連性の基準における許容度は以下の通りです。

  • 目的:不当でないこと

  • 手段の適合性:合理的関連性があること

  • 手段の必要性:検討不要

  • 手段の相当性:不相当でないこと

商業活動の活性化や防犯強化は、商店街の多くがシャッター通りと化している現状を踏まえれば、不当とはいえないでしょう。また、大型店やチェーン店を含むすべての店舗に商店会の加入を義務付ける手段は、資金面の充実に加え、取り得る施策の幅が広がることから、目的達成との合理的関連性があるといえます。会費は売上高に一定の比率を乗じて算出したものであるため、仮に金額自体が大きくなる店舗があったとしても、経営への負担が過度に大きいとはいえず、上記目的達成により受ける恩恵と比較して、不相当とはいえません。
A市としては、以上のように、本条例の合憲性を主張することが考えられます。

■自身の見解
まず、商業活動の活性化という本条例の目的は、実際にA市における商店街の多くがシャッター通りと化していた現状から、解決すべき重要なものであるといえます。一方で、防犯強化については、C社の主張するように、商店会の責務とはいえないことから、重要とはいえないでしょう。
また、強制加入という手段について、大型店やチェーン店はそもそも商店会に加入しなくても営業に支障がないことから、加入を強制する理由がなく、商店会の活性化を図るのであれば、商店街に位置する商店と大型店等の双方に経済的なメリットがあるような取り組みを考えることができ、またそうすべきであることから、手段と目的に実質的関連性があるとはいえません。
したがって、本条例は22条1項に反し、違憲であると主張することが考えられます。

なお、結論自体は重要ではなく、定立した規範に対応させて、説得的に当てはめができているかがポイントであるため、上記の論述そのものはあくまで一例としてご参考程度に留めてください。

答案例

以上を文章化した答案例です。

出題の趣旨

本問題について公表されている出題の趣旨は以下の通りです。

本問は,職業の自由に対する制約,そして結社の自由に対する制約の合憲性に関する出題である。職業の自由の制約に関しては,近時,規制目的二分論に言及することなく判断している最高裁判例(最三判平成12年2月8日刑集第54巻2号1頁,最三判平成17年4月26日判例時報1898号54頁)や租税の適正かつ確実な賦課徴収という第三の目的が示された最高裁判例(最三判平成4年12月15日民集第46巻9号2829頁)があり,まずは,規制目的二分論の有効性自体を検討する必要がある。その上で,設問の条例の目的を政策的目的と位置付けるとしても,その具体的内容や制約の合憲性審査の手法につき,定型的でない丁寧な論証が求められる。さらに,設問の条例は,目的達成手段として強制加入制を採用している点において,結社の自由への制約の問題についても検討する必要がある。強制加入制の合憲性をめぐっては,南九州税理士会事件(最三判平成8年3月19日民 集第50巻3号615頁),群馬司法書士会事件(最一判平成14年4月25日判例時報1785号31頁)などで争われており,これらの判例も念頭に置きつつ, 本問の条例では,条例が定める目的を達成するための手段として,営利法人に対して団体への加入を義務付け,さらに,違反に対して最長7日間の営業停止という処分を課すことができるとしている点などを踏まえ,制裁で担保された強制加入制の合憲性を論じる必要がある。

参考書籍

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