【予備試験過去問対策講座】令和2年憲法
はじめに
この記事は「予備試験過去問対策講座」講義記事です。
今回は、令和2年憲法を題材に、実際に過去問を解く流れを思考過程から段階的に解説していきます。
予備試験憲法の思考方法
はじめに憲法の人権問題一般に共通する思考方法の例を紹介します。ここでは、「憲法Ⅰ(渡辺康行他)」の記載を参考とした三段階審査による論述を前提とします。
三段階審査は、問題となっている具体的行為が、①人権として保障された行為か、②その人権に対する制約があるか、そして、③その制約が正当か否かという三段階の検討を経る手法です。
この形式を徹底することにより、憲法28条が題材となった令和4年のように見慣れない問題であっても、自分の型に落とし込んで迷わず書くことができます。また、それぞれの検討段階ごとに、論証のパーツとして判例を引用しやすいため、全体として出題趣旨で求められているような「判例を踏まえた検討」を実践しやすいといえます。
以下、それぞれの段階ごとの書き方を解説していきます。
制限される行為と違憲主張の対象の特定
三段階の検討の前提として、個人のどのような行為や自由が、何によって制限されている(されうる)のか特定します。この際、違憲主張の対象が法令なのか、または行政機関等による処分なのか、という点は明確に区別します。この違いは、後述するように、当てはめにおいて摘示する事実の種類に影響します。
違憲主張する当事者が登場する場合は、どのような点に不満や要望があるのかを確実に読み取り、上記の判断を行います。
保障の有無
特定した行為や自由が、憲法によって保障されるのかどうかを論述します。
試験対策的には、ここで保障されないと結論づけると以降書くことがなくなるため、保障されるといえるような内容にします。
形式としては、原則として三段論法を厳守します。特定の人権の保障範囲を大前提として述べ、特定した行為の具体的な内容と意味が小前提となり、結論として保障範囲に含まれることを指摘することになります。
また、外国人や団体の人権享有主体性等についても、保障が及ぶかどうかという観点からここで論じます。
制約の有無
上記行為や自由を保障するとした人権に対する制約があるか否かを検討します。
ここでは、違憲主張の対象である法令や処分のどのような効果が、対象となる行為や自由をどのように制約しているのか具体的に述べ、争点を明らかにします。
制約の正当化
制約があると認められる場合、例外的に正当化できないとその制約は許されないものとなります。この正当化を検討する過程は合憲性審査と呼ばれ、形式的審査と実質的審査の二つの観点から行います。
■形式的審査
形式的審査として、まずは問題となる制約に法令の根拠があるかという点を確認します。根拠がない場合は、法律の留保原則から、この時点で違憲と判断することになります。
また、表現の自由に対する制約や、刑罰法規については、明確性も問題になるため、ここで併せて検討します。もっとも、明確性が問題になるとしても、ここで無効としてしまうとやはりこれ以降書くことがなくなるため、明確性が認められる方向で論述することが多いと思います。
なお、明らかに形式的審査の対象に該当しそうな事由がない場合は、省略することもあります。
■実質的審査
形式的審査をクリアすることが確認できたら、その制約の内容が正当かどうかを審査します。
ここでは、規制の目的と手段の必要性・合理性について規範を定立し、事実を当てはめて、最終的に正当化できるかどうか結論を述べる、という三段論法を基本として論述します。
規範を定立するに当たっては、事例における権利の重要性と規制の態様についてそれぞれ評価を行い、審査の厳格度(審査基準)を設定します。
この際、判例を直接引用しないにしても、判例が審査基準を設定するに当たって考慮している要素を検討することで、出題者の意図に沿った解答に近づく可能性が高まります。例えば表現の自由に対する制約であれば、直接的か間接的・付随的か、内容規制か内容中立規制か、事前規制か事後規制か、といった内容等がこれに当たります。
実質的審査は、目的、手段の適合性、手段の必要性、及び手段の相当性の観点から行います。したがって、審査基準もそれぞれに対する許容度という形で設定することになります。
目的審査は、合憲を主張する側がいう規制の目的により、どのような利益を得ることができるのか、という観点から行われます。
手段の適合性審査は、規制によって上記の目的を達成することができるのか、つまり関連性はどの程度か、という点を評価します。
手段の必要性審査は、目的を達成するための他の手段があるのではないか、という点を検討します。
最後に、手段の相当性審査は、規制により得られる利益と失われる利益の比較衡量により行います。
一般的な審査基準と上記観点ごとの許容度をまとめると以下のようになります。
厳格審査基準
目的:必要不可欠であること
手段の適合性:規制範囲が厳密に規定されている(過不足がない)こと
手段の必要性:より制限的でない手段では目的を十分達成できないこと
手段の相当性:相当であること
LRAの基準
目的:重要であること
手段の適合性:実質的関連性があること
手段の必要性:より制限的でない手段では目的を十分達成できないこと
手段の相当性:相当であること
実質的関連性の基準
目的:重要であること
手段の適合性:実質的関連性があること
手段の必要性:検討不要
手段の相当性:相当であること
合理的関連性の基準
目的:不当でないこと
手段の適合性:合理的関連性があること
手段の必要性:検討不要
手段の相当性:不相当でないこと
最後に定立した規範(審査基準)に対して、事例中の具体的な事実を当てはめ、結論を述べます。
法令違憲を主張する場合は、その法令が制定された背景的事情である事実(立法事実)が当てはめの対象となります。つまり、適用される相手方や場面によらず、一般的に合憲または違憲といえるのか、という検討をすることになります。
一方、処分違憲を主張する場合は、処分のなされた実際の状況における事実(司法事実)が当てはめの対象となり、具体的・個別的な検討を行います。
なお、採点実感等に明記されているわけではありませんが、一般的な認識として、事実の引用が充実している答案の評価が高いとされています。そこで、規範定立までの抽象論は大展開しすぎず、むしろその後の当てはめに時間を掛けられるような配分が重要です。分量としては、規範の定立までとそれ以降が1対1になる程度を目安にすると、十分な引用となることが多いと思います。
まとめ
以上を答案構成の形でまとめます。
○○法の○○という規制は、○○の○○という行為(自由)を侵害し、違憲ではないか。
保障の有無
特定の人権の保障範囲
当てはめ
結論(保障される)
制約の有無
制約の正当化
形式的審査
法令の根拠の有無
法令の明確性
実質的審査
規範定立
権利の重要性(~から重要な権利である等)
規制の態様(~から強度の制約である等)
違憲審査基準の設定
当てはめ
目的
手段
適合性、必要性、相当性
結論
以上が、人権問題の基本的な思考方法です。
令和2年憲法
では、実際の問題を解いていきます。
この問題にはじめて取り組む方は、少なくとも問題文は読んでいただいた上で、ここまで述べたような検討要素を事前に自分なりに考えておいていただけると、学習効果が大きく上がるかと思います。
制限される行為と違憲主張の対象の特定
まず、直接的な問いは、「犯罪被害者及びその家族等の保護を目的として、これらの者に対する取材活動を制限する立法」の「憲法適合性」なので、答案上ではこの立法に対する法令違憲審査を行えばよいことが分かります。
そして、設問にも明示されている通り、この法律が制限しているのは、報道関係者による取材活動です。
保障の有無
取材の自由は憲法上明文で保障されていないため、保障の有無についてはある程度丁寧な検討が必要になります。この際、参考にするべきは、博多駅事件(最大決昭44.11.26)です。
ご存じの方も多いと思いますが、これは、裁判所がテレビ放送会社に対して、ある事件の模様を撮影したテレビフィルムを提出するよう命じたところ、その提出命令が報道・取材の自由を侵害するのではないかが問題となった事案です。
ここで最高裁は、報道の自由が憲法21条で保障されることを認めた上、報道のための取材の自由も、憲法21条の精神に照らし、十分尊重に値する、と述べています。
つまり、取材の自由の存在とその重要性は認めつつも、21条の保障が及ぶと言い切っているわけではないため、この判例だけを根拠として、取材の自由に憲法上の保障が及ぶと論述するのは難しいことになります。
もっとも、答案戦略的には、この段階で保障が及ぶとした方が明らかに書きやすいため、この判例をベースとして、理由付けを追加して説得力を増すことを考えます。例えば、以下のような論証が考えられます。
制約の有無
本件法律は、報道関係者の取材活動について、犯罪被害者等に対して取材及び取材目的での接触を原則として禁止するものです。また、これに違反すると取材等中止命令が発せられ、さらにこの命令に違反すると処罰するとされています。これは、明らかに取材の自由を制約するものであるといえます。
制約の正当化 ~実質的審査~
もっとも、冒頭の立法事実にもある通り、取材もその態様によっては、被取材者の人権と衝突する可能性があるため、制約があればすぐに違憲ということはなく、制約も一定の基準の下で正当化されます。
そこで、制約される権利の重要性と制約の態様から、妥当な基準を検討します。
■権利の重要性
制約される憲法上の権利である取材の自由が、本事例においてどのような重要性を持つのか検討します。
一般的に、表現の自由は、個人の人格形成を実現する機能である自己実現の価値を有することや、自由な議論や相互批判が真実発見に役立つという思想の自由市場に資する点、そして、表現によって政治的意思決定に関与する機能である自己統治の価値を有する点にその重要性があると説明されます。
取材の自由が表現の自由として保障されると説明する以上、その重要性もこれらの観点から論述することを考えてみます。
まず、取材がその後の報道を通じて国民の知る権利に資するものであるという点は触れるべきでしょう。これは、思想の自由市場の前提として、その重要性を示すことができます。
また、被害者等の取材を通じて、犯罪の実情が国民に伝わりやすくなることにより、法改正等の議論が活発化することが期待できます。これは、自己統治の価値に資する側面であるといえます。
以上から、権利の重要性の観点からは、通常の表現そのものの自由と比較して劣後する事情はなく、原則通り厳格に審査すべきという結論になります。
ここは、表現の自由に対する制約であることさえ意識できていれば、人それぞれの書き方で問題ありません。
■規制の態様
表現の自由の場合は、事前規制か事後規制か、内容規制か内容中立規制か、直接的か間接的・付随的か、という点等が制約の強さを判断するための重要な基準となります。
まず、本件法律は、犯罪被害者等への取材等を原則として禁止するものです。かつ、犯罪の態様や取材の目的によらず一律に制約するものであり、報道関係者等は犯罪被害者等の取材に基づく報道をできなくなるという点で、実質的に内容規制(と同様の萎縮効果が生じうる規制)であるといえます。
同意があれば許されるとはいえ、一般的には、犯罪被害者等の立場からすればいわゆるメディアスクラムを避けたいと考えることが普通であり、積極的に同意するケースはむしろ少数派でしょう。そうすると、原則禁止であり、かつ例外も極めて制限されている制度であるといえます。
また、取材等の禁止に違反した場合、取材等中止命令が発せられ、この命令に違反した場合は罰則が科されます。段階的とはいえ、本来まったく犯罪とならない通常の職務行為に対する処罰規定であるため、制約の強さを根拠づける大きな理由となります。
以上から、制約の態様としては強度であると評価できるでしょう。
■違憲審査基準の設定
ここまでの議論を踏まえると、権利の重要性は高く、かつ規制の態様は強度であると評価したため、違憲審査基準としては厳格審査基準を設定することになります。すなわち、原則として違憲性が推定され、立法目的が必要不可欠であり、目的に対して手段が厳密に規定され、手段が必要最小限である場合に限り合憲とするという基準を示します。
この基準を示す部分は、予備校や合格者によって差異が大きいところであると思います。基本書によっても統一された文言があるわけではありません。結局、重要なのは審査の厳格度をどのように評価したのかという点をしっかり示し、その後の当てはめで前述の4要素を審査の厳格度に応じて適切に評価するということです。したがって、基準の示し方は信頼できる情報源からしっくりくるものを選べばよく、あまりこだわる必要はないと思います。
■当てはめ
設定した審査基準に応じて、前述の4要素を検討していきます。
厳格基準における許容度は以下の通りです。
目的:必要不可欠であること
手段の適合性:規制範囲が厳密に規定されている(過不足がない)こと
手段の必要性:より制限的でない手段では目的を十分達成できないこと
手段の相当性:相当であること
なお、どの科目でもそうですが、基本的に当てはめのうち事実を法的に評価する部分は、各人の一般常識によって行われるべきものです。したがって、事実を十分に拾えてさえいれば、当てはめ部分の書き方は人それぞれですので、以下の内容は一例として捉えていただくとよいかと思います。
・目的
まず、本件法律の目的は、報道関係者等による取材活動の過熱・集中により、犯罪被害者等の私生活の平穏が害されるおそれがあることから、取材を制限することで犯罪被害者等を保護する点にあります。
立法事実にも記載がある通り、犯罪被害者等は悲嘆の極みというべき状況にあることも多いことから、取材を通じて望まずに事件のことを思い出さざるを得ない状況になることで精神的に追い詰められることも十分考えられます。
したがって、規制の目的は生命・身体の安全に関わる必要不可欠な利益であるといえます。
・手段の適合性
続いて、手段の適合性について検討します。
目的に対して、手段は取材の原則禁止というものであり、確実に犯罪被害者等の生活の平穏に繋がるものであり、少なくとも関連性は認められます。また、本件法律は、取材の手段によらず犯罪被害者等との取材目的での接触を禁止するものですが、いずれの手段によって被害者等が精神的なストレスを感じるかは事前に分かるものではなく、同意を通じて被害者等ごとにその判断に委ねるという設計は合理的なものであるといえます。
一方で、犯罪被害者等の同意は、捜査機関が捜査を始めるタイミングで確認し、それを報道関係者等に伝えるルールになっています。これは、やや無理矢理マイナス評価をするとすれば、捜査機関が捜査への支障を理由として恣意的な運用をするおそれを排除できないという指摘ができるかと思います。つまり、その限りで目的と関連性を有していません。
また、ルール上、捜査の開始以前は一切取材ができないことになりますが、これは被害者等の意思とは全く関係のない制約であるため、やはり目的と関連性を有しない過大な規制であるといえます。
したがって、適合性の観点から、規制範囲が厳密に規定されているとはいえません。
・手段の必要性
犯罪の態様や取材の目的によらず一律に取材を原則禁止としている点について検討します。
例えば窃盗罪のような財産犯の被害者やその家族の場合には、自身や家族の生命・身体に侵害が加えられた場合と比較して、取材を通じて精神的ストレスを受ける割合は相対的に小さいとも思えます。そのような状況が想定しうる以上、対象の犯罪を制限するというより制限的でない手段でも目的を達成できるといえます。
また、報道関係者等によっては、リアルな被害者の声を社会に届けることにより世論が事件に関心を向けることで、犯人逮捕に協力し、または、犯人に対する厳罰化を求めるといった目的を持っているケースもあるでしょう。そういった場合、そのような目的が伝わりさえすれば同意していなかった被害者等が同意に転じる可能性は大いに考えられますが、現状のシステムではその目的を伝えるべき場が存在しません。したがって、目的による場合分けや目的を伝える場の設定といったより制限的でない手段が考えられるといえます。
・手段の相当性
最後に相当性の観点から狭義の比例性を確認します。
本件法律により取材の自由が制限される程度は、ここまで述べてきた通り非常に強度なものであると評価できるでしょう。
一方、本件法律による規制によって得られる利益は、犯罪被害者等の平穏な生活です。もっとも、こちらも前述の内容と重複しますが、犯罪の態様や取材の目的によっては、必ずしも平穏な生活が侵害されるとはいえず、発生確率まで考慮した規制の必要性としては、上記の強度な制約と見合うほど大きいものではないといえます。
したがって、本件法律は手段の相当性を欠きます。
以上から、本件法律は、手段の適合性、必要性及び相当性を欠くことから、その制約は正当化されず、違憲です。
なお、繰り返しになりますが、結論自体は重要ではなく、定立した規範に対応させて、説得的に当てはめができているかが合否のポイントであるため、上記の論述そのものはあくまで一例としてご参考程度に留めてください。
構成・文章化
ここまでの内容を答案の形に構成していきます。
※ noteの仕様上、これ以降ナンバリングをすべて1, 2, 3,…としていますが、階層ごとに、第1,…、1,…、(1),…、ア,…と読み替えてください。
本件立法による取材活動の制限は、報道関係者等の表現の自由(21条1項)を侵害し、違憲ではないか。
保障の有無
(前提として)報道の自由:保障される
取材の自由:保障される
制約の有無:制約あり
では、本件制約は正当なものであるといえるか。
実質的審査
規範定立
権利の重要性:重要
規制の態様:強度
違憲審査基準の設定:厳格審査基準
当てはめ
目的:必要不可欠
手段
適合性:認められない
必要性:認められない
相当性:認められない
結論:違憲
これを文章化すれば答案の完成です。
出題の趣旨
本問題について公表されている出題の趣旨は以下の通りです。
参考答案
以上の内容を反映した参考答案を添付します。
注意事項として、ここまでの考え方と構成方法が整理できていれば、文章化によって大きな差はつかないはずであり、さらに自分で書く前に他人の答案を読むことで、本質的ではない部分を無意識に真似てしまう恐れがあります(そういう意味では、読む必然性はありません)。そこで、参考答案を確認する前に、まずは簡単にでも自力で文章化していただき、自分にとって書きやすい方法を習得することを目指してください。
参考書籍
書き方講座記事のご案内
本noteでは、論文の書き方についてゼロから丁寧に解説した記事を公開しています。これから論文を書き始める方、論文の勉強方法に悩んでいる方はぜひご覧ください。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?