見出し画像

おばあちゃんのおひざもと 第39話 トーランス Torrance

「トーランスっていう街のカースンっていう通りに、結婚するまで家族と一緒に住んでた。周りは麦畑ばかり。日本で女学校を卒業して、また呼び寄せられてアメリカに戻ったときに親に連れて行かれたのがその街。ロサンゼルスに引っ越ししてたんだね。おばあちゃんが長女で5人のきょうだいのうち上4人は小学校に上がる頃に母親に連れられて日本に来て、私はおじいちゃんおばあちゃん、おじさん、おばさんたちに育てられたんだよ。母は子供を親に預けた後、アメリカにいる旦那(お父さん)のところへまた一人で戻ったんだけど、その後に生まれた妹に私たちは会ったことがなかった。だから初めて会ったのもこの時。妹だって言われても、もう大きくなってたからびっくりしたよ。そこで父は魚売りの仕事をしてた。魚を売りにあちこち行く行商人で Fish Peddler って呼ばれてた。サンペドロの魚市場で毎朝魚を仕入れては曜日毎に違う得意先をトラックで売りに回ってたよ。父は大きなトラックを一台所有してて、荷台には氷が一杯詰まっていて、冷蔵庫として使ってた。

アメリカに向かう船で、ロサンゼルスオリンピックの選手団と一緒になったんだけど、実際にオリンピックの競技も家族で見に行ったよ。”メモリアル・コロシアム”っていう所で開かれてね。あれは忘れない思い出だねえ。船の中で見た、南部忠平や大島鎌吉が自分の真下で3段跳びをするのを見て、大感激しながら拍手を送って応援したよ。日本人選手が頑張ってねえ、たくさんメダルを取ったんだよ。特に水泳が強くて、金メダルもらって大活躍だった。やっぱり海で鍛えてるからかねえ、なんて家族で話して。

サンペドロの港からちょっと離れた所にあるターミナル島っていう所に栄作おじさんが住んでたから、時々家族で訪ねに行った。そこへ向かう途中に船が通るたびに上がったり下がったりする仕掛けの橋があってね、面白いなあって思いながら船から眺めてたの。」


*この本は第1話から46話まで、順番に各章の最初の頭文字一音(ひらがな)をつなげていくと、あるメッセージ明らかになります。さて、どんなメッセージでしょうか。

ここから先は

0字
隠されたメッセージ。いろはかるたの小説版。最初から最後の章まで、各章の頭文字を書き出していくと、最後にこの本の核心が明らかになります。かるた同様、お遊び感覚でも楽しめる本です。

大正3年、1914年にアメリカに生を受け、22歳までに3度も船で太平洋を横断し日本とアメリカを行き来したおばあちゃん。ロサンゼルスの大都会…

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?