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セナのCA見聞録 Vol.36 シカゴでピアノの猛練習

この頃、私はオフを利用して、ピアノのレッスンを再開していました。

昔、子供のころ習っていたピアノがまた弾きたくなったのです。

夜中一人で起きている時間が圧倒的多くなった私は、近所迷惑にならない電子ピアノを購入しました。ヘッドセットを耳につけて、自分のお気に入りの曲を選んではポロポロと弾き始めるうちに、またピアノを弾くの楽しみが蘇ってきました。

秋になり、木の葉がカラフルに色付く通りを歩いて音楽サロンへ到着すると、ピアノの発表会の案内が張り出されていました。発表会はクリスマス前の週末でした。参加するしないは任意でしたが、私は上達するいい機会だと思い、なんのためらいもなく申し込みました。

ところが、申し込んだはいいものの、練習する時間を確保するのが思いのほか大変なことに、後から気が付きました。

以前、あるピアニストが、”ピアノは一日弾かないと、2日前に戻る。2日弾かないと4日前に戻る。だから毎日欠かさず弾かなくてはならない”と言っていたのを聞いたことがあります。いまさらプロのピアニストになるつもりはないけれど、それでも限られた日数の中で、一曲を完成させるにはそれなりの努力が要求されます。

これはレイオーバー(ステイ)先でも練習するくらいのつもりでないと、本番までに間に合わない、とあせり始めてきた私は、飛んだ先々でビジターにもピアノを貸してくれる場所はないかと探し始めました。イエローページやホテルのコンシェルジェなど、考えられる様々な情報源を活用して、フライト先の音楽スタジオや音楽教室を探し、当日の飛び入りで練習させて頂けないだろうかと、かたっぱしから電話をかけまくりました。

シカゴに飛んだ際、ホテルの部屋で何件か問い合わせを続けていると、ある男性のピアノ講師から、「あなたのようなケースは、市内にあるシカゴ州立図書館が相応しいでしょう。場所はーーー。私の記憶が間違っていなければ、確か30分単位で無料でスタジオを借りられるはずですよ。」となんとも貴重な情報を教えて頂くことができました。

せっかちな私は、5分後には楽譜を持ってホテルの部屋を出ていました。バスを乗りついで言われた番地を探し、ようやく見つけた図書館は、大変立派な重厚な建物で見上げる程の高さがありました。

各階が分野ごとに別れているとても広々とした館内に目を見張りながら、私は迷わず音楽フロアへと向かいました。カウンターで係りの人に、「ここでピアノの練習がさせて頂けると聞いて来たのですが」少々不安げに聞いてみると、基本的には州民が対象だが、パスポートなどの身分証明書を持っていれば、確かに誰でも借りられるとの返答でした。

「やったあ。よかった。」と心の中で呟き、私は早速かばんの中からパスポートを出し、パスポートと引き換えに、鍵をもらって指定された個室で練習を始めました。

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