見出し画像

セナのCA見聞録 Vol.23 思い出のサンフランシスコ便 前編

通常、成田―サンフランシスコは三日間のスケジュールで飛びます。

成田を夕刻出発し、同日の午前中に現地に到着。一泊して翌日の朝サンフランシスコを発ちます。レイオーバーは24時間程度で、そのうち半分は移動や睡眠にあたるため、現地でのフリーな時間は半日あるかないかです。

その半日の過ごし方はたいてい食事に数時間、あとはクルー仲間とおしゃべりしたり、買い物か映画、またはホテルの部屋でゆっくり過ごす、といったパターン。

ところが、今回のフライトは機体手配の調整上、一日レイオーバーが増えて四日間の日程になりました。しかも一人の韓国系アメリカ人を除き、乗務するCA全員が成田ベースから呼ばれた日本人というめずらしいクルー編成でした。

アメリカの航空会社なので、普通は私たち日本人は数人で、ほとんどがアメリカ人のCAです。ですから、出発前のブリーフィンルームに集まった全員が黒髪で日本語を話しているのは妙な感じがしました。

私はこの日初めてアメリカ便のチーフパーサーを務めました。

飛び始めてちょうど一年たった頃で、近場のソウル便で何度もパーサー経験をさせられたものの、ロングフライトのアメリカ便は初めてなので、ちょっと緊張しました。

ブリーフィングで冒頭、

「今日は私のアメリカ便チーフパーサー、デビューの日です。まごまごした仕事で迷惑をかけるかと思いますが、精一杯がんばります。何か気が付いた点があったらどんどん指摘して下さい。どんな意見にもオープンに耳を傾けますのでご遠慮なく。皆さんと気持ちのいいフライトにしたいと思っておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。」と挨拶をし、いつものように集まったクルーの自己紹介に移りました。

会議室の空気はとてもしゃんとして気持ちがよく、幸先のよさを感じいいフライトになりそうな気がしました。

ここで念のために触れておくと、例えCA全員が日本人でも、仕事は英語で行わなくてはなりません。従ってブリーフィングも日本人を相手に全て英語で行いました。

この便にはもう30年以上も乗務経験のある大ベテランの日本人シニアの方が二人乗っていて、幸運にも私はこの大先輩とずっとファーストクラスで一緒に仕事をさせていただくことができました。プロ意識を持ち、心して美しい所作でサービスをしようと心がけてきた人にのみ備わっている内なる気品とプライドは、傍でみていてとても勉強になり感心させられることが多々ありました。サービスも仕事の流れも単にたんたんとこなすのではなく、そこに美意識を反映させたり細かい気配りが見て取れ、日本人らしい繊細さがよく現れていると思いました。

シニアの一人、智恵子さんは私の未熟な仕事ぶりにも、「今のアナウンス、とてもきれいだったけれど、ちょっと先を急いでいる感じだったわね。次は今の二倍くらいかけるつもりで一文毎にひと呼吸を入れてゆっくりやってみたらどうかしら。」と、角の立たない優しい口調で指導して下さりました。

また、私が次にしなくてはならないことで頭がいっぱいなときに、お客様からコーヒーを頼まれ、「はい、ただ今お持ちいたします。」とギャレーでコーヒーを急いで注ぎ、黒いプラスチックのトレー(お盆)に載せて通路へ出ようとすると、「あらあら、セナさん。黒いトレーなんか使って。こちらでしょう。」とシルバートレイをさっと差し出して下さったりもしました。

ファーストクラスでは常にファーストクラスに見合ったサービスを忘れないように、と私の行動を正して下さり、とても有り難かったです。よくありがちな個人の非を見つけ、それを責めるような言い方をなさらないところに、指導の仕方もさすがだなあと私は感心させられるのでした。

ドリンクサービスの最中に、エコノミークラスで禁煙となっている機内のトイレからたばこの臭いがするとインターフォンで連絡が入りました。

ここから先は

1,556字

¥ 280

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?