番外編8「手水舎にて」第3話(全5話)
番外編史上最高に危機感が高まってます。(今回の文章量:文庫ほぼ見開き)
「ご遠慮なく授与所へどうぞ」
絞り出すように言った俺とは対照的に、雫の口調は淡々としていた。酔っ払った三人組は、いまにも雫の胸ぐらをつかまんばかりの勢いなのに。
参拝者たちは、見て見ぬふりをして通りすぎていく。階段を上って境内に足を踏み入れるなり、踵を返す人もいた。
雫は完全に、孤立無援だ。
身長が150センチ前後しかない雫に対して、三人組はそろって大きい。そのせいで、猛犬三匹に嬲られる子猫を思わせた。
本当に、雫を残していいのか? 迷いで胸が締めつけられ、息苦しくなる。
でも、仕方ないんだ。俺がこのままここにいても、やれることはないんだから──懸命に自分に言い聞かせ、雫に背を向けた瞬間だった。
「待ってください、壮馬さん」
やっぱり心細いのか? でも俺が残ったところで、できることはないんだ。早く行かせてくれ……! 歯を食いしばりながら振り返ると、雫は俺の目を真っ直ぐに見上げて言った。
「警察も呼ばないでくださいね。これは、わたしの仕事なのですから」
こんなときにまで責任感を見せるなよ……っ!
いまや三人組の怒りは、頂点に達している。胸ぐらをつかむどころか、雫に殴りかかってきたとしてもおかしくない。
パニック寸前の恐怖に駆られながら、俺は雫に背を向けて、全速力で走り出した。
一人にしてごめん、雫。情けなくて自分が嫌になるけれど、できることがなにもないのだから仕方がない……なんて、ただの言い訳だよな。本当に、ごめん。
でも「できることがある」状態で、すぐに戻るから!
朝から強い風が、俺に向かって吹きつけてきた。人生最高速度で走ってそれを突っ切り、授与所を駆け抜けて奥の事務室に突入し、「それ」を手に雫の傍に戻る。
「と……とっておきのものを……持って……きました」
心臓がこわれそうなほど膨張と収縮を繰り返す中、肩で大きく息をしながら、俺はなんとかそう言った。
「どうして戻ってきたんですか。教育係のわたしの指示に──」
冷たい瞳で俺を見据える雫を手で制し、動悸による眩暈と吐き気を強引に抑えつけ、「それ」を掲げる。
その瞬間、三人組の眉間にそろってしわが寄った。
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