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番外編8「手水舎にて」第1話(全5話)

手水舎の蘊蓄回。(今回の文章量:文庫見開き弱)

 今日は朝から風が強い。境内に生えた背の高い樹々の枝は大きくしなり、葉がざわざわ音を立てている。
 そんな中、雫は一本に束ねた黒髪を左手で押さえながら、いつものように愛くるしい笑顔を浮かべて手水舎【ちょうずや】の傍にいた。

 小柄な雫を見下ろすように立っているのは、プロレスラーのように隆々とした体格の、大柄な白人男性三人。

「手水舎の傍で外国人と話す雫」は、この神社でよく目にする光景だ。

 手水舎というのは、鳥居から社殿に行くまでの間に設置された、柄杓で汲んだ水で手や口を清める場所である。参拝者はここでお清めをしてから、社殿にお参りするのが作法だ。
 ちなみに、昔は近くの湧き水や川でお清めしていたが、不便なので境内に手水舎が設けられたとも言われているらしい。

 いまは手水舎自体がない神社も珍しくないし、あったとしても水が張ってなかったり、身体によくないので、口を注ぐ「ふり」だけを推奨する神社もある。いずれにせよ、日本人なら手水舎について「きれいにする場所」くらいの認識は持っている人が多いだろう。

 一方で、外国人には、手水舎の存在意義を理解してもらえないことが多い。具体的には、水飲み場と思われたり、うがいをされたりすることがあるのだ(気持ちはわかる)。

 源神社は、横浜・元町にある観光名所という性質上、こういう勘違いをする外国人観光客が頻繁に現れる。源神社の水は飲んでも身体に害はないが、もちろん、放っておくわけにはいかない。

 そういうときは、雫の出番だ。いつも外国人観光客に、堂々と、英語で手水舎の役割を説明する。大抵の相手は、これですぐに納得してくれる。

 いま雫が話をしている三人組は、柄杓を使って手水舎の水を飲もうとしていた。それを見た雫は、俺に授与所で待つよう言って、一目散に手水舎へと駆けていったのだ。

 雫の説明を受け、外国人たちはいつものように納得して──。

「○※▲×■!」

 え?

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