番外編9「最終章」第3話(全4話)
このノリの話もあと2回で終わりかと思うと、ちょっとさみしい。(今回の文章量:文庫見開き)
お待ちなさい──こんなドラマみたいな言葉を言われたのは、生まれて初めてだ。
そもそも、かけられた人の方が少ないんじゃないか?
雫は箒を社殿に立てかけると、戸惑う俺の袖を引いて歩き出した。俺は、されるがままに連行される。雫の足がとまったのは、楠の木陰、ワンレンさんと茶髪さんからは見えない位置だった。雫が俺を見上げる。
その顔を見た瞬間、俺の戸惑いは大きくなった。
「なにを怯えているのです?」
「べ……別に……怯えているわけでは……」
ごまかす俺に、雫は言う。
「そんなにまごついていては、あの女性たちを案内できませんよ」
「案内してもいいんですか?」
「当たり前です。どうしてだめなのですか?」
「それは……」
答えられないでいると、雫は一つ息をついて続ける。
「宮司さまや壮馬さんだけを目当てに参拝いただくのは、あまりにもったいないです。いい機会だから、この神社の由緒を教えてあげてください。義経公が祀られるようになった経緯なら、壮馬さんも説明できるでしょう」
「それくらいなら、まあ、なんとか……」
歯切れの悪い答えしか返せない俺に、雫は励ますように言う。
「しっかりしてください。壮馬さんなら、きっと大丈夫です」
〝そういう問題ではない〟のだが……。
「さあ、行きますよ」
促され、俺たちはワンレンさんと茶髪さんのところに戻った。
彼女たちの視界に入った途端、雫は、俺と話していたときとは表情を一変させる。
「お待たせしました。坂本は見習いでまだ不慣れではありますが、喜んで案内させていただきます。お好きなだけどうぞ」
雫が言い終える前に、ワンレンさんと茶髪さんはあとずさった。
その顔は、引きつっている。
雫が怪訝そうに首を傾げるのと同時に、二人は早口に話し出す。
「や……やっぱり、いいわ」
「またな、壮馬くん」
それだけ言うと、逃げるように境内から出ていってしまった。
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