番外編9「最終章」第2話(全4話)
第1話はこちら
壮馬と栄達は目許が似ているらしいけれど、番外編なので本編とは無関係ということで←作者とは思えないアバウトっぷり。(今回の文章量:文庫見開き強)
壮馬くん推し──耳慣れない単語に戸惑いながら、俺は問う。
「宮司のファンはやめたんですか?」
「そんなはずないでしょ。いまも栄達さんは、私たちのアイドルよ。スマホの待ち受けにもしているわ」
「アタシなんて、今日も栄達さんの夢を見たよ。夢の中とはいえ、あんなことを言ってくれるなんて。マジすてき」
「断っておきますけど、宮司は結婚してるんですからね」
うっとり顔でため息をつく茶髪さんを見かねて言うと、二人は『そんなの、わかってる』と、声をそろえて返してきた。
「愛妻家なところも、栄達さんの魅力なのよ」
「栄達さんと琴子さんには、ずっと幸せでいてもらいたいよな」
「どう見ても二人とも、いまも宮司のことが大好きですよね? なのに、ファンをやめるんですか?」
「だから、ファンをやめたわけじゃないの。でも栄達さんは、ライバルが多すぎるわ」
「これ以上お近づきになるのは難しい。でも壮馬くんなら、誰も目をつけてないだろ」
「そんな理由ですか」
つい苦笑する俺に、ワンレンさんと茶髪さんは慌てて首を横に振った。
「ごめんなさい、言い方が悪かったわ」
「もちろん、それだけじゃないよ」
二人によると。
俺は一見、ガタイがよすぎてこわいが、話したらまじめで丁寧だし、顔もよくよく見たら兄貴に似ていなくもない。目許は特に、兄貴に近いものを感じる。だから、これからは俺のファンになることにした──らしい。
「というわけで、今日はこれから境内を案内してほしいの」
ワンレンさんがはにかんだ顔で見上げてくるが、俺は先ほど以上に戸惑っていた。
女性にこんなことを言われて悪い気はしないが、境内の案内を頼まれても困る。俺は信心ゼロの雑用係だ。社殿の建設年や神事の由来など、詳しいことはわからない。
ただ、ついさっき雫に、参拝者に気持ちよく参拝してもらうために「努力します」と言ったばかりだ。なんとかするべきか。雫の力を借りず、一人で……。
「そういうことなので、雫さん。掃除をお任せしていいですか」
覚悟を決めて、俺は雫に言った。当然、「どうぞ」と返されると思ったが、雫の口から飛び出した言葉はこれだった。
「お待ちなさい!」
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